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「みんな大変! カエルが飛んでた!」


 私は大急ぎでみんなの所に戻ると、先ほど見た奇妙な光景を力説した。


「カエルってゲコゲターの事?」

「そう! 飛んでたの。アーアアーって」

「見間違いじゃないのか」

「あんなの見間違いようがないよ」


 しかも逃げ去る前に、ケロって言ってたし。明らかに私を認識して逃げた感じだった。


「野良の動きじゃないわよね」

「きた、子分」


 シャモアが嬉しそうに羽ばたいた。私も同じ気持ちだ。だって、それしか考えられないよね。


 みんなの期待を、ノアが肯定した。


「目覚めし者、だろう」


 だよね!

 新しい仲間だ!


 私にとっては初めての後輩だ。思いっきり可愛がってあげたい。まだ教えてあげられる事なんてほとんどないんだけど。


 ワキワキしていると、リディスが人差し指を顎に当てて首を傾げた。


「でも逃げちゃったんでしょう? もう一度見つかるかしら?」

「どっちの方角に逃げたか、覚えてるか?」

「えっと、あっちの方」


 カエルが逃げていった、沼とは反対の方向を指さした。

 森は鬱蒼としていて、この中ならカエル一匹を探すのは大変そうだ。


「急いだ方がいいな。飛んで逃げていると仮定して、樹上を探すぞ」

「おっけー。じゃあ私とシャモアで探すわね」

「西から頼む。アオとブランは南からだ。逃げるようなら、聖水の泉に追い込んでくれ。チャットモードにしておけよ」


 チャットモードとは、離れていてもパーティメンバーであれば会話が可能になる機能で、反対にどれだけ近くにいてもパーティメンバー以外には聞こえない。範囲は広く、同じフィールドにいれば会話が可能だ。


 みんなと別れ、私とブランは木から木へと飛び移りながら移動する。お腹の底から湧き上がるような高揚感を抱えて飛ぶ。自然と顔がにやけてしまう。


「嬉しそうだな、アオ」

「ブランだって」

「そりゃな。無事に見つけてやりたいな」


 樹上を渡っているのなら、大丈夫だとは思うが、モンスターとエンカウントしてしまっては大変だ。


「なんで逃げたのかな?」

「驚いたんだろ。怖かったのかもしれないな」


 カエルはアーアアーに慣れているような感じだった。目覚めてからずっと一人でいたのなら、アオとの遭遇は青天の霹靂だっただろう。


「ブランはどうやって仲間になったの?」

「目覚めてすぐ、リディスに声かけられた」

「なんて?」

「そんなところで何してるの、ってさ。あんまり自然だったから、俺も普通に返事してた」


 むむ。やるなリディス。相手に警戒心を持たせない素晴らしい手腕じゃないか。それに比べて私の出会いはアーアアーだ。情けない!


 くぅっと悔し涙を流しているところに、チャットでリディスの声が流れてきた。


「発見したわ。やっぱり逃げられちゃった。今泉に向かって逃走中よ」

「よし、ブランとアオはヤツの南への進路を防げ。北への牽制は、シャモア行けるか?」

「やる」


 泉の方向へ舵を切る。アーアアーは楽しいだけじゃなくて、とっても早い。移動手段としては最高だ。私は蔦から蔦へとびゅんびゅん飛び回り、自称ウサギ史上最速で泉を目指す。


 右前方、五十メートル程離れた場所に、飛ぶカエルの姿を見つけた。


「ブラン、いた!」


 カエルは猿並みに蔦使いが上手かった。蔦が足りない時は、自分の舌を伸ばして進んでいく。一日や二日で身につけた技とは思えなかった。


「良い方向だな。そのまままっすぐ泉まで進ませるぞー」

「りょーかい!」


 泉まではあと少し。

 泉ではノアが待機している筈だ。ノアはどうやってカエルを止めるつもりなんだろう。ノアなら一発殴って、意識ごと刈り取りそうな気もする。


「もう少しだ!」


 前方から木々の切れ間の光が漏れてきた。私はカエルを追いかけて、明るい光に飛び込んだ。

 光の中に一瞬、腕を組んで待ち構えるノアの魔王のような笑顔が見えた。ふはははは、と高笑いまで聞こえてきそうな悪役笑顔だ。


 ムギュウッ。


 突然、何かが全身に絡まった。手足をとられて自由に動けない。


「網?!」


 革紐で作られた大きな網が絡み付いている。すぐ横ではカエルが、後ろではブランもジタバタ絡まって蠢いていた。


「お前ら、何やってんだ?」


 ノアが呆れた顔で見下ろしてきた。


「こっちの台詞だぞー。罠を仕掛けるなら先に言っといてくれよなー」

「そうだよ、早く出してー」


 もがきながらの訴えは、リディスの笑顔で一蹴された。


「今は貴方達は後回しよ。そのまま一緒に聞いてなさいな」

「えー!」


 ううう。先輩としての威厳が……。ファーストコンタクトがアレでセカンドがコレなんて、あんまりだ!


 しょんぼりしていると、リディスがお姉さんの顔で慰めてくれた。


「ある意味お手柄よ。その醜態のお陰で、カエルちゃんの警戒心が薄れたみたいだから」


 カエルは事態が飲み込めていないようで、冷や汗をかいてキョドっている。その瞳には、恐怖よりも戸惑いの方が多く含まれているように感じた。


「大丈夫。オレたち、味方」


 シャモアの言葉を受けて、カエルはみんなの顔を一人一人見つめた。視線が自分の所に来た時に、ノアが一つ頷いた。


「危害を加えるつもりはない。お前、名前は?」


 カエルは少しフリーズしたあと、ポロポロと泣き出した。さめざめと泣く小さな肩の震えが、彼(彼女?)が今まで、どれほどの孤独の中にいたのかを伝えてきた。


「名は……ないでござる」


 ……ござる?

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