転移クリスタルのレシピ
シュウが戻って来るのを、私たちは転移クリスタルで出迎えた。
オーブンは想像していたよりも大きくて、一メートル四方くらいある。改めてだけど、こんな大きな物が入るなんて、マジックバッグは優れものだ。
「全然駄目だな。知らない素材ばかりだぞー。ミスリルに炎の大結晶」
「炎? 火じゃないんだ」
「炎だ。それは火竜の素材だな」
ファイヤードラゴン! ドラゴンなんて私達モンスターの頂点に君臨するお方じゃないですか。それを倒すの? そんな事できるの?
「今のアオ達じゃ無理だな」
「シュウは余裕で倒せるの?」
「俺じゃなくても、そこそこのレベル99なら一人で倒せる」
一人で?!
私達の頂点って、プレイヤーにとってはそんなもんなの?!
今までレベル99になれば、プレイヤーに怯える事なく生きていけると思っていたけど、ドラゴンでそんな扱いなら、レベル99のウサギなんて一撃じゃないのかな。私達に平穏な日々なんてやってくるのかな。絶望だ。
「なんで落ち込んでるんだ」
「先行きの暗さに目眩が……」
「オーブンの素材くらい、俺が出してやるけど」
シュウは私の落ち込んでいる理由を、オーブンへの道のりの長さだと勘違いしたみたいだった。
「それも矜持が許さないか?」
「ううん。全然許す。寧ろ大歓迎」
強さにつながる物じゃなくて、これは生活の質を上げるだけのものだし、私としては問題ない。でももしかするとノアはいい顔しないのかな、と心配になった。
「ブランはどう思う?」
「心配ならノアに聞いてみろよ。多分尻尾振って喜ぶぞ。美味いんだろ、グラタン」
「グラタンか。オーブンの素材代に俺も食べていいか」
「勿論だよ。もっとちゃんとしたお礼が出来ると良いんだけど」
「ちゃんと貰ってるから気にするな」
シュウはそう言うが、何一つお返しできた事なんてない。首を傾げていると、シュウが笑った。
「アオ達といると不思議な事ばかりで楽しいからな。神の国では娯楽に金を使うもんなんだ。充分なリターンだから気にするな」
「そんなに不思議?」
「ああ。例えばさっきの、触るだけでレシピが分かるのも、なんだそれって感じで面白いし」
ブランが名指しされた気がしたのか、髭をピクンと動かした。そして胸を張る。
「ふふん。面白いかー。何でも触れば分かるぞ。この転移クリスタルだって、俺様の手に掛かれば解析完了だぜー」
ブランは得意げに転移クリスタルをポンポンと叩いた。
「は?」
「そこいらに立ってる小屋だってリディスがレシピ入手済みだぞー」
「は? そんなものクラフトで作れるのか?」
「俺たちは素材が足りないから無理だけど、シュウなら作れるんじゃないか?」
「……なんだ、そのデタラメな能力は」
シュウがガシッとブランの肩を掴んだ。
いつもシュウはのんびりした表情なのに、がっついている姿にビックリした。
「レシピ教えてくれ!」
「お、……おお、いいぞー」
「材料揃えてくれば、ブラン作ってくれるよな」
「そりゃ、作ってやるさー」
ブランはステータス画面を開いて、素材名を読み上げた。
「えっとな。ミスリルのインゴット八十。オリハルコンのインゴット六十。炎のクリスタル、氷結のクリスタル、疾風のクリスタル、大地のクリスタル、雷鳴のクリスタルがそれぞれ三十五個。古竜の逆鱗十七。魔導の真核二十。転移結晶一つだな」
聞いた事もない素材の羅列で、最早呪文みたいだ。
でもオーブンの素材を、事も無げにくれるくらいだから、シュウなら簡単に作れるのだろう。と思っていたのに、シュウは顔を顰めた。
「流石にエグいな。それに転移結晶って何だ。初耳だ」
「シュウでも知らないの?!」
「古竜は今回の新ダンジョンで初めて出てきたから、転移結晶はまだ実装されてない素材だろうな」
トップランカーであるシュウでも知らない事があるなんて、ビックリだ。落ち込んでいるかなと思っていると、予想に反してシュウは口角を上げた。
「ははっ。まだまだベル・ウェスは先が長いんだな」
ワクワクしている様に見える。
「嬉しいの?」
「そりゃそうだろ。まだやる事があるんだぞ」
ほんと、神の国は暇そうだ。
その夜は念願のグラタンを作った。
シュウのリクエストで、シュウの分はミートソースグラタンにした。
これはもともとあるレシピではなく、オリジナル料理だ。美味しいのか不安だったけど、シュウは大喜びで食べてくれた。
ただ残念なことに、オリジナル料理にはバフの効果はなかった。




