進化ラッシュ
翌日は朝からアリシュタに会いに行った。
私の進化のために、既に十二回は連戦している。今日はそれを越す数をこなす事になっていた。
こうも連戦が続くと、流石に段取り良く倒せるようになった。被ダメをもらう事も殆どなくなってきたので、ポーションは専らブランに使うばっかりだ。
余裕が出てきたので、私はバトルの最中、仲間を観察した。
強くなるためのヒントを得るためだ。
ノアとリディスは別格としても、モスはかなり強い。
戦闘に対して天賦の才がある。
一撃一撃は、それ程重たくないのだが、とにかく手数が多い。私が一撃入れる間に、二、三発は殴っている。
拳による連打に加え、高い跳躍を活かした回し蹴り。猛攻しているのに、周囲の動きも冷静に見ていて、被ダメは殆ど喰らってない。
今後レベルが上がって、一撃のダメージが増えれば、最強のアタッカーになるのだろう。
シャモアは、攻撃力が低い。嘴や翼での攻撃になるので、手数も多くはない。今のところ、一番DPSが低いのは間違いなくシャモアだ。
だけど、それは武器を持っていないからだ。
装備による底上げがない分、伸びていないだけ。今日の進化を経て武器持ちになれば、一気に強くなるだろう。さらにクラフトで錬金術師を選んでいるのも大きい。スクロールによる攻撃は、かなり強力だ。
これも今は、クラフトに必要な素材不足で、戦力に加える事は出来ないが、今後フィールドを進んで素材が潤沢に揃えば、遠距離部隊として頼れる存在になるだろう。
詰まるところ、シャモアは大器晩成型なのだ。
一番の問題児は、どう考えても私だ。
DPSも低く、ブランのように明確な役割もない。
私に出来る事は、解体と盗むと脱兎だけ。
要はイロモノだ。
進化はしたけど、武器は変わっていないし、与ダメも気持ちばかりしか増えていない。種族もウサギのままだし、私の進化って、ほんと何だったんだろう。
取り敢えず隙を見て『盗む』だけはちゃんとしておいた。
《土の魔石を入手しました》
うん。解体でも手に入るやつだ。
テンションは上がらないけど、スキルレベルを上げるために、一回の戦闘で三回程は盗んでおいた。
不甲斐なさから小さく溜息をついた時、
「アオ、焦ってる」
と、シャモアが話しかけてきた。
いつも無口なシャモアが珍しい。そんなに余裕なさそうな顔をしてたのかな。
「焦ってるっていうか……。そうだね。進化すれば一気に強くなると思ってたから」
「期待しすぎ。見た目、変わるだけ」
「そうだね。変に夢を持っちゃってた」
「強くなる。楽な道ない」
ごもっともだ。シャモアに正論を説かれてしまった。
まあ私は見た目もそんなに変わって無いんだけど。
残念ではあるけれど、無口なシャモアが、わざわざ声をかけてくれた気持ちが嬉しかった。
「焦らずに、でも頑張るよ。シャモアも進化前なのに気を使ってくれてありがとう。今まで全く全然気付かなかったけど、シャモアって優しいんだね」
「俺、優しい。当たり前」
でもね。私だっていつまでも足手纏いは嫌だ。
そんな事を考えているうちに、シャモアの進化の時が来た。
――――――――――
シャモアを包む眩い光が少しずつ薄れてきた。
光の大きさで分かる。
明らかに、今までのシャモアのサイズとは違う。二メートルほどありそうな、大きな光の繭。
「人型っぽいわね」
「だなー。しかも俺と違って大人だぞ」
その繭が、解けた。
「……」
ボロボロのベージュのローブを纏った男性が立っていた。
腰には不気味に光るランタンを下げている。浅めの灰色の髪を一つに纏めたその姿は、完全なる人型だった。
やだっ! イケメン!
十代後半に見えるその姿は、間違いなくイケメンだった。だけど陰鬱としている。鬱蒼として、どよんとして、暗い。かなり陰よりのモンスターだ。
「……なんかあれね。イケメンイケメンって言ってたけど、本当に来たら引くわね」
「夜限定のモンスターっぽい雰囲気だな」
「シャモアの闇ってる部分が影響した進化だなー」
シャモアは腕や足をゆっくり動かしては、自分のフォルムを確認していた。そして
「人型。言った通り」
と、何故か私に向けて胸を張った。むむむ。
優しいって言った言葉を返して!
そしてなんか、若干口調が滑らかになってるし!
「種族は何なのでござるか?」
「ステータス。……種族、『隠者』」
「隠者?!」
「シャモアっぽい!」
そして全然イーグルと関係ない!
やっぱり進化って、その人の持つ特性やら性格によって決まるように感じる。じゃあ私ってそんなにウサギっぽかったのかな。よく分からん。
「INTの伸びがいいな。スキルは……『呪怨』?」
やだっ! 怖い! 闇深い!
「ダメージ、ランタンに貯めていく。貯めたダメージ、放出する」
「そりゃまた、特殊な技だなー」
「バトルを超えてダメージが持ち越せるのは強みでござる。常に満タンにしておけば、常時切り札をもっている状態になるでござる」
必殺技みたいな感じだ。羨ましい!
「知力が高いって事は、魔法は使えるの?」
知力が影響するのは主に魔力だ。もしかして、初の魔法使いになるかもしれない。期待を込めて問いかけた先で、シャモアは首を振った。
「魔法、ない」
「そっか。残念」
「でも知力が上がればスクロールの威力も上がるわ。錬金術師にはおあつらえ向きね」
「計算通り」
いや、結果オーライなだけだよね?!
何そのドヤ顔!
ともあれ残すは近接の次期エース、モスの進化だ。
楽しみ。




