3−17
あっという間に王宮で過ごす日々が終わり、私はまたマルセル侯爵邸での生活に戻った。お父様には随分と喜ばれたが、ルイ様が我が家に訪問する日を増やすと、苦虫を噛み潰したような顔になった。
皇女殿下は相変わらず、幼稚な嫌がらせを繰り返すが、私の持ち物に《婚約破棄しろ》といった落書きやルイ様の前で私の悪口を言いふらす程度である為、ダメージはほぼない。
リュート様は相変わらず、皇女殿下の振る舞いに注意をしながらも、手助けなどをする素振りもない。ただ純粋に魔法学園での学びを楽しんでいるようにも見える。
そんな日常の中、私とルイ様の結婚式の準備は徐々に進んでいった。仮縫い段階だったウエディングドレスも完成まであと僅かだと連絡も来た。
魔法学園の新学期から3ヶ月が経ち、新たな試みを始めた学園も随分と落ち着き、季節はあっという間に夏休みの時期になった。
ほとんどの留学生たちは長期休暇に合わせて国へと戻り、王都のタウンハウスに住む貴族たちも社交シーズンを終えて一時領地に戻っていく人たちも多い。
賑やかだった王宮内も、久しぶりに静かで平穏な日々を迎えた。
それでも、リュート様と皇女殿下は帝国まで距離が遠いことからデュトワ国に残っている為、私の気は抜けることはない。
それに、最近の皇女殿下の様子も気がかりの一つだった。今までの可愛らしい嫌がらせがパッタリとおさまってしまった。サミュエルやアンナさんと定期的に料理を作ったり、デュトワ国見物に出かけたりとしていたのも、最近は全て断ってしまっているらしい。
皆皇女殿下の暴走には困惑しつつも、あの明るさに癒されていた部分もある。私もその一人だ。
夏休みに入ってから、自室に籠ってしまった皇女殿下を何とか王都の郊外にある離宮に連れ出せたのは、夏とはいえ比較的気温の高くない過ごしやすいとある日のことだった。
馬車に揺られながら、ぼんやりと外を眺めている皇女殿下は、どこか浮かない顔をしていた。
「皇女殿下、体調は大丈夫ですか? 今日は大分過ごしやすい陽気ですが、ここ最近、随分と暑さも増したので、体調不良になる人も多いそうですよ」
「別に」
「……そ、そうですか。でも、何かあればすぐに教えてくださいね。離宮は王都の外れ。休憩を挟んでも2時間は掛かってしまいますから」
「……大丈夫」
話し掛ければある程度の返事はちゃんとしてくれるが、かつての賑やかさを一切感じさせない程に沈黙を貫く皇女殿下に、私は不安が増す。
これまで、私への態度は全く好意的ではなかったが、それでも今日はここに行った、あれをした、と悪態を吐きながら自慢げに語る皇女殿下は元気いっぱいで、明るい笑顔を振りまいていた。
――こんな元気のない皇女殿下を見るのは初めて。
何度も話し掛けていると、徐々に返事にも時間が掛かるようになり、自然と私の口数も減っていく。馬車の中は、重い空気のままガトゴトと揺れに合わせて鳴る音だけが響いた。
「皇女殿下、この森を進むと離宮に到着するようですよ」
「……この森」
いつの間にか周囲は王都の賑やかな市街地から一転、深い深い森へと変化していた。すると、ぼんやりと外を眺めていた皇女殿下の表情が僅かに変化した。
皇女殿下の元気がないとアンナさんに相談した際、アンナさんから勧められたのがこの離宮だった。どうやら、この場所はゲームの世界に出てくる重要な場所らしい。
その重要なイベントの舞台であるこの場所は、王家所有の離宮だ。
見張り塔の離宮と呼ばれるこの場所は、森と川に囲まれ、隠されるように存在する離宮。
周囲は石造りの頑丈な門で覆われており、離宮内には質素で小さなレンガ造の屋敷と、王都内で一番高い塔があるのみ。
綺麗な庭園も、教会も、噴水さえもこの場所にはない。
――なぜ、このような場所がイベントとやらに選ばれたのかしら。
大きな門から塔まで一直線に進む馬車の中で、私は内心首を傾げた。
それでも、皇女殿下の表情は塔に近づくに連れて僅かに目が煌めいた。
「ここが……本物の見張りの塔」
ポツリと呟いた皇女殿下は、感動したように声を振るわせた。
デュトワ国の貴族令嬢として生まれ育った私にとって、この場所はあまりに縁遠い場所だ。おそらく、もし私が男児に生まれ、騎士を目指していたのなら、違った感動を持つのかもしれない。
この場所は今より昔、戦禍の時代に見張り台として使用されていた。王都を一望出来るこの場所から、敵の様子を確認したそうだ。
そして、二百年前の戦では、この森まで敵の侵入を許したにも関わらず、勇敢な騎士でもあった王子が己が命をもって敵を食い止めたそうだ。その歴史があるからこそ、ここは王家の男児にとって、そして騎士にとって、我こそがこの国を、王都を守るのだと志を強くする場所だそうだ。
皇女殿下の顔をそっと伺い見ると、彼女は目を閉じながら微笑んでいた。きっとゲームにおいて、この場所では、素晴らしいストーリーがあったに違いない。
胸をときめかせ、夢を描けるような物語が。彼女にとってゲームの世界は、どこまでも色鮮やかで美しい世界なのだろう。
「ここ、登れるの?」
「えぇ、入りましょう。許可をちゃんと貰っていますから」
塔の警護をしている騎士たちには、既に殿下から話がいっていたようで、彼らは木製の2メートル程のドアを開けて私たちを中へと招き入れた。
「えっと、確か最上階まで登れる魔道具が設置されているのよね?」
私たちを中へと案内してくれた騎士に尋ねると、騎士は「そうです」と頷く。
「この柵の中に立ち、柵に備え付けられた紺色の魔石に魔力を込めれば、最上階まではあっという間に到着します」
騎士は螺旋状の階段の隣にある、1メートル程の小さな大理石の上に立つように言った。柵に囲まれているとはいえ、この小さな箱にいるだけで、見上げた遠く先の最上階に本当に着くのだろうか。
「私は毎日作動を確認する為に乗っておりますが、特に問題も起きたことはありませんので、ご安心ください。魔道具も定期的に錬金術師が検査を行なっておりますから」
「そうなのね。初めてだから、少し心配になってしまって。教えてくれてありがとう」
騎士に礼を言うと、騎士は驚いたように目を丸くしながら「い、いえ。では、外で控えております」と慌てたように深々とお辞儀をして、塔の外へと出て行った。
「皇女殿下、それでは参りましょうか」
「う、うん」
皇女殿下は緊張したように、キョロキョロと辺りを確認しながら柵の中へと入って来た。皇女殿下が入ったことを確認し、私は先程説明された通りに魔石に魔力を込める。すると、足元の大理石が黒から白へと変化し、ゆっくりと動き始めた。
「まぁ、凄いですね! 螺旋階段の中央を抜けるように上がっていくなんて!」
石造りの塔は吹き抜けになっており、壁沿いには石の階段が最上階まで続いている。階段の途中には小窓やランプ、そして7や9など数字が書かれている。おそらく数字は階数なのだろう。
「まぁ、最上階は20階みたいですよ」
オルタ国の魔塔には負けるかもしれないが、それでもこの国で一番高い建物はこの塔に違いないだろう。
「着きましたね。降りましょうか」
「……この景色」
「あっ、ここから外に出れますね! 出てみましょうか」
石造りの塔の最上階は空が近いからだろう、随分と近い位置に夕日が見えるように感じる。
この最上階は他の階よりも狭い分、塔の外に出られるように一人分の出入り口があり、ぐるりと一周バルコニーがある。石の手すりから身を乗り出すと、その高さに身が震えそうだ。塔の周りに控えた兵たちが、親指ほどの小ささに見える。
夕日が徐々に傾き、群青色のグラデーションに見惚れた様子の皇女殿下は、石の手すりに両手を置きながら目を潤ませていた。
「この離宮、私も来るのが初めてなんです。本来ならまだ王家の一員ではない私は入れない場所なのですが、ルイ様が特別にと仰ってくれて。……今日、ここに来れて良かったです」
「……そう」
「ここもイベントとやらに関係する場所なのですよね。……良ければ、教えてくれませんか? あっ、でも王家所有の場所なので、きっとルイ様に関係する場所ですよね」
となると、ゲームの物語の中でルイ様はこの場所に、アンナさんを連れてきたということになる。いくら作られた物語とはいえ、複雑な心境になってしまい苦々しい感情を隠しきれない。
だが、皇女殿下は深いため息を吐くと、首を横に振った。
「……ここは、アルベリクのイベントだから」
「アルベリク殿下?」
突然出てきたアルベリク殿下の名前に、私は首を傾げた。ルイ様の弟君であるアルベリク殿下も、ルイ様との恋物語のイベントとやらに関係するのだろうか。
「兄への劣等感で苦しんでいたアルベリクを救ってくれたアンナへの恋心に気づいたアルベリクが……ここで、アンナに対して騎士の誓いをするの」
「アルベリク殿下が……騎士の誓い、ですか?」
確かにアルベリク殿下は、以前までルイ様との関係が上手くいっていなかった。本人は植物が好きだったが、ルイ様への対抗心から剣の鍛錬を欠かさなかったと聞く。だとして、まさか騎士の誓いをするとは。
――ルイ様やアルベリク殿下が聞いたら、おそらく物凄く驚くだろうな。
それに、私にはもう一つ疑問があった。なぜ、アルベリク殿下の話が急に出てくるのか、ということだ。
「あの……その物語は、ルイ様との恋の話なのではないのですか?」
「メインヒーローはルイだけど、何人もいる攻略者の中から好きな人を選んで、ストーリーを楽しめるの。……アンナから聞いてないの?」
「いえ、そこまで詳しくは。……では、私の他にも悪役令嬢とやらがいるのですか?」
「いない。どのルートも邪魔してくるのは、あなただけ」
「えぇ……? 私、随分と忙しい役割を担っているのですね」
なるほど、並行世界のようにゲームの中の物語は、主人公が選ぶ選択により物語が変化していくというのか。それにしても、邪魔者が私ひとりというのは、些か納得出来ない。
「ルイ様との恋の邪魔をするのは分かりますが、他にまで出張ってくるなんて……物語の私は随分と酷い描写をされるのですね」
ついムッと眉を顰める私に、皇女殿下は「問題はそこ?」と呆れたように横目で私を見た。
「……変な人。よくあなたみたいな人が、悪役令嬢なんて出来るわね」
「それは、物語を書いた人に言ってください。それに、私も色々経験して成長したところがありますから、その物語と今の私とは全く別の人物なのです」
「全く別、ね。アンナも、あなたも、ルイも。……みんな私に現実を見ろと文句を言ってくるでしょ」
皇女殿下は眉を寄せて、自嘲の笑みを浮かべた。
「文句とは少し違うかと。皇女殿下がその物語を大切にしている気持ちは伝わりますから」
「でもあなただって、私が頭がおかしいって思ってるんでしょ。物語を現実と勘違いした、空想の世界を夢見る奴だって」
皇女殿下は今にも泣き出しそうに顔を歪めながら、唇が切れてしまうのではないかと思うほど、強く唇を噛み締めた。
「おかしいなどと……そのようなこと、断じて思っておりません」
「思ってるじゃない!」
私の否定の言葉は、皇女殿下には伝わらなかった。皇女殿下は、苦しそうに眉を顰めながら、喉の奥から絞り出したような掠れた声で苛立ちを露わにした。
皇女殿下をどうにか宥めようと差し出した手は、パチンと大きな音をたてながら払われた。
「私からしたら、あなたたちの方がおかしいの!」
「皇女殿下……」
「だって、誰一人思った通りに行動してくれないんだもん! 何で、どうしてこんなにも違うの! 私の世界はどこにあるの?」
今にも泣き出しそうな程に顔を歪めた皇女殿下は、大きな目に涙を浮かべた。
「皇女殿下の大好きなお話と、この世界がよく似通っていることは分かります。だけど、私たちも皇女殿下も、今この世界で生きているのです」
「だから、ゲームから離れろってことでしょ。……知ってるよ。みんな私を説得しようと何度も言いにきたものね」
「……見ていただけませんか。物語ではなく、今の私たちを」
私の言葉に、皇女殿下は傷ついたように呆然とした瞳でこちらを見た。
「だって、それを認めたら……あなたたちが、違う未来を生きると認めたら……」
皇女殿下は何かに怯えるように、自分の手で両腕を抱いて俯いた。
「皇女殿下の恐れていることを、私に教えていただけませんか? 一緒に違う道を探って行きましょう。みんなが、皇女殿下が幸せになれる道を」
「……幸せ?」
ポツリと呟いた言葉は、嘲笑を含んでいた。
「私の幸せが何か分かる?」
「えっ……?」
「生まれてからずっと、夢を見ることさえできなかった。……私にとっては、地獄の毎日が当たり前だった。その日、一日を生き抜くのがどんなに難しいことだったのかを知らないくせに」
皇女殿下の瞳には、怒りと憎しみの炎が燃えているように見えた。
「初めて見れた幸せな夢は、たった一つ。ゲームの世界だけ」
皇女殿下の言葉にハッとする。
「知らなかった幸福がそこにはあったの。その夢を見ることだけが、私の生き甲斐だった。私の生きる力だった。それを信じて来たから、私は生きて来られたの」
絞り出すような悲痛な声に、胸が締め付けられる。
サミュエルが教えてくれた皇女殿下の過去を思い出す。
皇女殿下が、唯一家族の情を抱いていた乳母を殺されても、それでも未来を信じ明るさを失わなかったのは、おそらくゲームの世界があると信じていたから。
その信じていたものを否定され、現実を見ろと言われ続けたら、それは自分の過去を、自分自身を否定されているのと同じだろう。
「私の信じてきた過去をぐしゃぐしゃにして、私の……私の未来を奪っていくのは、あなたたちじゃない!」
「皇女殿下、あなたを傷つけてしまったこと、本当に申し訳なく思います」
だが、皇女殿下がこちらへと向けた視線に、私は愕然とした。それは、今までのような嫌悪感などとは次元が違う、憎しみの色だったから。
「離して! 私に触らないで!」
皇女殿下は、両手で力一杯に私を押した。思わず「きゃっ」と声をあげてその場に尻餅をついてしまう。それでも、皇女殿下はこちらに一切視線を向けず、怒りに震えながら、肩で大きく息をしている。
「皇女殿下、誤解です。……時間ならありますから、どうか落ち着いて……ゆっくり話しましょう。そこは危ないですから、こちらに」
「やめて、やめて! もう私に何も言わないで! もう苦しいのは沢山!」
まるで私の声など一切聞きたくないと言わんばかりに、皇女殿下は両耳を塞ぐと激しく首を振理ながら、ジリジリと後ろへと下がった。
塔の最上階は腰の高さ程の石の手すりしか体を支えるものはなく、あまり大きな動きを取っては大惨事に繋がりかけない。私は激昂している皇女殿下を刺激しないように、落ち着いたトーンで声をかけ続けるが、皇女殿下は目と耳を塞ぎ喚くばかりだった。
「別にあなたに死ねって言ってるわけでも苦しめって言ってるわけでもない!」
「分かっています。皇女殿下、どうか話を」
「もう嫌、何も話したくないの! みんな、みんな、どうして本来の姿から離れようとするのか分からない。だって、それがみんなが幸せになれる道なのに。どうして誰も分かってくれないの! どうして」
皇女殿下の悲痛な声は、叫び声のように私に届いた。本人でさえ自分の感情を制御出来ず、混乱しているのだろう。
――本当にそれが幸せになる道だと信じてきたのだと思う。だけど、本当の幸せを知ってしまった今、どれだけ皇女殿下に同情しようと、私がそれを受け入れることは絶対にない。
私が沈黙を貫くと、皇女殿下は更にブツブツと独り言のように呟く。私は出来る限り、皇女殿下を刺激しないように手すりから彼女を離す方法を探した。
「ねぇ、何で婚約破棄してないの? 何で森で暗殺者たちに狙われてないの?」
「……暗殺者? なぜ……」
「何でトラティア帝国に逃げて来なかったの?」
彼女の呟きが耳に届き、ハッとする。確か、アンナさんは物語のラスト、悪役令嬢である私はルイ様に婚約破棄されて修道院へと向かうという描写がされていると言っていた。それは私の一周目の生と同じラストだ。
けれど、皇女殿下はなぜ本当の私の終焉を知っているのだろうか。――私が賊だと思っていたのは、ミネルヴァ王妃が差し向けた暗殺者であり、彼らに襲われた事実を。
「……でも、私は助かっていない。あの者たちに殺された」
心の中で考えていたことが口から漏れたことに気がつきハッとする。すると、今まで耳を塞いで俯いていた皇女殿下が、視点の合わない虚な目でこちらを見た。
「本当であれば、森で襲われたあなたは命からがら逃げ延びる。辿り辿って戦下の他国で、トラティアの皇帝陛下に会うはずだった。彼はそのままあなたを国に連れ帰る」
「……こ、皇女殿下。目が……」
「それが本来の正しいストーリー。そうでなければいけなかったの」
オレンジの空はいつの間にか、その大部分を群青に覆われている。だがそれでも、光を失った目が何色をしているのかは、はっきりと分かる。
「私、言ったはずよ。あなたの運命の相手は他にいるって」
彼女のピンク色の愛らしい瞳は、その姿を変え赤紫色へと変化していた。だが、当の本人はその変化には気づいていないのだろう。彼女の怒りは止まることがなく、恐ろしいほど攻撃的なエネルギーを纏っていた。
「幸せそうなあなたには分からない! この留学は半年というタイムリミットがあるのに……あと半分しかないのに。あなたはルイと結婚するし、リュートは私のしたいことに協力してくれない。この国に来たばかりの時は、楽しくて幸せで、ずっとこんな平和が欲しかった。なのに、なのに」
皇女殿下が叫ぶように怒りを露わにする度に、パチンパチンと耳鳴りがする。その音に激しい頭痛がし、私は頭を押さえながら、壁に手をついてどうにか体を支える。
――皇女殿下の目の色が変わったと同時に、空気までもが変化した。禍々しいものが皇女殿下を包むようで、めまいがする。
「また元の暗くて怖い場所に戻らなくてはいけないなんて。あの悪魔がいる場所で、いつ死ぬか分からない日々を送らなければいけないなんて。私……私」
「皇女殿下……」
「可哀想だと思ったでしょ。酷い国だと思ったでしょ。だったら一緒に来てよ! あの国をどうにかしてよ! 何であんたに出来ることをやってもしれないの! 自分だけ幸せだったらそれで良いの!」
「違っ……」
「死ぬのも怖い。でも生きてるのも苦しい。じゃあ、私どうすれば良いのよ」
皇女殿下の叫びは、彼女自身を飲み込んでしまいそうな程の巨大な魔力を纏っている。少しでも近づけば、その攻撃的な魔力に弾き飛ばされてしまうのだろう。
――この魔力は一体……。何なの? こんなにも全てを破壊してしまう程の魔力を私は知らない。これが、龍人の血が流れるというトラティアの魔力?
もしかして、サミュエルが言っていた皇族の能力開花というのは、この魔力のリミッターが外れた状態をいうのだろうか。だとしたら、これが龍人の本当の力だというのなら……。
こんな魔力を持つ者たちに、どうやって立ち向かえばいいのだろうか。





