⑥?の生態(中)
記憶も朧げだが、確かにサナとベッドにいたような気がしないでもない。
全く実感はないが……。
一応、昨夜のことをエドにでも聞いてみるか。
エドは寝起きなのだろう、ボサボサの髪を掻きながら扉から現れた。
「用件は分かってる、サナって娘との昨夜のことだろ?」
エドは言いにくそうに、目を逸らしながら話す。
「いや、俺も成行きで見ちまったんだよ。お前がベッドで裸で抱き合ってるとこを。」
あぁ……俺って奴は……!!
しかも見られてるって何!?
もう全てから逃げ出したい……
「いや、まさかサキュバ……って、オイ!どこ行くんだよ!」
俺はエドを一瞥もせずに逃げ出した。
体力ない中年の身体に全力疾走は負担が大き過ぎた。
走るのに疲れた俺は大通りをフラフラ歩いていた。
ただ、そんな状態でも職業病なのか、目鼻は利くほうだ。
俺は行き交う人々の遠く先にサナを見つけ出した。
しかし、何か様子がおかしい。
衛兵らしき者に詰め寄られている。
俺は通行人に紛れて近付き、耳をそばだてた。
「貴様、登録魔法使いか確認できるものは持っていないのか?」
衛兵の問いに困惑し、首を振るサナ
「あ、あの……登録って?」
「魔法使いのクセにそんなことも知らんのか!?魔法は殺傷能力だけでなく精神への干渉能力もある。大量殺戮、詐欺、窃盗どんな犯罪でも思いのままだ。社会への影響が大き過ぎるだろう。」
衛兵は訝しげにサナを見ながら、サナへの対応をどうするか考えているようだ。
ここはサナを助けないわけにはいかない。
俺は素知らぬ顔でサナの横を通り過ぎながら、二人に話しかけた。
「サナちゃん、今日も魔法使いのマネゴトしてるのかい。衛兵さんに魔法使いと間違えられちゃうよ?」
サナは少し驚いたように目を開き、俺を見つめた。
そのまま通り過ぎる俺の後ろから衛兵の怒声が響く。
「魔法使いのマネゴトだと?なぜ早く言わない!さっさと立ち去れ!」
サナは小走りで俺に追いつき、礼を述べる。
「ありがとうございます。登録とか初めて聞いたので混乱して……。」
俺は魔法が使えないので詳しくは知らないが、市民の魔法の使用は登録制であり、習得できる魔法の種類にも制限があると聞いたことがある。
罰則も厳しい。
フェンリル召喚など、確実に許されていない……というか、想定すらされていないだろう。
俺の雑な説明でも概要は伝わり、サナは慌てて魔法使い丸出しの見た目の帽子を脱いで隠した。
「そんな制度があるなんて初めて知りました。この世界、想像してたファンタジーと違って魔法使いが少ないと思ってたんです。」
そう言った後、恥ずかしそうに続ける。
「あと、昨日のことなんですが……。」