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「テオドール」

「あれ、ルイ。何か用事?」

「用事、じゃない。さっきの事で聞きたいことがある」



テオドール様は研究棟にある控え室で、ソファーに座りゆっくりとお茶を飲んでいる所だった。

テオドール様の言葉だけ聞けば、私たちが来るとは予想外と言う風にも取れる。だがそれとは反して、テオドール様の表情は、ようやく来たかと言いたげな様子だ。現に、私たち三人分の紅茶を用意しているのだから。


テオドール様の向かいに私と殿下、そしてテオドール様の隣にシリルが座る。


「紅茶が冷めないうちに飲んだら?

俺が淹れるなんて珍しいよ」

「テオドール様は紅茶を淹れることが出来るのですね」

「シリルほど美味くは淹れられないけどな。

前に言わなかったっけ。魔術師は一通り自分の事は何でも出来るって」


そう言えば⋯⋯。

マルセル領でテオドール様と一緒にいた二ヶ月程の間でそのような事を確かに言っていた。

魔術師は任務の為に国内、もしくは国外を一人で行動することもある、と。

でもまさか紅茶まで淹れられるとは、正直予想外であった為驚いた。


カップを手に取りると、紅茶の華やかな香りがふわっと広がる。一口飲むと、舌触りも良く深い味わいが口中に広がる。


「⋯⋯美味しい」

「ははっ、口に合った様で良かった」


⋯⋯本当にテオドール様は謎だわ。

彼に出来ないことなんてあるのかしら。

私は思わずテオドール様の顔をまじまじと見てしまう。



「ところで」

殿下が飲んでいた紅茶のカップを音も無くテーブルへと戻すと、口を開く。


「状況を確認したい。まず、テオドール。アンナ・キャロル嬢の儀式の際に、召喚の呪文を唱えたな。

再度呪文を唱えたのはどういう訳だ」

「あぁ、それか。凄い風と光があっただろ。あれで精霊王の影を感じた。だが出てくるか悩んでいたっぽいから、出ておいでって感じで追加したんだ」

「出ておいでって⋯⋯精霊王相手に」


テオドール様の話に思わずポカンとした顔をしてしまう。殿下もテオドール様の回答が思っていた以上のものだった様で、額に手を当ててため息を吐いた。


でも追加の呪文はそういう意味があったのね。

つまり、精霊王が加護を与えるかどうかは微妙な所だった、ということかしら。


やはり、そこはアンナさんの性格が変わったことと関係するのだろう。



「ちなみに、アンナ嬢と精霊王の会話は聞いていたか」

「あれは聞こえていない」

「聞こえていない?」

「俺と話していた時もそうだけど、遮音の魔術でも使っていたんじゃないかな。結構近距離にいたけど、全く声は漏れていなかったから」


なるほど。

ではテオドール様もアンナさんと精霊王のやり取りは知らない、ということか。

つまりどう言った経緯で精霊王がアンナさんに加護を与えたかは、アンナさんだけが知っている。そう言うことか。



「だったら、お前は精霊王と何を話していたんだ」


殿下は手を顎に当て暫し考え込んだ後、再度テオドール様に視線を向けた。


「俺もよく分からないけど、名前を聞かれたな。

しかも俺のことを別の名で呼んでいた」

「別の名?」

「あぁ、《イネス》と」



イネス?


「それは俺も引っかかるから、とりあえず調べることにするよ」

「分かったことがあればまた教えてほしい」

「あぁ。もういい? 質問無いなら、俺は団長の所に行かないといけないんだけど」



テオドール様はカップに入った残りの紅茶をぐっと飲み干すと、殿下と私に視線を向ける。


「もう大丈夫だ。時間を取らせて悪かったな」

「いや。⋯⋯これから忙しくなりそうだ。

ルイも十分気を付けろよ」

「もちろん」



気を付けろ?

テオドール様の言葉に不安を覚えて、ふと殿下に視線を向ける。

殿下は私の視線に気付くと、ニッコリと微笑む。


「大丈夫だよ」

「何かあれば私にもお知らせ下さい」

「あぁ、必ず。ラシェルも困ったことがあれば私に伝えてほしい」


殿下は私の方へと向き直すと、私の両肩に手を置き真剣な表情で見つめられる。

殿下は私の言葉にしっかりと頷くと、念を押すかのように言った。


そうよね。

私が秘密にされるのを嫌うように、殿下だってそうだ。私の勝手な行動や考えで殿下を困らせる訳にはいかない。


《負担を軽く出来れば良い》、以前殿下が私に言ってくれた言葉だ。殿下の想いを無駄にしない為にも、もちろん自立するところはする。だけど、相談することは悪いことでは無いのだろう。


きっと殿下は私のどんな言葉も聞き入れてくれると思うから。



そう思いを新たにしていると、向かいからテオドール様が大きく吐いた溜め息にハッとする。



「そういうのはさ、俺が出てってからにしてほしいんだけど。なぁ、シリル」

「えぇ、全くです」


テオドール様とシリルに呆れられた様な視線を向けられ、思わず顔が赤らんでしまう。

殿下はそんな二人を見遣って、ニヤリと笑うと「だったらお前たちも婚約者を作れば良い」と言った。


それに対してテオドール様もシリルも嫌そうに顔を歪め、二人揃って大きな溜息を吐いた。

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逆行した悪役令嬢は、なぜか魔力を失ったので深窓の令嬢になります6
― 新着の感想 ―
[一言] ざまぁを期待しています( ・`ω・´)
[一言] 彼女ほしい
[気になる点] テオドールが余計なことをしなければハッピーエンドだったような
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