2
「サラ?」
「あぁ、目覚められて良かったです!もう3日も寝たままだったんですよ」
体を起こそうとするも、全く力が入らずベッドに寝たまま恐る恐る声をかける。
目元を潤ませながら、喜びを隠さず私を覗き込むサラは、以前より元気そうだ。若々しくも見える。
「まだ顔色がお悪いですね」と心配そうに眉を下げる表情も、サラがたまに見せる顔だ。
修道院への道中、サラの顔色は酷いものだった。
3歳年上で私が10歳の頃から仕えてくれているサラは私の1番の理解者であった。
婚約破棄までされる程の私の悪行を、心優しい彼女は止めるに止められず苦しんでいたのだろうから。
「3日寝ていた?どうして……」
「あぁ、急に熱を出して倒れたんですよ。
本当であれば、今日はお嬢様の入学式の日です。こんなことになり、本当に残念でなりませんね」
サラは本当に残念そうに悲しげな様子を見せる。
私はというと、いまいち状況が掴めず、混乱するも先程の言葉が引っかかる。
サラは今何と言った?
確か、入学式?
「えっと、入学式って……トルソワ魔法学園ってことではないわよね?」
「はい、トルソワ魔法学園の入学式です」
サラの言葉に、全身が固まるのを感じる。視界がモノクロになり、サラの「せっかく今日お嬢様の可憐な制服姿が拝めると思ったのに」という沈んだ声が遠く聞こえる。
そんなはずはない。
だって、私は入学式には間違いなく出席したもの。
3年前、15歳の時に王太子の婚約者として、そして新入生で1番魔力の高いことで代表の挨拶も務めた。
いや、待って。確かに入学式の数日前に珍しく風邪をひいた記憶はある。
でも、確か1日寝たら翌日には回復していたはず。
それが、3日寝て目が覚めたとはどういうこと?
しかも、サラが言っていることが本当であれば、私は3年前にいるということ?
慌てて着せられていた部屋着の胸元から、自分の胸の傷を確認する。
────ない。
ラシェルが覗いた肌は、真っ白く傷ひとつない。
いや。そんなはずはない。だって、あんなに抉るような痛みだったのだ。
今もあの痛みを思い出すと冷や汗が止まらない。
これは都合の良い夢なのかしら。
神様があの世に行く前にほんのひと時の安らぎを与えてくれたの?
そして、与えられたのが3年前の何も不安を感じず、輝かしい未来が待っていると疑っていなかった頃?
あまりに混乱していた私は、サラが「奥様とお医者様を呼んで参ります」という言葉と共に部屋を出て行ったのさえも気づかなかった。