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『この光、綺麗だろう?』

「えぇ、とても。まるで空に浮いているようで不思議な場所ですね」

『あぁ、でもそう見えるだけで落ちる心配はないから安心しろ』


 足元さえ暗闇に包まれた中、まるで空を浮いている様な、異様な空間に私は戸惑いを隠せなかった。

 それでも、なぜか不思議と怖さは感じない。暗闇に浮かぶ無数の星の煌めきが、私に優しく微笑みかけてくれるような気がするから。

 辺りを見渡しながら目の前の光に手を伸ばそうとするが、その光はふわりと舞って鳥のように私の手からすり抜けた。


 その様子を少し先を歩いていたネル様がおかしそうに笑みを浮かべ、こちらを振り返った。


『ほら、そこに突っ立ってないでこっちに来い。まだまだ道は続いているからな』

 

ネル様の言葉に、私は頷きながら止まっていた足を前へと進めた。

 扉付近の数多の星は小さく淡い光を放っていたが、足を進めるにつれて光の大きさが少しずつ大きくなっている。


「ここは夜の世界なのですか? だから、こんなにも星が瞬いているのですか?」

『この空間は昼も夜もない。時間に影響されない場所だよ』


 ――時間に影響されない場所? 一体どういう意味なのかしら。


『ははっ、難しいか。俺にとっては普通なんだけどな。……ほら、一番見せたかったのはここなんだよ』


 ネル様は肩を竦めながら笑うと、一際大きな輝きを放つ光の球体を優しく撫でた。

それは、私の体の半分ほどの大きな光の玉で、手のひらサイズの沢山の光に守られるように中央に浮かんでいた。

ネル様が触れた光はそれに応えるように、白色から徐々に赤みを帯びた光へと変化させた。


「えっ、あの、この大きな光は意志があるのですか?」

『意思? ははっ、変な質問だな! そんなものはないよ。うーん……でも、そうだな。俺にとって、この空間もこの光も特別なものなんだ。一番居心地がよくて落ち着く場所だよ』


 いつも子供のように自由奔放で掴みどころのないネル様の初めて見る柔らかい微笑みに、私は思わず目を見開いた。


 ――こんなにも穏やかな顔をするネル様を初めて見た……。


 きっと先程ネル様自身が言った特別な場所というのは紛れもない事実なのだろう。


『お前はこの場所をどう思った?』

「そうですね。あまりにも不思議で、ここが夢か現実か区別がつかないほどです。ですが、優しく穏やかで、とても美しい場所ですね」

『あぁ、お前ならそういうと思った! 闇に愛されたお前は俺の感覚と似通う気がしてたんだ』

ネル様は私の返答に目を輝かせて嬉しそうに破顔した。

『もしこの場所が気に入ったのなら、好きに出入りしても良い! 他の精霊も入れない特別な場所だけど、お前には許してやる!』

「え? あの、ありがとうございます」

『あぁ、でもあまり強く触ったり投げたりするなよ。下手に光に手を出すと世界を壊しかねないからな』


 ――世界を壊す? 何の話だろうか。


 私が不思議な顔をしていたのに気がついたのか、ネル様も同じように首を傾げた。だがすぐに何かに気がついたように『あぁ、そうか』と納得したように呟く。


『そういえば説明してなかったか。ここは俺が生み出された場所であり、俺の存在する理由。そして俺の力の源』

「精霊王様が生まれた場所ですか?」

『そうだ。精霊王といっても命は無限ではないからな。それでも人間の命なんて俺にとっては一瞬。精霊の王とは、長い長い生を授かり、時の均衡を保つため力を使い続ける。そして、全ての力を使い果たすと新たな次代が生まれるんだ』


「力を使い続けることは、命を縮めることになるのですか? だとしたら……」


『あぁ、お前を生き返らせたこと? そんなの大した力使ってないよ。お前が想像するより遥かに精霊王の力は大きい。少し世界を入れ変えるぐらい何てことはないんだ』


 ネル様の言葉にドキッとし、胸の前でギュッと拳を握る。もしかしたら、時間を戻し私を蘇らせたことは、命を縮める行為だったのではないのかと。


 だが、ネル様は私の考えなどお見通しだったのか、一瞬不思議そうな顔をしたもののすぐに首を左右に振った。

 その返答に私はほっと胸を撫で下ろした。


一度死んだ私が、今こうして生きていられることは幸せ以外の何物でもない。それでも、それが誰かの犠牲の上にあるのであれば、とても喜べるものではない。


『俺が好き勝手やっていることに罪悪感を覚えるなんてな。本当にお前は変わったやつだな。人間ってやつは俺の想像通りにはいかないからこそ面白いな』

「人間に興味があるのですか?」

『あぁ、そうだな。暇つぶしに持ってこいだからな。思い通りに動くコマなんて面白みに欠けるだろう? その点お前のように俺を楽しませてくれる奴が現れて楽しいよ』


 ネル様は顎に手を当てながら、私の顔を覗き込む。紫の透き通る瞳にジッと見つめられると、まるで全てを見透かされているかのような居心地の悪さに、思わず身を縮こませて後退りする。

 その時、コツンと何かにあたったような衝撃を受け、足元を見遣る。そこには、先程の無数の光の中で比較的大きく青い光を纏っている異質な光が、私とネル様の間を割るように浮かんでいた。


『ははっ、面白い。意思を持たない世界が、まるで守ろうとでもしているのか?』

「えっ? それはどういうことですか? あの、この光はいったい何でしょう。他のものと比べて少し違うというか……青い光はこれだけですよね」


 戸惑いながら尋ねる私に、ネル様はニヤリと口角を上げた。



『この光全ては、過去の世界だ』






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逆行した悪役令嬢は、なぜか魔力を失ったので深窓の令嬢になります6
― 新着の感想 ―
[良い点] とっっっても面白く、何もかも放り投げ最新話まで無我夢中で一気に読み切ってしまいました。感情が高ぶったままどうしてもお伝えしたくコメント失礼します。久しぶりにとても引き込まれる小説に出会い、…
[一言] 更新待ってました!お疲れ様です! 意思?のある青い光可愛いですねw
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