番外編『流れ星に願いを』 もう一人のルイ視点
書類に記入していた手を止める。そして、ぐしゃぐしゃと紙を乱雑に丸めてゴミ箱へと投げ入れる。
「殿下、ゴミ箱を溢れさせるのは止めてください。何度も言ったでしょう」
「シリル? は? いつ入って来たんだ?」
「さっき入ってきましたけど、気が付かなかったのですか? 少しの気配でも気がつく殿下が珍しいですね」
「全く気が付かなかった。……でも待て。私は一人にしてくれと頼んだだろう」
ドサッと執務机の上に大量の紙を置き、顰めっ面で苦言を呈するシリルに、私はポカンと目を丸めた。
確かについ先刻、出先から執務室に戻る前に今日は一人でしたいことがあるから、入室は許可しないと伝えたはずだ。
「はいはい。ちょっと仕事の資料を取りに来ただけなので、すぐに退散します。でも私はテオドール様と違ってノックもしていますし、声もかけております。集中して聞いていなかったのは殿下の方ですからね」
「……それは悪かった。だが」
――ノックも声掛けもしていたのに、無視する形になっていたのか。全く気が付かなかった。
どこかバツの悪さに頰を掻きながら視線を逸らす。だが、今は一人にして欲しい。
――できれば早く出ていって欲しいんだけどな……。
そう言葉にせず、目線で退室を促す。
シリルもそんな私の真意にすぐに気づいたようで、ため息を吐きながら、本棚の中から一冊のファイルを取り出してそれを掲げた。
「分かっていますって。このファイルだけ持って、私は退散します。……ですが、机に置いた書類は明日にはきっちりと終わらせてくださいね」
「分かっている」
どさりと積み上げられた書類の山に、げんなりとしながらもため息で留めておく。自分の我儘を通すのだから、あまり文句も言っていられない。
「それと、頼まれていた物はそちらのテーブルに置いておきましたから。今日行かれるのでしょう?」
「……あぁ、ありがとう」
目線をサイドテーブルへと動かすと、そこには確かにシリルに頼んでいたものが注文通りに準備されていた。
感謝の言葉を紡ぐ私に、シリルは何か言葉を掛けようかと口を開けかけるが、すぐに口を閉じ、一礼して部屋から退室する。
シリルが立ち去ったのを見送り、書類へと視線を戻す。だが、どうにも集中することができず、無駄に時間ばかりが経っていく。
今日何度目かのため息を吐くと、私は目の前に積み上げられている書類の束に視線を向けた。
――ここずっとラシェルの事件の件を調べていた分、随分と仕事が溜まってしまったな。
精霊の地から戻ってきた私は、つい先日ようやく黒幕に辿りつくことが出来た。
その人物に辿り着く鍵は、やはり母の存在だった。だが、調べを進めていく内に、自分の想像よりも厄介な問題が渦巻いていた。
何が厄介だったかというと、まずは想定以上に国内の膿は広かった。そして、簡単に手出しが出来ない存在、オルタ国が関わっているということだった。
テオドールやシリル、アルベリクの協力だけでなく、ほとんど親交のなかった隣国の第二王子リカルド殿下にも秘密裏で面会し協力してもらえることになった。
そうして、ようやく分かった真実。ここまで来るのに、予定よりも大幅に時間が掛かってしまった。
もちろん黒幕に辿り着いたからといって、これで終わりではない。今後も国同士の問題により解決には相当な時間が掛かることだろう。更に、まずはデュトワ国に蔓延る害虫の駆除が優先されるのであるから、尚更だ。
それでも、黒幕が判明したこと、真相が明らかになったことは、一つの区切りだ。
――そう、区切り。……ラシェルの死を本当の意味で受け止め、現実に戻るための区切り。
だが、気持ちはなかなか整理がつかない。
自分の不甲斐なさに嫌気が立ち、机に突っ伏した。その時、ガチャっと扉が開いた。
「おーい、邪魔するぞ。……あれ、寝るとこ?」
「……次から次へと。本当にお前たちは、私の邪魔をするのが好きだな」
深いため息を吐く私に、テオドールは首を傾げた。
「お前たち? 誰のことを言ってんの?」
「シリルだよ。お前たちは、ゆっくりと仕事する時間も与えないつもりか」
「は? 仕事ぐらい好きにしたら良い。俺のことは気にせず、続けたらどうだ?」
「気が散って出来るはずがないだろう」
深いため息を吐きながら、ギロッとテオドールを睨む。すると、テオドールは不思議そうに肩を竦めた。
テオドールの前で続きをしようとは思えず、机の上に広げていた紙を机の引き出しにしまう。
まるで自室かのように勝手にソファーに座ったテオドールにこれ以上文句を言う気力もない。私もまた、執務机から移動し、テオドールが座った方とは反対側のソファーへと腰を下ろし、正面を向いた。
「……で、お前に任せたことは全部片付いたのか」
「国内の方は大体はな。リカルド殿下の方に任せている隣国側はまだ時間が掛かりそうだけどな。はい、これは国内分のリスト」
テオドールが私に手渡したファイルには、ラシェルが暗殺された事件、キャロル嬢が毒を盛られたお茶会の事件、そしてデュトワ国内に蔓延るオルタ国のスパイ問題。それらに関わった人物たちのリストだった。
ファイルをパラパラとめくりながら、一人ずつ確認していく。関わっていた貴族に関しては、私が自ら立ち合い連行していった。だが、このファイルには使用人や屋敷に出入りしていた人物等、更に詳しく記されていた。
「……よく調べられているな。助かるよ」
「それで、今回関わっていた貴族たちの処分はもう決めたのか」
「いや、陛下や貴族院とも相談しないといけないからな。裁判も長引くだろうし。とりあえず、ヒギンズ侯爵とジョアンナ・バンクスに関しては、聖女暗殺未遂の罪により拘束している。ヒギンズ侯爵は、違法薬物の売買や禁止されている奴隷商に関わっていたから罪が相当重くなるだろう」
「まさかラシェル嬢が起こした事件の真相が、仕組まれていたものだったとはな。ラシェル嬢が毒薬を購入した店は、オルタ国出身のヒギンズ侯爵家お抱えの商人だった。そして、ラシェル嬢を騙して毒薬を聖女のお茶に混ぜるように唆した、と」
「あぁ。目的はラシェルを私の婚約者の座から下すこと。間違っても聖女を殺すことがないようにと、ラシェルとキャロル嬢のお茶会にヒギンズ家の侍女が解毒剤を持って待機していたとはな」
実際には、ヒギンズ家の侍女は母からの遣いだと言って、マルセル侯爵家で待機していたらしい。それを手引きしたのは、バンクス夫人だ。
ヒギンズ家とバンクス夫人の目的は、ひとえにカトリーナ・ヒギンズを私の婚約者にすることだった。
「カトリーナ・ヒギンズが私の妃となれば、デュトワ国でのオルタ国の介入は容易くなる。なんといっても、カトリーナは母上と違って社交界を牛耳ることもできるだろうし、実家のヒギンズ家は欲深さを隠しもしないからな」
「デュトワ国がゆっくりと弱っていくのを数十年と待つつもりだったは。恐ろしい話だ」
オルタ国王の手先として、バンクス夫人はデュトワ国の機密情報を集めていた。いつの日か、デュトワ国を属国とする為に。失われたしオルタの栄華をデュトワから取り戻すために、と。
――ラシェルはその為に利用されようとしていた。
「……だが、バンクス夫人の話ではラシェルを殺す計画はなかった、と」
「婚約破棄されたラシェル嬢は、社交界には二度と出ることは叶わなくなる。……そこを狙ったのだったな」
「あぁ。私たちは光の魔力が強いせいか、闇の魔力を感知することが難しい。だが、それが可能だった人物こそが、ジョアンナ・バンクスだった」
違う世界の自分と魂が入れ替わるまで、私は闇の精霊の存在も闇の魔力についても全く知らなかった。けれど、オルタ国では当たり前に存在し、王族や高位貴族では稀に闇の魔力を持つそうだ。
オルタ国でも貴重な闇の魔力持ち。それは、この国では知り得なかったが、オルタ国では相当な利用価値だった。元々魔力の高さでラシェルを婚約者として選んだ私としても耳が痛い話だが、本来の彼女の力は水ではなく、闇でこそ発揮する。ラシェルはそれを狙われた。
「ラシェル本人も知らなかった闇の魔力の高さを、オルタ国王は利用したかった。だから、孤立させたラシェルにバンクス夫人が、救いの手を差し伸べる予定だった」
「ほとぼりが冷めるまで、オルタ国で預かるとラシェル嬢やマルセル侯爵を説得する予定だったらしいな。オルタ国王は息子であっても、易々と王位を譲りたがらないそうだ。だが、第一王子はミネルヴァの実家で権力を持っている。第二王子は相当な闇使いだそうだ。だからこそ、ラシェル嬢の力を手元に置くことで、オルタ国王の国内においての力を強める予定だったそうだな」
「その計画を壊したのが、オルタ国王妃ミネルヴァか」
ミネルヴァは、バンクス夫人やオルタ国王の計画全てを把握していた訳ではない。けれど、ラシェルを獲得しようとする動きを掴んだ。
オルタ国王が自分を冷遇していることは、ミネルヴァ自身がよく知っていた。だからこそ、ラシェルを側妃にするかもしれないという情報に、激怒した。
未だ後継者を指名せず、バンクス夫人に執着を見せ続けるオルタ国王に長年の嫉妬心や猜疑心が強かったのだろうことが、ミネルヴァの焦りを刺激した。
もしもラシェルがオルタ国王の妃として、男児を産んだとなれば、ミネルヴァの愛するファウストが後継者に選ばれないかもしれない。
――危険な芽は排除するべきだ。……今回の件を問い詰めたリカルド殿下に、ミネルヴァはそう答えたそうだ。
「私がラシェルのことを嫌っているという噂が、ミネルヴァの行動を後押ししたんだ。……もし殺されたとしても、婚約破棄されて修道院に行かされるような者の死の真相を私が突き止めるはずがない、と」
「……どうだろうな。だが、ミネルヴァは元々残酷で狡猾な女だ。今回の件でミネルヴァに関しての情報が明らかになってきた。彼女は、オルタ国王に近づきそうな女たちを毒で排除していたそうだ。実家ぐるみでだ」
ミネルヴァの生家は、オルタ王族よりも権力を持つ家だ。国王がそれを疎んでいることも知っていた。だから、ミネルヴァはいつ何時も自分の足元を揺るがす存在を許さなかった。
彼女は自分の立場を脅かす存在を徹底的に排除した。それが実の姉であっても。
――そんな女の浅ましい思惑で、ラシェルは無惨に殺されたんだ。……たった一人で。
それを許すことなど出来ない。今すぐにでも、身一つでもあの女の前に行って、ラシェルと同じ目に合わせてやりたい。……いや、ラシェルよりももっと残酷に、絶望の中で一生を終えさせてやりたい。
膝の上に置いた手は、力を込め過ぎて爪が食い込む。だが、それでも力を緩めることが出来ない。悔しさだけが込み上げてくる。
「本来ならこの手で、ラシェルの仇を取りたい。……それが出来ないのが悔しくてたまらない」
「分かるよ、ルイ。俺も同じ気持ちだ」
深い悲しみを隠さない声色にハッと顔を上げる。そこには、顔を歪めながら無理やり笑みを作るテオドールの姿があった。
――そうだ。テオドールは、私よりもずっとラシェルの死の真相に向き合ってきた。どれ程悔しさ、憎しみを抱えているのか。それでも、私の背を叩いてくれている。
今日だってそうだ。きっとシリルもテオドールも、今日という日に私を一人きりにしないよう、ここに来てくれたのだろう。
テオドールだって一人で過ごしたかったかもしれないだろうに。
「ルイが直接手出しをするこは叶わなかったかもしれない。だけど、あいつは……あいつらは、徐々に失っていくんだ。地位も名誉も名声も、今まで当たり前にあったものを失っていく」
「あぁ……そうだな」
見栄を何より重視するミネルヴァにとって、それは死ぬことよりも辛い屈辱になり得るのかもしれない。
「リカルド殿下からの伝言では、この件で、隣国は国王は退位し王妃は離縁になるだろうと。そして新たな王には第二王子のリカルド殿下が即位する。こちらに有利な条件で条約を新たに結ぶことで落ち着くことになりそうだ」
「あぁ。結果的に、ラシェルがこの国の将来を救ってくれたようなものだ」
今回の事件はデュトワ国だけでなく、オルタ国の今後をも好転させていくれる結果になっただろう。
――ラシェルという、私のたった一人愛する人を失ったことにより。その喪失感は決して今後埋めることは出来ないだろう。
「お前にはまだやらなくてはならないことが沢山ある。あまり思い詰めるなよ」
「……分かってる」
俯く私に、テオドールのテノールの響きが届く。その声は静かに、そして優しく私の心に響いた。
「ルイの悔しさは、俺にもよく分かるよ。犯人が分かったからといって、すぐに気持ちの整理がつく訳じゃない。……だが、ようやく会いに行くことができるな」
テオドールの言葉に、私は静かに一つ頷いた。
「一人で行くんだろう? 大丈夫か?」
「あぁ、一人で行きたいんだ」
「分かった。……試作品だから効果はどこまで有効か分からないが、このペンダントを着ければ、認識阻害の術が掛かるようになっている。お前が王太子だと気づかれることもないだろう」
顔を上げて手を差し出す。すると、その上に乳白色の魔石が嵌め込まれたペンダントがチャリンと音を立てて置かれた。
「……助かる。ありがとうな、テオドール」
テオドールは口角をニッと上げ、私の頭をポンポンと撫でた後、無言で部屋から出て行った。
♢
執務机から立ち上がると、真っ黒な外套を羽織り、テーブルに置かれた花束を手に取る。
咲き誇った白百合の中に数本蕾も混じっており、白と緑が清廉さを際立たせる。百合の香りが鼻を掠め、目を閉じればここが執務室であることを忘れてしまう。
共も連れず、外に出ると夜空に浮かぶ無数の星に、ほうっと息を吐く。
今日は満月だ。
いつもより月が明るい。これであれば、魔石ライトを使用すれば、夜道もよく見えるだろう。
そう考えながら、愛馬に跨り王城の正門を堂々と出ながら、王城からすぐ近くの山を駆け上がる。標高も低く、あっという間に山頂に着く。
その場所は、見上げれば眩しい星空を隠すものは何もなく、眼前には王都の街並みが広がっており、見晴らしの良い場所だ。
「王都を一望できるいい場所だ。まるで空まで飛んでいけそうだな」
――あぁ、ここは静かで落ち着くな。マルセル侯爵がこの場所を選んだ理由がよく分かる。
愛馬を近くの木に繋ぎ、花束を手に持ちながら一歩一歩、目的の場所まで近づく。
その場所に着くと、私は膝をついて花束をそっと添えた。
「遅くなってごめん。……ラシェル」
私の視線の先には、長方形の白大理石。
その上には、色鮮やかな花が添えられており、どれもが枯れた様子もなく美しく咲き誇っていることから、昨日もしくは今日、ここを訪ねた誰かが置いていったのだろう。
――もしかしたら、私の執務室を出たテオドールが、ここを訪ねたのかもしれないな。
ここはラシェルの亡骸が埋葬された場所だ。
もちろん、この下に彼女の魂は眠ってはいない。それは十分に分かっている。
だが、それを知っていてなお、私はこの場所に足を運ぶことが出来なかった。
ラシェルの葬儀に出たきり、私は一度もここに来たことがない。
石板には刻まれたラシェル・マルセルの名を指でなぞる。
「ようやくここに来ることができた」
ラシェルの死の真相を明らかにした時、ここに来ると決めていた。私の口から君に、報告するべきだと思ったから。
だが、ラシェルの墓を目の前にすると、どうしようもなく胸が苦しくなる。
全てを明らかにして決着をつけた時、一区切りつけなければいけないと思っていた。黒幕を突き止め、君に報告が出来れば、きっと前を向けるのだと信じて。君に報いることが出来ると信じて。
だけど、少し違ったようだ。
もちろんラシェルを陥れた人物たちに罪を償わせることは出来る。だが、それで気持ちが晴れることなんてことは一切ないだろう。
君が帰ってくることなど、ないのだから。
何より、この事件に関わった人物ひとりひとりを確認し、事情聴取で本人の口から罪を明らかにされた時も、彼らだけを憎んだのではない。
罪が明らかになる度、関与が一人増える度、一番殺してやりたいと思ったのは、私自身なんだ。自分の不甲斐なさに、自分のとった行動や選択の一つ一つに、何度も何度も憎しみが沸いた。
――愛する人を殺したのは、間違いなく私だ。
でも、きっとこんなことを考えている私に、ラシェルは悲しい顔をしながら否定してくれるのだろう。自分のせいだった、と。私を責めることなく。
触れた手から伝わる温もり、振り向いた時に目元がくしゃっと細くなる微笑み、頰を染め恥ずかしそうに拗ねる唇、泣き出しそうになった時の潤んだ瞳。こんなにも鮮明に思い出せるのに、君だけがいないんだ。
「あぁ、終わらせたくないな……」
――寂しいよ、凄く。君がいない人生は、寂しい。
きっとこれからも私は君を想い、君を追いかけるのだろうな。届くことのない想いを手放すことも出来ず、君の声を笑顔を何度も何度も思い浮かべながら、いつだって君を恋しく思う。
その時ふわりと柔らかい風が頰を掠め、辺りの木々から葉が揺れる音がする。顔を上げると、満月が美しく輝いている。手を翳すと、まるでこのまま吸い込まれてしまいそうな気がする。
「不思議だな。こんなにも苦しいのに……月を綺麗だと思えるんだからな」
ポツリと呟いた声は、静寂の森に消えていった。それが余計に、自分がこの場に一人なのだと明確になるようだった。
孤独は、自分の隠した弱さを暴かれるようで苦手だ。だが、ここには私とラシェルだけだ。そう思えば、孤独も悪くない気がする。
私は墓の隣に並ぶように、地べたに腰を下ろした。普段は絶対にしないであろう行動だ。だが、見ている者など誰もいないのだから、気にする必要はない。
目線を隣に向けると、私が供えた花束が月明かりで照らされているように見える。
その瞬間、サーッと強い風が通り抜ける。外套が捲れて視界が遮られた瞬間。
私と同じように地べたに座り微笑むラシェルの姿が見えた。
「ラシェル……?」
思わず手を伸ばしながら瞬きをした時、幻影は一瞬で消えた。
――幻、か。……そうだ、ラシェルがここにいるはずがない。
だが、膝を抱えるように座りながら、目を細めて微笑むラシェルの幻覚であればいくらでも見たいものだ。
そんなことを思いながら、深くため息を吐いた。そして、もう一度深呼吸をして、再度隣を見遣る。そこは先程と何ら変わらず、百合の花束が置かれていた。
思わず苦笑しながら、冷たい白大理石に指を這わせた。
「……ラシェル、君に伝えたいことが沢山あるんだ。まず、何から話そうか。時間なら沢山ある」
――ラシェル、君は今日も笑っているか? ……幸せでいてくれたらいい。私の隣でなくとも。
夜空に瞬く星空を眺めていると、流れ星が流れた。
星に願いごとをするような年でもないが、どうせ願うのであれば、君の幸せが良い。
どうか、いつまでも幸せに笑っていてくれたら……。
そう願わずにはいられない。
感想、ブックマーク、誤字脱字報告等いつもありがとうございます。
オルタ国、並行世界がメインの第2部でしたが、これで完結になります。
最後はもう一人のルイ視点でした。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
次回から第3部になります。ぜひ今後の展開も楽しんでいただけるように頑張ります!
また、7月10日書籍版6巻が発売になります。
こちらもぜひお手にとっていただけますと、とても嬉しいです!
今後とも『逆行した悪役令嬢〜』をよろしくお願いいたします。