モスの進化
辺りが暗くなる頃、私達は拠点の中で光の繭を見つめていた。
最後の進化者、モスの進化を見届けるためだ。
「シャモアの光より小さいね」
「そうねぇ。仲間の進化はこの先しばらくないんだし、賭けでもしてみる?」
流石に四回目となると、ブランの時のようなお祭り騒ぎとは違って、落ち着いたものだ。
ちょっとモスには申し訳ない気がする。
「モスは水属性だし、サハギンとかじゃないか?」
「あー。サイズ的にはそんな感じかー」
「毛虫」
「もうそれいいから」
「拳を使うモンスターって何かな。コボルトとか?」
みんなが思い思いに予想を始めた。
私としては、モスの戦う姿が好きだから、出来れば二足歩行のSTRよりのモンスターでいて欲しい。
でもまあ、どんな種族でもモスならそれで良いんだけど。
「あ、終わるね」
光が収まった。
中から現れた姿に、暫し固まる。
「え?」
「マジか」
「はっ。これだから進化は面白い」
仲間の反応に、モスが戸惑ってたように冷や汗を流した。
「な、なんでござるか。そんなに変な物になったでござるか?」
「いや、変じゃないよ。ただ……ちょっと驚いただけ」
モスは、可憐な女の子になっていた。
身長百五十センチくらい。
緑の髪を高い位置で結んで、鱗のような軽鎧を付けている。華奢だけど健康的な少女。耳の上に小さな巻角がある他は、ぱっと見、人間にしか見えない。
「モス、女」
「はて。小生は雌でござったか」
モスは視線を下げて自分の姿を確認する。足に触れ、頬に触れ、そして胸を鷲掴みにすると、不愉快そうに眉根を寄せた。
「邪魔でござる」
いや、喜ぶ所でしょ! 有り余るサイズです!
「いいじゃない。女の子なら大きいに越した事ないわ」
というリディスは、結構ぺったんこだ。
「角があるな。種族は何だ?」
「……龍人、でござるな」
「ドラゴニュート! めっちゃ強そうじゃん!」
STRとVITが上がっている。
ゴリゴリ近接のステータスだ。
「スキルは気功、掌波。アビリティは自然回帰」
「気功は一時的にステータスを上昇させるスキル。掌波は防御力無視の攻撃、か」
「今のままの戦闘スタイルで行けそうでござる」
モスが生真面目に頷いている。
いや、なんか。可愛いんですけど。
可愛いのにござるなんですけど。
自然回帰は治癒力の上昇。
状態異常の回復が早まるアビリティだ。
ブランの状態異常耐性と似ている。いいな。わたしも耐性系欲しい。
「自然回帰は私も持ってるわ。良いアビリティなんだろうだけど、レベルが上がりにくいのよね。私でもまだレベル2なのよ」
「どうやればレベルがあがるのでござるか?」
「普通は使えば使うほど上がるわね。耐性系の場合は、状態異常に沢山かかる必要があるのだけど。……率先して異常を貰いに行くわけにもいかないでしょ」
「小生、かけるのは得意でござるが」
「私もよ」
リディスとモスが笑い合っていると、なんだか女子感がすごい。
というか、ワイルドイケメンに闇イケメン。美少女戦士に美女妖精。
わたし最早ペットじゃん!
ブラン、君だけが癒しだよ!
「アオ、地面に手をついて何してんだ?」
「察してあげなさいな。項垂れてるのよ」
「神の国まで落ちていきそうなほど項垂れてるぞ」
「……キニシナイデ。すぐに立ち直るから」
そこでブランが大きく欠伸をした。
気がつけば、もう夜中だ。いつもならご飯も終わって明日のクラフトでもしている時間だった。
何よりも、昨日今日と連戦続きで、みんな心底疲れている。
「私ご飯作るね。話は後にして、みんなゆっくりしたら?」
私は何とか立ち直って、平常心を手繰り寄せた。
「だなー。俺は一眠りさせて貰うぞ。アオ、飯できたら起こしてな」
今日もブランはお疲れモードだ。ほんと、タンクお疲れ様。
「俺、今日もカレーが食べたい」
「了解です!」
私がカレーを作っている間に、ノアとシャモアが話し合っていた。
シャモアの新しい戦闘スタイルについてだ。
人型になって武器が持てるようになった為、どの武器を選ぶのかを決める必要がある。
他のみんなのように、武器に直結するスキルがない為、何を選んでも良い状態なのだそう。
因みに私も、攻撃スキルがないから何の武器でも良いんだけど、相談する間も無く片手剣になっていた。有無を言わさずノアに決められていた。
別に不満はないけど、ちょっと扱い違くない?
「伸びたのがINTだからな。本来ならメイジなんだろうが」
「いい。スクロールで戦う」
「まだ量産出来ないだろ。仮にスクロール主体で戦うにしても、メインとなる武器は必要だ」
「……弓」
「木工師じゃないと、一人になった時詰むぞ」
「……投擲」
「消耗品ばかり言うな。スクロールが消耗品なんだから、メイン武器はやめとけ」
どうやらシャモアは遠距離希望らしい。
というか、怖がりだから近接が嫌なんだろうな。魔法でも弓でもない遠距離って、何かあるのかな?




