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リディス人形

 火口から離れて外に出ると、辺りは暗くなっていた。


「今日はここまでだなー」

「だな。フィールド制覇が間に合って良かった。俺、明日から暫くインできないから」


 シュウが物凄く嫌そうに言った。


「会えないってこと?」

「ああ、リアルの用事があってな。二週間くらい来れない」

「そんなに?!」


 シュウはいつも私達が朝拠点を出る頃にはやってきて、ほぼ一日中いっしょにいる。夜は拠点に入らずに別れるけれど、寝る前にフレ欄を確認してもまだベル・ウェスにいる。

 多分深夜から明け方までは神の国に戻っているのだろうけど、もう殆どベル・ウェスに住んでいると言ってもいいくらいだ。


 そんなシュウが二週間もベル・ウェスに来ないなんて、初めてのことだ。


「神の国で何がトラブルがあったの?」

「いや、……まあ神様も色々あるんだよ」


 心配ではあるけれど、シュウは嫌がってはいるけど困ってはいなさそうだ。

 私に手伝えることならいいのに。

 そう思っていたら、逆にシュウから心配された。


「俺がいない間、気をつけろよ。出来るだけ広くて身を隠しやすいフィールドで遊ぶんだぞ。気配探知は常に貼っておけよ」

「分かってる。シュウのいないところで死なない。約束するから安心して」


 シュウは一人一人とハグをして、帰っていった。


「寂しい」


 シュウの去った後を見ながら、シャモアがぽつりと漏らした。

 シャモアはすっかりシュウに懐いている。ノアを重ねているのかもしれない。


「シュウのいない二週間で、思い切り強くなって、帰ってきた時にビックリさせてやろう」

「そうね。二週間あればレベルも二つくらいあげれるし」


 私達は気持ちを切り替えて拠点に入った。



――――――――――


 

「ブランの創造(クリエイション)って、壁とか檻とか礫しか作れないの?」


 食後、拠点のリビングで、私はこっそりブランに話しかけた。


 ブランの穴掘りのスキルは相当上がって、今では拠点は1LDKになっていた。個室は主にリディスの寝室だ。本当はみんなの寝室なのだけど、リディス以外はリビングでごろ寝する習慣から抜け出せなかったのだ。


「どうだろ。やった事ないからなー。何か作って欲しいもんがあるのか?」

「うん。リディス人形」


 もうすぐリディスがレベル60に上がる。目覚めし者で最初に60の大台に乗るのだから、お祝いがしたいと思っていた。


「いきなり複雑すぎるさー」

「でも見慣れた形だから、想像はしやすいでしょ。取り敢えずやってみてよ」


 こそこそ話していると、シャモアが立ち上がった。


「リディス来ないように、気、引いておく」


 シャモアにあるまじき、気の利いた台詞を残して、さっさと寝室に歩いて行った。

 シャモアに気を引くなんて芸当が出来るとも思えないが、気持ちは有り難く受け取っておく。ノアの一件依頼、シャモアには積極性が生まれていた。良い傾向だと思う。


「創造」


 ブランが唱えながらちょんと人差し指で地面を突くと、ポコポコっと土が盛り上がってきた。


 丸っこいフォルム。三頭身の雪だるまならぬ、土だるまみたいな物が現れた。


「これはこれで可愛いけど」

「リディス姐さんはもっと細いでござる。あと手足が必要でござる」

「うーん。感覚が難しいさー。創造、細くなれー」


 試行錯誤を末、十センチくらいのリディスそっくり人形が出来た。


「なんとかなるもんだな。でも土だから長持ちしなさそうだな」

「折角上手に出来たのに、それは寂しいね」

「うーん」


 そう言うと、ブランはブツブツ独り言を言い出した。


「岩も作れるもんな。んじゃ大理石も出来るんじゃないか。お、出来たな。後は羽は透明感が欲しいから……。ガラスか? ガラスも土から出来るもんな。お、出来た。そっか、土も鉱物だから、鉄とかもいけるんじゃね? いや、それ言ったら宝石もそうだよな。目だけエメラルドにできねーかな。マジかー、出来たー、これ便利なスキルだなー」


 ブランの手によって、リディス人形が白い体に透明の羽、緑に輝く瞳を持つ、豪華なものに大変身した。

 なにこれ?! 高そう!


「国宝とかになりそうなんだけど」

「大袈裟さー。ただの大理石だぞー。疲れたさー。素材を錬成するのはごっそりMP奪われるぞー」

「と、いうか、でござる」


 と、頭脳派モスが曲げた指を口元に当てて、探偵みたいに目をキランと光らせた。


「ブラン殿の知識は鉱物に偏っていたのでござるな。……ブラン殿、もしかしてダイヤソード、自作出来るのではござらんか?」

「!?」


 さすが頭脳派!

 い、いやいやいや。そんな都合のいい事ある?

 それじゃ素材集める必要なくなるじゃん。ミスリルダガーだって出来ちゃうよね。え? え?


「……上位の素材になればなるほど、体力もMPも消耗が激しそうさ。それを武器くらいの大きなサイズで作るのは無理さー」

「ではアイアンソードではどうでござる? 鉄だから下位の素材でござる。一先ず検証してみるべきでござるよ」

「うーん。ダガーでいいかー?」


 私は参考になるように、アイアンダガーを取り出して、ブランの前に置いた。ついでにMPポーションも。


「創造!」


 出来た。

 出来ちゃった。


 でも全く同じではない。持ち手の部分まで鉄で出来ている。


「やっぱりすげー疲れる。ほい、アオ、使ってみるさー」


 私はアイアンダガーで、転がっていた岩を斬った。


「……斬れたね」

「……だな」


 私は手元のブラン製アイアンダガーをじっとみた。


「あ」


 これ、駄目だ。

 当然ついている筈の、ステータスがない。

 普通武器にはSTRやVITなんかの補正がついている。武器が強くなると言う事は、このステータス値が高くなっていく事だ。

 でもブラン製だとステータス値はゼロ。これじゃ鉄製の置物と同じだ。


「そんなに甘くはないか」

「で、ござるな。残念なような、嬉しいような、複雑な気持ちでござる」

「モス、ノアに似てきたね」


 武器への愛着がなくなる、ノアならそう言いそうだ。


「小生もブラン殿やアオ殿のような使い方の広がるスキルが欲しいでござるよ」

「モスは攻撃や耐性ばかりだもんね。全てバトルで役に立つやつ。強さを求める気持ちが強い結果だよね」

「そこもノア殿に似ているでござるな。そう考えると誇らしくもあるでござる」


 とにかく、ブランの『創造』には沢山の可能性がある事が分かった事は収穫だ。


 一番の収穫はリディス人形。


 二日後、無事レベル60になったリディスのお祝いを盛大に行った。

 私は沢山の料理を作ったし、人形はとても喜んでもらえたし、マザーハウスの時以来の、大パーティになった。


 大型を狩ったり、レベル60からの新装備を作ったり、そんな事をしながら、忙しく二週間を過ごした。

次は月曜日に更新します。

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