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2-4 イサーク視点

「イサーク殿下、お身体大丈夫ですか」

「あぁ、大丈夫じゃないな。……まったく、騎士団で剣を振り回していた方がよっぽど楽だ」


 俺が見せた魔術に驚いた王太子と聖女を残し、俺たちは早々に王宮を出た。

 彼らが俺が告げた言葉に言葉を失い、呆気に取られている隙をみて、アドルフォが場を繋ぎながらすぐに帰宅する旨を告げていた。しかも、気丈に振舞いながらも今にも倒れそうになる俺を、最短で休ませるように既に馬車が準備されていたようだ。


「お前が馬車を準備しておいてくれて助かったよ」

「こうなるかと思っていたので」

「俺もそうだとは思ったが、それでもこれが一番いい方法なのだろう?」



 背もたれに体を預け、乱れた息を整えるように何度も荒い呼吸を繰り返しながらアドルフォに笑みを見せる。すると、アドルフォは眼鏡を人差し指で直しながら大きなため息を漏らす。


「えぇ、確かにそうでしょうね。王太子殿下はともかく、マルセル侯爵令嬢の興味を引くことには大成功といえるでしょうね」


 その言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。

 聖女の反応で、彼女は闇の力が何かを掴んではいるが、どのような魔術を使えるのかは知らない。それに学ぶ術もないのだと直ぐに理解した。

 だからこそ、今回の目的が思った以上にスムーズにいったのだろう。闇の魔術に関する力を直接見せ、またオルタ国への興味を持たせるという目的。ここまで俺が体を張って、何も収穫なしだったら意味がない。


「それにしても、よく決心しましたね」

「闇の魔術を使ったことか?」

「はい。殿下は、その」


 視線から俺を労わるように目を伏せたアドルフォに、思わず笑い声が漏れる。言い淀んだところで、何を告げたいのかが分かってしまったから。



「あぁ、俺の闇の力は弱いからな。あんな傷を癒す高度な魔術を使いこなせるのは、王族といえども兄上だけだろうな」


 ――それでも、無理をしたかいはあったのだろうな。


「あの聖女の顔……」


 先程、俺が短剣で自分の腕を傷つけた時、あの時の表情は本当に見ものだったな。いかにも凛として気高そうな雰囲気を、一瞬で蒼褪めさせて。


「それはそうでしょう。オルタ国の第三王子殿下がまさか目の前で自傷するなど、誰も考えないでしょう」

「まぁな。でも、聖女と違って、あの王太子は心配というよりも、俺の行動理由を怪しんでいたけどな」

「あの王太子殿下は、我々にとってはやりにくい相手といえそうですね」



 さっきまであの聖女の表情が崩れたことに上機嫌だった俺にとって、釘を刺すようなアドルフォの言葉にため息が漏れる。


「まったく、人の気分を悪くするなよ」

「それはそれは、大変失礼しました」


 思わず眉間に皺を寄せながら、アドルフォに文句を言うが、アドルフォは《はいはい》とでも言いたいかのように口だけの謝罪の言葉を述べた。



 ――王太子、か。どれだけ王太子が絡んでくるかで、計画を修正する必要があるな。



「まぁ、いい。とりあえずは上手くいった。それに置き土産は置いてきたのだから、あちらからコンタクトを取ってくるのを待つだけだな」

「あぁ、招待状のことですか。舞踏会直前に聖女の存在を知った割には、イサーク殿下は行動が早いですね。さすが、闘将であり知将である殿下です」

「……それ、全然褒めていないだろう」


 全く、知将とは。俺は勘は鋭いと思うし、鼻も利く。だが、頭を使って戦術を練り上げるのはいつだってアドルフォの方が上手だと理解している。

 今日だって、俺がこうすることを予測してあのタイミングで話しただろうし、ここまでの流れが用意周到に準備されていたともいえなくもない。


 腕を組みながら顔を上げると、そこには愉快そうに目を細めるアドルフォの姿。


「全く、本当に気に障るな」

「お褒め頂きありがとうございます」

「そういうところだ!」

「私は殿下のさっきまで倒れそうな程ふらふらだったのにも関わらず、既に元気になっているその体力おばけな所が本当に流石だと感服しております」



 ――褒めているようで全く褒めていないだろう、それ。


 まぁ、いい。あまりこいつに喧嘩を吹っかけてもいいことがないのは昔からだ。あまり納得はしていないが、肘を膝に突きながら左手に顔を乗せ、大きなため息と共に窓の外へと視線を移す。


 馬車の揺れを感じながら、暗闇に包まれた街を眺める。所々小さな灯りから見える街並みは、温かみがあり、治安の良さを感じさせる。

 


「暗闇に灯る温もり、か」



 ――まるで、あの聖女のようだな。


 真っ黒な光を通さない黒髪に、絶えず綺麗な微笑みを浮かべていた彼女。意外と瞳の色がキラキラと変わる様子もまた彼女自身の美しさを表しているかのようだった。



 ――昔の聖女の絵に似ていたな。


 建国王の妃である先の闇の聖女。彼女もまた漆黒の髪に温かな笑みを浮かべていた。ゆっくりと流れる街並みを眺めながら、ふとそんなことを考えた。


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