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捨て身の

 これは無理だ。


 溢れ出して来た蜘蛛を見て、私は弱音ではなく冷静にそう判断した。シャモアがアラクネを受け持ってくれた。そのお陰で蜘蛛に専念できているのに、それすら捌き切れない。なにせ一体一体が赤目ゴブリンより上なのだから。


 私に向かって来た蜘蛛は三体。合計二十四本の脚から繰り出される高速の攻撃。


―――見える。


 ちゃんと動きは目で追える。高速訓練の成果が出ている。それなのに、身体が付いていかない。今は何とか避けれているが、すぐに限界が来るだろう。これがAGI75の限界なんだと悟る。


 少し離れた場所でモスが三体に囲まれている。私よりAGIが低いモスなら、瓦解するまでの時間はもっと短い筈だ。


 とてもじゃないが、三十秒は持たない。いや、後二十秒か。それでも無理だ。


 シャモアだって、アラクネには遠距離攻撃があるとシュウが言っていたのだから、安全とは言えない。本当なら空を飛べるシャモアは、小蜘蛛と相性が良い。シャモアが小蜘蛛を半分引き受けてくれればと思わずにいられない。

 だがそのシャモアがアラクネを手放せば、私達は数秒で終わるだろう。この忙しない小蜘蛛の応酬の中、アラクネに対応するなんて不可能だと思えた。


 リディス達を残して来て正解だったと言う想いと、こんな所で死ぬもんかと言う意地が交差する。


 何か他に手はないのか。

 他に、私に出来る事は何か。


 頼みの綱はさっき見た、シュウの大魔法メギドだけだ。

 青白い、落雷のような光の矢が、魔石を正確に貫いていた。

 凶悪で鋭利な魔法。


 鋭利な。


「あった」


 頭にメギドの映像が流れた時、私は今何をすべきかが分かった。


 攻撃を避けながら、ダガーを腰に戻す。

 そして大地を蹴る。


 目指すはアラクネの背中、ただ一点。

 私は蜘蛛を引き連れて全速力で走った。


 届け、届け、届け―――!


 アラクネの血管が赤く光り出した。


 蜘蛛を踏み台に、私は高く跳躍する。瞬間放たれる魔素集波の紫の光が視界を奪う。私は光を押し除けるようにアラクネの背中にしがみつき、力の限り叫んだ。


烏兎匆々(うとそうそう)! 十倍速!」


 瞬間、世界が一変した。


 全てが物凄いスピードで流れていく。私とアラクネだけをこの時間の流れに残して。

 早送りされる景色の中に、速度を落とした魔素集波からシャモアが無事に逃げ出すのが見えた。


 二十秒を二秒に圧縮する奇策。


 アラクネは、背中の私を振り落とそうと暴れ出した。私は必死にしがみつく。


 周囲には、先ほど引き連れて来た蜘蛛がまだいる。今振り落とされてしまえば、十倍速の蜘蛛の中に放り出されてしまう。コンマ一秒で昇天だ。


 必死に食らいつきながら、私は祈った。


 シャモア! 早く気付いて小蜘蛛を引き受けて!


 私にとっては二秒でも、ノア達にとっては二十秒なのだ。

 いくらアラクネを私が引き受けていても、このままではノア達はもたない。


 長い。


 二秒ってこんなに長かっただろうか。


 永遠にも続くような時間の中で、固く目を瞑って、私はひたすらに祈った。


 どうか二秒後、みんなが生きていますように。

 どうか、また会えますように。



――――――――――



「おい。目を開けろ」


 ノアの声で我に返った。

 見回せば絶対時間の中。アラクネの屍にしがみついている私を三人が囲んでいた。


 三人。ボロボロだけどちゃんと全員揃っている。


「無茶しすぎでござるよ」


 差し出されたモスの手を取り、アラクネから下りる。


「メギドがピンポイントの鋭利な魔法だったから。私がくっついていても支障はないかと思って。みんな無事だったんだ。良かった」

「シャモアが四体釣ってくれたおかげでな」

「俺、頑張った」


 どうやら私の意図はちゃんと皆に伝わったようだ。

 なんかいいなこういうの。仲間って感じ。


 そこで一人足りないことに気が付いた。


「あれ? シュウは?」

「シュウ殿は絶対時間には入れないでござるよ」


 シャモアが指さした先には、虹色のシャボン玉の外に立つシュウの姿があった。キョロキョロしているところを見ると、シュウからこちらは見えていないようだ。


「急いで戻らないと申し訳ないでござるよ」

「このまま消えても、良いと思う」

「シャモア、それは人でなしの台詞だよ」


 あれだけ頑張ってくれた人にお礼も言わずに消えるのは有り得ない。


「でもイーグル、見られた」

「アオも思いっきり喋ってたしな」

「もうテイマーとは勘違いしてくれないでござろうな」


 少なくとも私とシャモアは、疑いの目を向けられるだろう。

 目覚めし者だと言って、信じてもらえるのだろうか。

 それ以前に、モンスターだと分かった途端、魔法で瞬殺されたりしないんだろうか。


 考えれば考えるほど、頭が痛くなってきた。


「でも、このまま逃げるのは小生はしたくないでござる」

「それは、同意する」


 皆で視線を合わせたあと、頷きあった。


「状況次第で逃げよう。絶対時間を使えば逃げ切る事は可能だからな」

「そうだね。まずはお礼を言わなくちゃ」

「戻ろう」


 私は背後の巨大なアラクネを見上げた。


「その前に、解体だけさせて」


 だって、こんな格上のモンスターが落とすアイテム。根こそぎ欲しいじゃん。

以前「烏兎匆々の使い方、それじゃないでしょ!」というコメントを頂いた事があったのですが。

その時「そうなんです!流石です!近いうちに本来の使い方に気付きます!」と返信したかったのですが

ネタバレになると思って、ぐっと我慢しました。

やっと言えましたー!

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりそういう使い方ですよね! 正直、それでもやられるんじゃ無いかと不安でしたが…(^◇^;) あとはシュウ殿をいかに籠絡…いや説得できるかですね笑
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