第一話 白羽那由多
とにかく自分が書きたいものを書いていこうと思います。
主人公同様、発展途中ですが、一緒に成長できたらと思います。
「暑いなぁ…はぁ……」
悠太は雲一つない蒼穹を見つめてため息をつく。
「そりゃ7月なんだから暑いのは当たり前だろ…?暑いっていうなよ…ますます暑くなる…」
炎天下の昼下がり、二人はある場所を目指し歩いていた。
伊佐奈村の山奥にある館である。
ちなみに伊佐奈村というのはこの二人も住んでいる人口1000人程の小さな村だ。
四方を山に囲まれてはいるものの、それほど深い山々ではなく、徒歩で抜けることも出来る。
また抜けた先には街もあり、決して都会とは言い辛いがそこまで酷い田舎というほどでもない。
ただ若者ばなれは否めなく少子化も伴い、彼らの通う村の高校も来年の4月をもって廃校が決まった。
話がズレてしまったが、そんな村に久々の移住者がやってきたということで噂になったのだ。
好奇心旺盛な二人は、こんな田舎に引っ越してくる物好きの顔を一目見ようと館に向かっているのだ。
「おい悠太、もう伊佐奈山だぞ。頑張れ!」
「ま、待ってくれよマサキ…」
2,30m後ろでへばりながら歩く悠太。
言いだしっぺのお前が先にバテてどうすんだよ…。
ったく…。
ザザッ…
「!」
ん…?
今誰かがこっちを見ていたような…。
「はぁ…はぁ…追いついた…。ん?どうしたんだ?森をぼんやり見つめちゃったりして?」
「いや…気のせい…だよな?」
「んじゃま、行きますか!てか山に近づくとより一層セミがうるさいな」
「そう言ってやんなよ。蝉は短命なんだからよ。それに山の中のほうが断然涼しいし」
「だな…よっし行くぜマサキ!」
俺たちが向かう館は知る人ぞ知る、一部では"幽霊屋敷"と呼ばれている古びた洋館だ。
なんでも10年以上空き家だそうで、以前住んでいた家族が謎の死を遂げたという"いわくつき"の館で、
村の子供たちには恰好の心霊スポットというわけだ。
また、館で謎の人影を見たとか、夜に人魂を見たなどと…噂は年々増えていく一方である。
というものの、実際には俺も悠太もそういった類のものは見たことはなく…
所詮ただの噂だろうという結論にいたっている。
「おいマサキ!見てみろよ」
「ん?」
悠太が地面を指差している。
これは…タイヤの跡だな。
洋館に続く道は自動車1台分くらい通れるくらいのスペースはある。
まぁ一応村からも多少距離もあるし、坂を上がった山奥にあるわけで、車がないと不便な場所だろうとは思う。
ガサガサッ!
「ん!?」
「どうした?マサキ」
やっぱり…何かいる気がする…。
なんだろう?
……見られてる…?
この時
何故だろう?
そこにいるわけでもなく―――
見えているわけでもないのに―――
俺は
彼女と眼があっていた。
わけもわからず、ただ漠然とそう思った。
「…悠太、悪い」
「え?…ってちょっと!?何処行くんだよ!?マサキ!?」
走り出していた。
こんな感覚…今まで感じたことがなかった。
一体なんなのか?
あれほど耳についていた蝉の声はいつの間にか聞こえなくなっていた。
風を切る音と、自分の鼓動と、そして呼吸音だけが響いている。
「…はぁ…はぁ…」
気がついたら俺はそこにいた。
見たことのない洞穴の入り口に立っている。
辺りを見回すと、そこはいつもの伊佐奈山の風景だ。
「こんな場所…あったっけ?」
目の前には吸い込まれそうな闇が広がっている。
普段の自分じゃこういったデンジャーは当然のように避けるのだけど…なぜだろう?
さっきの感覚に似た…何かが俺を"呼ぶ"感覚。
でも、さっきのような衝動的な力強さはない。
なんというか、"選ばされている"感じがする。
ここに導いたのは強制…
でも、この先は自分で決めろ…そういうことか?
「…」
こういう時、一歩踏み出す勇気がないのが自分なんだと、つくづく思わされる。
「…サキーッ!?どこだーー?」
悠太の声だ。
俺を追ってきたのか。
悠太があちらこちらと見回しているようだ。
二人なら、きっと戸惑うこともないし。
悠太はこういうの大好きだからな。
「悠太ーッ!おーい!」
「マサキーーーッ!」
ん??声が届かない距離じゃないと思うんだけど…なんで気づかないんだ??
「おーいッ!悠太!聞こえないのか!?」
俺は特に何も考えることなく…
本当に何気なく一歩を踏み出していた。
「おーい!こっちだってば!」
「あッ…あんなとこに…!マサキの奴!!」
ようやくこちらに気づいたのか、悠太はムスっとした顔をしてこちらに歩いてくる。
「おま!急に走り出したかと思ったら、なんなんだよ!探し回ったんだぞ」
「悪い悪い!それよりさ!面白いもん見つけたんだよ!」
マサキはそう言いつつ、後ろを指さした。
「?」
あれ?
いつもならこういうネタには、物凄いリアクションで飛びつく悠太なのに、何故か無反応でクビをかしげている。
「マサキ、どうしたん?暑さにでもやられたか?」
「いや、どうしたのじゃなくてだな!この洞穴…」
後ろを振り返ると、そこにはさっきまで確かに存在していた洞穴の姿が跡形もなく消えていた。
「え…?」
「洞穴ってなんだよ?ただの茂みじゃんそれ」
う、嘘だろ!?
さっきまで確かに…!
マサキが指差す先にはただの茂みがあるのみ。
急いで茂みをかき分けてみるものの、茂みの奥には茂みが広がるのみである。
「うっそー…」
「もういいっての!はぁ…。この暑いのに面白くないっての」
夢…だったのか?
本当に夢でも見ていたのだろうか…?
でも…あのリアリティ…。
「おら、マーサーキーッ!館に行くぞッ!」
「お、おお…」
釈然としないけど…。
まっ…いっか。
―――伊佐奈山・幽霊屋敷前
「ふぅ…緩やかとはいえ…上り坂はしんどいなぁ…はぁはぁ…」
「悠太疲れすぎ…高校2年とは思えない台詞だな…」
「お、お前が元気すぎるんだってば…」
館の門前まで来て、改めて館の外観を見回してみると…やはり何処となく"雰囲気"がある。
まだ日も沈んでいないというのに、何かが出るような…そんな異様な雰囲気が漂っている。
「久しぶりに来てみたけど、相変わらず…おっかねぇ感じだよな…マサキ」
「そうだな…。でも見てみろよ」
「ん?」
「ほら、玄関先に軽トラが停まってる」
人は居るってことだろうな。
一体どんな人が越してきたんだろう?
こんなおっかない場所に越してこなくても、村にも空き家はあるのに。
よほど物好きなのだろうか?
その時だった。
ガチャ
『!!』
悠太とマサキは同時に肩を震わせた。
玄関の扉が開いたのだ。
二人は急いで茂みに身を隠した。
「!」
二人が見たのは、なんとも言いえぬ不思議な雰囲気の少女だった。
「お、女の子…だ」
「あ、ああ…」
不覚にも見とれてしまった。
遠目だが、なんとなく可愛い感じがする。
年は…どうだろうか。俺たちと同じくらいか。
「…」
!!
彼女がこちらに視線を送った。
二人は思った。
『バレた!』
「そこに隠れている人…村の人…ですか?」
可愛い声だ。
って…そんな場合じゃないだろ俺。
「お、おい…どうすんだよマサキ」
「俺に聞くなよ!ば、バレちゃってんだから出るべきだろ?」
仕方ない…よな。
「ご、ごめんなさい…あの俺たち、別に怪しいものじゃ…」
「そ、そそ!別に物好きを見にきたなんて、そんなんじゃないから!」
「お、おい!悠太!」
「あ…」
あじゃない…。
「!」
彼女が俺を見ている…。
なんだろう…?
この感じ…何処かで…。
「あなた達が悪い人じゃないのはわかったわ…でも、もう帰ったほうがいいわ」
「え?」
「"出る"んでしょ?ここ。ほら、もうすぐ日も落ちてくるわ」
彼女の指さす空を見上げると茜色に染まりかけている。
時計を見ると18時を回っている。
いつの間にか3時間も経っていたのか…。
「じゃ…」
「あ、あの!君は…」
戻ろうとする彼女を無意識に呼び止めてしまった。
「那由多…白羽那由多…」
振り返る事無く、そう言うと彼女は再び家に入ってしまった。
那由多…か。
「なんか…変わった子だったな…マサキ」
「…」
「マサキ?」
「あ、ああ?なに?」
「あーもう!これだからこの男は…可愛い子には目がないんだから嫌になるぜ」
「そ、そんなんじゃないし」
動揺してるのか声が上ずってしまった自分がやたら恥ずかしかった。
「とりあえず、顔も拝めたし、日も暮れるし…帰りますか」
「そ、そうだな。帰ろう…」
自宅・自室――――
自分の名前言えなかったなぁ…とか、結局あの子のことで頭の中がいっぱいになってた帰り道。
結局、悠太との別れ際までの記憶がすっとんでる。
そんな悠太が最後に言ってた…
「凛を泣かせる事はすんなよ…」
ってのがちょっとひっかかるけど、あれ…なんだったんだろ…。
その前に話してたであろう内容が記憶にないからよくわかんないや…。
ボフッ
マサキはゆっくりとベッドに倒れこんだ。
「はぁ…。それにしても今日は疲れたなぁ…色々ありすぎて…疲れたぁ…寝るか……」
―――
――
ジリリリリリ!!
「!」
気づいたら朝になっていた。
「いちち…変な恰好で寝てたから…クビがいてぇ…」
今日は月曜日か…
!?
学校…!
8時…!?
「やっべ!!遅刻するっ…」
マサキは急いで着替えを済ませ、ドタバタと階段を駆け下りる!
「ねぇちゃん…なんで起こしてくれないんだよ!って…あれ?」
リビングには姉の姿がない。
いつもならこの時間ならここで飯食ってるはずなんだけど。
「あれ?」
『悪い!マサキ!今日はちょっと早く出社しないとなんで!ご飯ないんだ!
500円置いとくから、それですませちゃって! ねぇさんより』
「…はぁ。って、落ち着いてる場合じゃないや!鍵鍵鍵!!」
10分後―――
「いってきまあああす!!」
慌てている時に限って必要なものが出てこないのはなんでなんだろう。
まったくもお!!
全速力で学校に向かうマサキ。
現在時刻8時20分…始業時間8時30分までに間に合うか…。
微妙なところである。
キンコーンカーーンコーーン!
「やっべええええ予鈴が鳴ってる!でもギリギリ間に合いそうだ!」
「蒼葉ぁ!急げよぉ!」
校門前で指導係の川崎先生が大声と手振りで急げ急げと言ってる。
言われなくても遅刻はごめんだ!
「は、はい!」
川センのお説教は長いし面倒なんだよほんと!
急いで靴を履き替え、急いで"Cクラス"に突入する。
ガラッ!!
「セ、セーフ!」
「何がセーフだ!蒼葉マサキ!この馬鹿者!時間みてみな!」
「はぁはぁ…8時…32分……がぁぁっ…2分遅れ…たぁ…はぁはぁ…」
!!?
今…時計見たとき…先生がいた…けど…え…?
「悪かったなぁ。いきなり」
「いえ…」
ドクン…
そんな…
「皆さん、始めまして…白羽那由多です。今日からよろしくお願いします」
彼女がそこにいた。
全速力後の心臓の鼓動とは別にドキドキしていた自分がいたように思えた。
第一話 完
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