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④酒場にて(後)

ふと見ると、女は俺のそんな反応を微笑んで見つめていた。

「ふふふ、そんなに喜んでもらえるなんて私も嬉しいです」

女の優しい眼差しについ見惚れそうになるのを耐える。

ヤバイ…可愛い…、早くなんか話さないと…。

「それにしても、こんなに魔法を使いこなすなんて凄いですね。実は俺も転生した者なんですが、しょぼい能力しかなくて羨ましいですよ」

あ、言ってしまった。

転生していることは秘密にしておいたほうが良かったかもしれない。

が、その効果はテキメンだった。

女は目をキラキラさせて近寄り、俺の手を両手でガッシリ握りしめた。

「会うの初めてです!私以外の転生者!」

女は名をサナと名乗り、転生してからの苦労を語りだした。

まあ、簡単に言うと転生したは良いけどモンスター怖いし、魔法を使って、何でも屋みたいな雑用請け負いをしているらしい。

魔法をアレンジして色々と応用しているらしいが、そんな簡単にアレンジが出来るなんて初耳だ……。

恐らくだが、かなり高度な知識や技術を要するものな気がする。

流石、転生者……。

俺にも、そんな能力が欲しかったよ……。


マスターは「転生者?なにそれ?」みたいな顔でグラスを拭いていたが、話が彼女の仕事に移ると、急に話に割り込んできた。

「サナちゃん、もし良かったらウチで働かない?!君のそのビールを冷やす能力は何でも屋なんかにしとくのは勿体ない!」

いや、仕事が酒場でビールを冷やすことが仕事の魔法使いも残念な感じだし、より一層勿体ない。

「マスター、そんなこと勝手に決めると奥さんにまた叱られるぞ」

気にせずマスターは続ける。

「そろそろ、うちの奥さんのカーラが買い付けから戻るから、一緒に話そう。きっとカーラも賛成だよ。」

どうやら、これもサナの苦労を思ってのマスターなりの気遣いなのだろう。

人の良さそうな笑顔で、一人で頷きながらサナの肩をポンポン叩く。

「私も色々な商売をしてきたが、初めての時は右も左も分からず苦労ばかりだった……。サナちゃん、一人でやっていくにしても、まずは雇われの身で経営の勉強をするのも良いと思うよ」



サナが何か言いかけようと口を開いた……その時、酒場の扉が激しい音を立てて開けられ、飛び込んできた男が叫ぶ。

「大変だ!!カーラがゴブリンに襲われた!」

マスターは顔馴染みらしい男に笑って答える。

「はは、今日の冗談は迫真だな。カーラと買い出し有難う、ビールでも飲んでいくか?」

だが、男は続ける

「すまん、トラン……俺が付いていながら……。ただ、まだ死んだわけじゃないはずだ……」

ただならぬ男の様子に、マスターの顔色がみるみる青く変わっていく。

「嘘だろ……カ、カーラ!カーラ!」

放心したようにフラフラと躓きながら扉に向かって歩むマスターをサナと二人で引き止める。

まだ昼で数は少ないが、他の客達も集まってきて力を貸してくれた。

「マスター、どこに向かうつもりだ!まずは話を聞こう!」

なんとかマスターに落ち着きを取り戻させ、男に話を聞く。

男はカーラに買い付けの同行を頼まれ、二人で無事に買い付けを済ませた帰りに街道でゴブリンの集団の待ち伏せを受け、必死で逃げ出したが気付くとカーラの姿がなかったとのことだ。

「トラン、すまない…。すぐに探したんだが、見つからなかったんだ…」

男は地べたに平伏しながら、掠れる声を絞り出す。

「よく知らせてくれた、ありがとう。」

マスターは男に手を差し伸べて立たせると、泣きそうな顔で俺達に向き直り、頭を深々と下げる。

「すまない……、力を貸してはくれないか…? きっとカーラは生きている…助けたいんだ!!」


そんなことは聞かれるまでもない。

「任せろ、必ず助ける。」

俺はこの店が気に入っているし、この気の良いマスターと奥さんのことが好きだ。

サナや他の客達も同じ気持ちのようだ。

俺は皆が互いに頷き合うのを見ながら、カーラ救出の計画を練り始めた。

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