強くなるために
早朝のもふもふ同盟の特訓は、欠かさず続けている。
昨日の今日だし、今日はやめておこうかと言ったのだけど、ブランはやると言い張ったのだ。
「一日でも休めば、サボり癖がつくだろ」
脱力系でも、実は真面目なモグラなのだ。
脱兎のレベル上げが主目的なのだから、ブランが辛い時は付き合ってくれなくてもいいんだけど。と言ったら
「特訓で挑発のレベルを上げてたから、何とかノアの猛攻に耐えれたんだ。ちゃんと俺の特訓になってるぞ」
と、にかっと笑った。
「なんか、ブランってお人よしだね。いつもみんなのお世話してる」
「そうか?」
「拠点づくりだってそうだし、皆の武器もほとんどブランが一人で作ってるじゃん」
「そりゃ鍛冶師だからな。それが仕事さー。防具はノアがメインで作ってるしな」
レベルが上がれば、より強い装備に変更できる。
ここ数日でみんなのレベルが上がったから、進化組三人は装備を一新する。その為今日の午前中はクラフトに費やす予定だ。
特に武器は属性武器を一通り作ると、一人当たり五本必要になる。それが三人分。作るのも大変だし、素材も馬鹿にならない。
正直、コツコツクラフトをしているブランの丸い背中を見ていると、大変申し訳ない気分になってしまう。
「アオだってみんなのご飯作ってくれるだろ。持ちつ持たれつ、だよ」
「……そんな優しいブランに、大変言いにくいのですが」
私はもじもじしながら、昨日から考えてきた事を伝えた。
「私、二刀流になろうかと思うんだけど、どうかな?」
火力の無さを底上げするためには、もう一本剣を持てばいいんじゃない? そうしたら単純に攻撃力二倍じゃない? という安易な発想だった。
今の私は片手剣で、左手は盾を構えている。
でもこれって、ちゃんと攻撃を避ける事さえできれば必要ないんだよね。
私はAGIが高くてSTRはそこそこだから、ノアのように両手剣になるよりは、片手剣の両手持ちの方が向いていると思う。モスも言ってた。私は手数で稼ぐタイプだって。
ただその為には、武器も両手用必要になるわけで。
左右あわせて十二本を、ブランに作って貰わないといけない。
ブランに負担をかけてまで、やる効果があるのか分からないけど、強くなるためにやれる事は全部試してみたい。
「どうかな?」
手をぎゅっと握りしめて、真剣な気持ちで問いかけると、ブランは何てことない様に、ポリポリと頭をかいた。
「いいんじゃね?」
「でも武器作るの大変だよ?」
「あー。素材は足りなくなるかもな。でも集めるの手伝ってくれるだろ?」
「そりゃもちろん、私で出来る事はするよ」
「盾持ちの装備も一つショートカットにセットしとけよ。やばくなったら持ち変えれるように」
「分かった」
「じゃあ皆に報告しようぜ。シャモアも午後から新武器の検証するって言ってたし」
二人連れだって拠点に戻る。
背中にブランを乗せて、四足走行だ。最近二人での移動はこれが多い。
ブランも楽しそうだし、私も結構楽しい。二足よりスピードが出るし、なんというかモンスター感があって良くない?
「ん?」
茂みを走っていると、キラリと光る物が目に入った。
近づいてみると、金属でできた銀のプレートだった。三センチ×五センチくらいの小さなものだ。ところどころ、不思議な模様な描かれている。
「何だ?」
「分からない、でもキレイだよね」
単なるプレートだけど、やけに存在感があった。
なんか、ノアの持っている鍵に似ている。見た目じゃなくて、雰囲気が。
「ブラン、ちょっと触ってみて」
これがアイテムなら、金属だし、鍛冶師のブランが触ればレシピが入手できるはずだ。
「駄目。何にも起こらない。アイテムじゃないな」
「そっか」
私はなんとなく、プレートをアイテムバッグにしまった。
その様子を見て、ブランが肩を揺らす。
「なんか石ころ拾ってくるシャモアみたいだな」
「ほんとだね。へんな癖だなと思ってたけど、気持ちが分かったよ」
――――――――――
拠点に戻って、朝ごはんの時にみんなに報告すると、ノアは
「おー、やれやれ」
と嬉しそうに笑った。
「どうせしばらくはシャモアの練習のために、ヤーミカッタから移動しないからな。アオも慣れたこの森で、カンを掴むと良い」
「シャモアの新武器は何にするか決まったの?」
「まだ。色々試す」
飛行型だったシャモアは、今まで培ってきたノウハウを一から覚えなおさないといけない。武器だって、自分に合うものを選ぶ所からのスタートだ。
大幅な進化も大変だ。
「じゃあ、午後からは別行動になるのかしら?」
「だな。俺とシャモアは二人で行動する。パーティは六人で組んでおくがな」
「りょーかい」




