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2-39 ルイ視点

 執務机に置いた懐中時計に視線を向けながらため息を吐く。


「ルイ、さっきからいやに時計ばかり気にしているが、誰かを待っているのか?」

「あぁ。ちょっとな」


 目の前のソファーでヴァンの頭を指で撫でていたテオドールが、不思議そうにこちらを窺い見た。


「……複雑だな」

「何が? ようやく今日元の世界に戻れるかもしれないんだぞ」


 そう、ついに今夜行動に移す日がやってきた。

 明日、日付が変わると共に精霊王が光の精霊の地を発つ予定だそうだ。その為、それに合わせて私たちも日付を跨ぐ0時にヴァンを通じて、光の精霊の地へと向かう。


 待ちに待っていた日だからこそ、不安、緊張はあれど期待を隠すことはできない。だがそう思う一方で、本当にこのまま帰って良いのだろうかという葛藤にここ数日悩まされている。


「もちろん今すぐにでも帰りたいさ。だが……やり残したことが多過ぎて気がかりなんだ」


 私の返答にテオドールはヴァンを撫でていた手を止め、眉を下げた。


「こっちの世界のラシェル嬢のことか」

「あぁ。ようやく少し手がかりを掴めたところなんだ。今、私が戻れば誰がラシェルを殺したのか。なぜ狙ったのか。それを知る術がなくなってしまう」


 ――誰が何の目的でラシェルを襲ったのか。その敵が明らかになっていない状態で本当に自分は戻ってもいいのだろうか。ましてや元の世界でもその相手が分かっていないことで、ラシェルに危険が迫る可能性だってあり得る。


「ようやく真相に近づいてきたところだ。俺だってもどかしい気持ちがないと言ったら噓になる」


 机の上で固く組んだ手に自然と力が入る。

 テオドールは困ったように苦笑しながら、ソファーから立ち上がり私の正面に立つと、緩い表情から一変して真剣な表情へと変えた。


「……ルイは、本当にあの方の関与を疑っているのか」


 2人しかいない部屋であるが、テオドールは周囲を警戒するように視線を動かした後、声を潜めながら私に問う。


「テオドールだってそうだろう? 分かっていたはずだ。何故この世界の私が婚約者を殺されて尚、ここまで沈黙の姿勢を崩さなかったのか」

「……まぁな」


 テオドールは眉を顰めて悲痛な面持ちで視線を下げる。


 一瞬にして静寂漂う室内に、扉の向こうからコンコンとノックをする音が響き渡った。


「殿下、よろしいでしょうか」


 部屋の外から聞こえるシリルの声に、入室許可の返事をすると、シリルは手に書類を持ちながら私とテオドールの元へと足早に進んだ。


「あぁ、シリルか。頼んでいたものは」

「こちらです」

「何だ? 途中報告?」


 シリルが机に置いた書類にテオドールは不思議そうに覗き込んだ。


「これはアルベリクに頼んでいた薬草の報告書だ」

「アルベリク殿下からは、あくまで途中経過のため確証は得られないと念を押されております」

「いや、ここまで調べられていれば十分だ」


 書類を隅から隅までしっかりと目を通したあと、横から覗くように眺めていたテオドールへと渡す。


「へぇ、やっぱりアルベリク殿下は凄いな。この数日のうちにここまで調べられるとはな」

「テオドールが、ラシェルが入手したとされる呪いの薬について早急に調べてくれたおかげだ」


 キャロル嬢から預かった手紙に書かれた少ない情報から、ここまで辿り着けたのはテオドールが持つ情報網に他ならない。

 薬局の主人、帳簿、売られていた薬、一つ残らず全てを残さずに消えたにも関わらず、ラシェルが入手した薬を特定できたのは、テオドールが魔術師を休業していた間に自らの足で築いてきた人脈のお陰だ。


「いや、あのキャロル嬢の事件がそこまで繋がっているとは俺も正直驚いた。でも、あの店は調べれば調べる程きな臭いな。国で認められていない薬草を多く扱っていたらしい。逃げ足が速かったのか、事件後に騎士団が向かった時にはもぬけの殻」

「事件が公になる前に逃げることができたということは、このお茶会事件、そしてラシェルを殺した首謀者と繋がっていた可能性が高い」

「首謀者……ですか?」


 私の言葉にシリルが茫然と目を見開いた。


「ラシェル嬢とキャロル嬢のお茶会で、誰かが茶葉をすり替えたということでしょうか?」

「そういうことだろうな。……ラシェルが呪いの薬を入手することを知っていた者。いや、薬草や薬局の情報をラシェルに伝え、ラシェルがそこで購入するように先導した者がいる可能性がある」


 首謀者にとって重要なのは、ラシェルがキャロル嬢を害する為に薬を自ら入手し、盛ったという事実。その毒の種類はどうとでもできるということだ。


「つまりは、あのお茶会で毒をすり替えることができた人物ということですよね。そうなると数人に絞られます。2人きりのお茶会、場所はマルセル侯爵邸……いえ、ですがマルセル侯爵家の使用人がそのようなことをするでしょうか」

「しないだろうな。マルセル侯爵はああ見えて慎重な人だ。使用人の入れ替わりもほとんどない。だが、あの日はキャロル嬢とのお茶会前にラシェルの友人が数人尋ねているようだ。それに、王宮舞踏会が近かったこともあり、王宮から遣いの者が数人出入りしている。あとは、キャロル嬢と共に大教会の神官も来ていたようだな」


 以前シリルが調べてくれていた資料のファイルにその辺りは詳しく記載されていた。


「当日マルセル侯爵家に出入りした者たちは、皆取り調べを受けていて、怪しい点はないとされていたようですが……もう一度洗い出す必要がありそうです」


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逆行した悪役令嬢は、なぜか魔力を失ったので深窓の令嬢になります6
― 新着の感想 ―
[一言] メイン軸を外れた世界に放り込まれてしまったヒーロー。とても面白い展開で先が気になります。元の世界に無事戻れることを願いますが、この世界にも残された者達に救いがあることを期待します。
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