乳製品
ブランの優しさを改めて噛み締めた日の夜、みんなで美味しくステーキを頂いた。
食後、各々次の日のクラフトをしている間、私は新しい調味料の作成にチャレンジする事にした。
シェーカーにミルクを入れる。
そして、振る! これでもかってほど、振る! 振る!
力一杯振るのは、意外と全身を使う。私は楽しくなって、踊り出した。いえーい! シェイクシェイクだぜー!
最初はパシャパシャとミルクの揺れる音が聞こえていたが、次第に無音になった。ここで手を緩めてはいけない。更に追いフリフリだ!
みんなが関わってはいけない人を見る目つきをしているけど、気にしない。いえーい!
「はぁ…はぁ……。出来た」
シェーカーをあけて、上澄みの黄色い液体を捨てる。
すると中には、淡い黄色の固形物が残っていた。
「斬新な調理法でござったが、それも食べ物でござるか?」
「うん。食べ物というか、調味料なんだけど。ここに少しの塩を加えて……出来上がり!」
私は完成したバターを、テッテレーという感じで高く持ち上げた。
「風味とコクが豊かな油って感じかな。明日の朝はホットケーキにしよう」
「楽しみでござる」
今度は鍋にミルクをはり、塩を少し入れて火にかけた。
「それは?」
「チーズ。ほとんどバターと同じ材料で出来るんだ」
鍋がくつくつしてきたところにレモン汁を足していく。
「おお。固まってきたでござる。魔法のようでござるな」
「ほんとだねー。あとはこれをこして、水を切ったら出来上がり。はい食べてみて」
出来上がったほかほかのチーズを、小さくちぎって二人で試食してみた。
「はぅん。美味しい。ミルキーでクリーミー!」
「これは……よく分からないでござる」
「そっか。モスは濃い味が好きだから」
こんなに美味しいのに、残念だ。
でもチーズの真価は加熱してこそ発揮される。明日の夜はチーズハンバーグを作ろう。きっとモスもこの美味しさに蕩けるはず。
明日の献立を考えていると、横から手が伸びてきた。三本も。
「うん。美味いな」
「これは女子向きの料理ね」
「これサンドイッチに挟んで食べたいぞー」
何故か期待を込めた目で見てくる。
あの、さっきステーキ食べましたよね? 一人三枚も。
「……簡単なものでいい?」
「何でもいい!」
私はパンを小さく切って、少し焼いた。
その上に、ハムとチーズを乗せて溶かしたバターを垂らした。
「カナッペ。ワインにあうんだって」
「ワインって何だ?」
「お酒だね。まだ作れないけど」
私も一つ食べようと手を伸ばした時には、もう皿が空になっていた。はやっ!
「一つくらい残そうよ!」
「俺は四つしか食べていない」
「計算できますか?! 十個しか使っていませんけど! ここには五人いますけど!」
リディスも言っていたじゃないか。これは女子向けだって。これは飲み物を片手にお喋りのお供に食べるものであって、お腹の空いたスペースを埋めるためにかき込むものとは別種なんだよっ。
「そんな事よりさー」
そんな事ってなんだ!
「明日からは、一体下拵えせずに残して欲しいんだけど」
「……良いけど、どうして?」
「俺も解体してみたくてさー」
ブランはのんびり頬をかいた。
「素材の重要性が分かったからな。もう一人ぐらい解体出来る奴がいてもいいだろ。下拵えはユニークスキルだから無理だろうけど、解体でも十分さー」
「分かった。最初は自分で血抜きしなきゃだから、ノアに手伝ってもらうと良いよ」
「ノア頼むー」
「承知した」
次の日から一体だけ残すことになった。
ブランだけでなく、みんな出来る方が良いだろうという事で、全員で順番に解体した。
そのおかげで餓狼の毛皮を集め終わり、水の大魔石の為のサハギンキング連戦が終わる頃には、ブランは無事にスキルを習得した。
不思議だったのは、スキルを獲得できたのが、ブランとシャモアだけだった事だ。他の三人はどれだけ解体してもスキルが発現することはなかった。
ノアの推測によると、ユニークスキルが一人だけのものと決まっている様に、レアなスキルにも保持者の上限があるのではないかという事だった。
素材も稼げたが、ボス連戦は経験値を稼げた。ノアは49、リディスは40になり、私たちは33に、ブランも28になった。




