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眷属

 シュウに連れられてやってきたのはダンジョンだった。

 数あるダンジョンの中でも、比較的人気がなく、デフォルトなので夜で闇に紛れやすい。さらに広くて身を隠しやすいダンジョンなのだという。


 朽ちた村。それを取り囲むように広がる荒野には、所狭しと十字架が立っている。


 うん。墓場だ。


「シュウ、怖い」

「だろ。人気ないんだよ。ほら、出たぞ」


 墓場の暗闇に、いくつもの影が揺れている。スケルトン、マミー、ゾンビ……アンデッド祭りだ。


「シャモア、アンデッドは全部火弱点だ」

「分かった」

「スケルトンは打撃に弱く、マミーは斬撃に弱い。ゾンビは最後聖水でトドメを刺さなければ復活する。大体レベル90だ」


 シュウのアドバイスに沿って、私たちはバトルをしながらダンジョンの奥を目指した。HPを盗むのはやめておいた。何となく、呪われそうで怖いから。


 数回バトルをこなしたところで、シュウが困惑気味に訊いてきた。


「みんなめちゃくちゃ強くなってるけど、この二週間何してたんだ?」

「素材集めだよ。採取や雑魚もだけど、賞金首も結構戦った」


 別に変わったことはしていない。レベルが三ほど上がった分、強くなっただけだと思う。

 シュウは納得行かなそうに、考え込んでいたが、しばらくすると頭を切り替えたみたいで、墓場に視線を戻した。


「お。リディス、アレが普通のワイトだぞ」


 長い黒髪。ボロボロのメイド服を着たアンデッドが、足を引き摺るように近づいてきた。落ち窪んだ眼窩も、だらしなく開けた口も、吸い込まれそうなほどに暗い。


「何あれ! 嫌よ、気持ち悪いわ! 私あんなんじゃないわよね?!」

「だ、大丈夫。全然違うよ。アレどう見ても死んでるでしょ」

「動いてるじゃない!」


 確かにアレは不気味すぎる。美意識の高いリディスには耐え難いだろう。でも本当に似ても似つかない。リディスは普通に美人だし、おどろおどろしさも皆無だ。


「リディスはクイーンだからかな?」

「どうだろうな。ワイトクイーンなんてベル・ウェスにいないと思うぞ。少なくとも俺は聞いた事がない」


 シュウが聖属性魔法でサクサクアンデッドを倒しながら言った。シュウは進化が終わるまでは、問答無用で寄生させる気満々だ。流石に事が事なので、誰も文句は言わず、有り難く寄生させて貰った。


 それでも頼りっきりは嫌なので、出来る限り役に立とうと奮闘した。


「やだっ! ワイトなんか投げてきたわ?!」


 ワイトが泥のような、体液のようなドロドロを投げてきた。それが当たった箇所が急に重たくなる。


「それ当たった所から呪われるぞ。全身呪われる前に倒さなきゃ死ぬからな」

「嘘?! 回復は?」

「回復アイテム『解呪の雫』を作るために、アンデッドのドロップがいるからな。今は頼ってくれ。ディスペルA!」


 シュウの魔法を受けると、重たかった足が軽くなった。

 礼を言っていると、リディスが不愉快そうに眉根を寄せた。


「私、当たっても何ともないんだけど?」

「あー……アンデッドだから?」

「じゃあ投げなくていいじゃない! 無駄に服が汚れるのよ! もう怒った!」


 リディスはビシィっと人差し指を一体のワイトに突きつけて、ふんぞり返った。


「あんたね! 私はクイーンなのよ! たかがワイトが誰に向かって泥投げてんの? 平伏しなさいよ! 崇めなさいよ! 軍門に下りなさいよ!」


 リディス……。軍門なんて、ないからね。落ち着いて。今の姿、めっちゃ闇の女王っぽいよ。


 と、生暖かい目を向けていると、びっくりする事が起こった。リディスに指さされたワイトが、本当に跨いだのだ。


「は?」


 リディスも一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに納得した顔になった。


「新スキルの【眷属化】ね。ふうん。こうなるんだ。お前、隣のワイトを攻撃しなさい」


 命令するや否や、ワイトは隣にいた同胞に襲いかかった。ワイトがワイトに噛み付いている。物凄くシュールな光景が繰り広げられた。


「やるなリディス。死霊術師(ネクロマンサー)か。ここじゃ最強じゃないか」

「死霊術じゃないわよ。眷属化と言って頂戴」


 シュウに褒められて嬉しそうだけど、死霊というワードが不満のようだ。実際、眷属化出来るのがアンデッドだけなのか、他の全てが対象なのか、検証する必要がある。


 それにしても。

 リディスは事あるごとに、色んな人に「下僕にしてあげる」と言っていたが、まさかこんな形で伏線を回収するとは。もう立派なご主人様だ。


 リディスのワイトが頑張ってくれた事もあって、ワイトの群れはすぐに殲滅できた。残っているのは共に戦ってくれた一体だけになった。


 そこで私たちは頭を抱えてしまった。

 眷属化したモンスターの扱いについてだ。


「リディスー。コレ、どうするんさ。倒さないとバトル終わらないぞー?」

「そりゃ分かってるけど」


 ワイトはリディスの前で跪いている。次の命令を待つ犬のようだ。コレを攻撃するのは流石に心が痛む。


「やるしかないだろ」


 シュウが呆れた風に言った。


「分かってるわよ。……はぁ、参ったわ。素敵な能力と思ったのに、飛んだ落とし穴だわ」


 私はつつっと前に出て、ワイトの木の虚のような眼窩を見つめた。


「あなた、本当に自我はないの?」


 ワイトは無反応だった。試しにリディスにも同じ質問をしてもらったが、結果は変わらなかった。


「リディス、眷属化を解いてくれ。俺がやるから」

「シュウ……。ありがと」

「うん。神の国の人間は、こういうの平気だから」


 眷属化を解くと、ワイトは豹変して襲いかかってきた。

 シュウがサクッと倒してくれたけど、これリディスのトラウマにならなきゃいいなと思った。

 折角強力なスキルなのだから、有効活用出来るようにしたい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一章がウソのようにすっごく強くなってるようで安心です^_^ 草原と言わず、ぜひ墓場ダンジョンのラスボスになって頂きたい。眷属で陽動と盾を兼ねれば安心感も増しますし。 そしてプレイヤーを狩…
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