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──あぁ、何と後悔の多い人生だったのだろう。
数多のひとを傷つけ、無関係の人間を死に追いやってしまうとは。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
何度も謝罪の言葉を口にするも、現実は何も変わらない。絶望という言葉のみである。
ラシェルは目の前の真っ赤に染まり、動くことのない御者と侍女を震えて見ることしか出来なかった。
首を必死に振りながら、腰が抜けた体をどうにか動かそうともがく。
その様子を嘲笑うかのように、目の前の大柄な男達が下品なニヤけた笑みを浮かべている。
その手に持つ血に染まった剣が、今まさにラシェルに振り下ろされるところであった。
───プツッ────
そこでラシェルの意識は無くなり、18年の短い人生が幕を閉じた
はずであった。
♢
ラシェルが目を開けると、そこはいつもの侯爵家の自室のベッドであった。
真っ白いシーツに柔らかい布団、大きな窓にかけられたカーテンからは朝の光が差し込んでいる。
──なぜ
助かったのだろうか。
いや、私はあの時に死んだはずだ。
修道院へと向かう道中、森を抜ける手前で現れた賊達が襲ってきたのだ。
最後まで私を見捨てず、「お嬢様は私がいないと」と、涙ぐみながら修道院まで見送ってくれると着いてきた侍女のサラ。
そして、いつも温かい笑みを浮かべた壮年の御者。
彼らを巻き添えにして、確かに私は死んだ。
あの血生臭さに、胸を突き刺した剣の感覚が今も鮮明に思い出せる。
心臓目掛けて突き刺したのだから、あれで命が助かるはずがない。
では、あれは夢?
いや、あれが夢であるはずがない。
では、何故生きているのか。
思考を巡らすラシェルの元に、トントンと軽やかなノックが聞こえる。
「はい」と条件反射で返事をすると、扉が開かれる。
嘘でしょ。ラシェルは思わず叫びそうになる声を手で口を押さえることで止める。
だが、手の震えが止まらない。きっと顔は青白く染まっているだろう。
なぜなら、現れたのはラシェルと共に殺されたはずの侍女のサラであったからだ。