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過去と未来と〜ノア視点

 みんなが寝静まった後、俺は一人でクラフトをしていた。


 ドロップで入手した革は、すでにナメシまで終わって、すぐに加工できる状態のものだが、アオが解体で手に入れる物はまだ毛も脂も付いている。


 手間が余計にかかって面倒だ。だがこの革を使うようになって、俺は新しいスキル『なめし』を獲得出来た。


 スキルでなめした革は、通常よりも性能が高くなる。今はレベル1なので得られるボーナスは『DEF+5』だが、今後レベルが上がれば更に性能も上がるのだろう。

 それもアオの思い付きのおかげだ。


 本当にアオは予想外のことをする。


 解体し出したかと思えば、一つしか選べないクラフターに調理師を選ぶ。『脱兎』という最強のスキルを持っているのに、自分は役に立っていないと考えている。


 不思議なウサギだ。


 思えば最初から物おじしなかった。それは『目覚めし者』としてはかなり異例だ。


「いや、モスもそうか」


 モスとの邂逅を思い出して、自然と頬が緩んだ。


「モスがどうしたの?」


 不意に声をかけられて手が止まる。リディスがニヤニヤしながらこちらを見ていた。


「起きたのか」

「寝付けなかったのよ。お陰で貴重な物が見れたわ。ノアの思い出し笑い」

「うるさい」


 リディスはパタパタと飛んでくると、空中にうつ伏せに寝転んだ。

 両腕を曲げて頬に当て、頭を支えている。


 不思議なことだが、リディスは床に寝転ぶのも空中に寝転ぶのも同じなのだそうだ。

 見ている側からすれば、床と並行に宙に浮いている様は、とても疲れそうに見えるのだが。


「で、モスがどうしたの?」

「いや、モスもアオも、最初から物おじしなかったと思ってな」

「そうね。あの二人を見ていると新世代って感じするわよね」

「だな」

「特にアオ!」


 同感だ。あんなに呑気な目覚めし者は会った事がない。

 ブランもリディスも、今でこそ明朗だが、最初は怯えてばかりで大変だった。かく言う俺もだ。周囲を威嚇してばかりだった。


「前は私が新世代って言われたのにね」

「……その発言、痛々しいぞ」

「ちょっと! そんなこと言う男はモテないわよ!」

「そんな事言う男はモテない、という女は大抵モテない説」

「え? そんな説があるの?!」

「いや、今作った」


 リディスが頬を膨らませて睨みあげてきた。

 こんなやり取りを懐かしく思う。

 前はカーマと三人でよくこんなバカ話をしていた。


 見た目はあの頃と変わらないが、たしかに俺もリディスも、随分と大人びた気がする。


「……今日はちょっと驚いたわ」


 リディスが嬉しそうに、しっとり微笑んだ。


「シャモアに攻撃された後。てっきりまたパーティを分けるものだと思ってたの。ノアもそのつもりだったでしょ?」

「まあな」

「でもあの子達、そんな事選択肢にもないような感じだったわ。……私たち少し過保護すぎたみたいね」


 実際、六人でのバトルでカンを掴んでいく方が良い。だが目覚めし者は自分のHPに過敏だ。あいつらはまだ、俺やリディスのようにHPに余裕がある訳でもない。味方に安心して背中を見せられない状況は避けるべきだと思った。

 何故ならシャモアの攻撃は、そこらの野良より装備の上乗せ分、高いのだから。


「自分達で考えて最適解を導き出した。……成長してるわ、あの子達」

「アオは最近変わったな」

「赤目に遭遇してからね。前は言われたことを素直に聞くって感じだったけど、今は自分で考えてる。どうやったら強くなれるのか、みんなの役にたてるのかって」

「死線を越えると人は変わるな」

「ほんとね」


 今まで何度も超えてきた。何人もの仲間を見送ってきた。

 過去の仲間と切磋琢磨しながら過ごした日々が、自然と思い出された。


「まあ、後継はちゃんと育ってるって事だな」

「引退前の好々爺みたいな顔しないでよ。まだ大事な仕事が残ってるでしょ」


 リディスが胸元の鍵を指さした。

 握るとひんやりと重たい感触がした。


「ああ。……次はお前だからな」

「嫌よ。ノアが最後の守護者よ」

「毎回そう言ってるぞ」

「あら、私本気よ? アオとブランがいれば可能だわ」


 リディスが腕組みをしてそっぽを向いた。


「気を緩めるなよ。いつだって別れは気を緩めた時にやってくる」

「不吉な事言わないで。口に出した事は現実になりやすいんだから」

「じゃあ、口に出そう」


 俺は寝入っている後輩たちをぐるりと見渡した。

 すやすやコロコロ、気持ちよさそうに寝息を立てている。


「俺はこいつらをレベル99の世界に連れて行く」

「じゃあ私も口に出すわ。私は神の国に行く。そんでもって思いっきりオシャレして、思いっきり男を侍らすの」

「俺は目覚めし者の村を作る。毎月武闘大会を開催するぞ」

「私の美貌に神の国はイチコロよ。みんなが列をなして貢物を持ってくるの。神の国の女神になってやるんだから」

「……」

「……」

「やめよう。相入れん」

「そうね。交わらないわ」


 夢は置いておくとして、明日からは新フィールドだ。

 ここからはブランもまともに歩いた事がない。

 知識があるのは俺とリディスだけになる。このフィールドで伝えておくべきことを考えまとめながら、俺はクラフトに戻った。

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