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①キマイラの生態観察(前)

灼熱の夏の太陽がジリジリと草原に照りつける。

そんな事は気にかけず、俺は大地に寝そべって遥か彼方を双眼鏡で覗きながら、メモ帳に文字を書きなぐる。

《キマイラは、ライオンとヤギと蛇の3つの頭を持つが、餌はライオンの頭のみでしか食べない。》


キマイラ:ギリシャ神話に登場する合成獣。

ライオンのベースに対し、胴にヤギの頭、尾に蛇の頭が付き、コウモリの羽を持つ危険極まりない生き物だ。


双眼鏡の向こうでは、今まさにキマイラが捕えた哀れなゴブリンを引裂き、食べている最中である。

これで観察を開始してから、1ヶ月経つがライオン以外の頭が餌を食べたことは一度もなかった。

それは、消化器がライオンの頭にしか繋がってないからか?

では、呼吸器はどうなっているんだ?

声帯は?

謎は尽きない。



以前に酒場で話しを聞いた冒険者は、キマイラとの死闘を大袈裟な身振りで聞かせてくれた時にこう言っていた…。

「キマイラが俺に飛び掛かるのを辛うじて避けて、俺は背後から奴に切りつけたんだ。すると、奴は蛇の頭をもたげて威嚇をして噛み付こうとしてきた!」

この後も続いた長い話によると、冒険者はキマイラと引き分けたらしく、次は討伐すると息巻いていた。

まあ、眉唾ものか。

キマイラは非常に危険なモンスターで、並の冒険者なんて数人掛かりでも討伐どころか逃げることすら叶わないだろう。

あの冒険者には失礼だが、一人でそんな化物に太刀打ちできる凄腕には見えなかった…。

なんせ、飲み過ぎて酩酊し、ついには酒場の前の道で寝始めるような男だった(放っておけず、何とか宿を聞き出して、漫画のような千鳥足の彼を引きずるように連れて行ったのは大変だった……)。

けどもし、あの冒険者がキマイラを倒せるようなら、その暁には解剖をさせて貰いたい。

魔法で無理矢理に作られた生き物だから、どんな構造になっているのやら。


そうそう、魔法なんて俺の前にいた世界にはないものだった。

実は、俺は元々この世界の住人ではないんだ。

前の世界で車に轢かれ、目覚めたらこの世界にいた。

いわゆる、異世界転生ってやつさ。

ただ、その時に俺に与えられたスキルは「気配隠蔽」のみで能力値も普通…。

地味キャラだった俺への当てつけか??って感じ。

それでも、食っていくためには金がいる。

唯一の取り柄の「気配隠蔽」で出来る仕事(言い難いけど、コソ泥なんかもね)を転々として行き着いたのが今の仕事、「観察屋」だ。

この仕事は、モンスターの生態を観察して本にまとめて出版したり、冒険者に討伐に役立つ情報を売ったりしてする仕事。

薄給だが、前の世界にはいなかったモンスターの生態は興味深いし、楽しみながらやれているので、なかなか気に入っている。


双眼鏡の向こうでは、食事を終えたキマイラが木陰で寝転び、昼寝を始めた。

キマイラの頭はそれぞれに知能があるが、ライオンの頭に身体の支配権があるらしく、ライオンが寝る時は身体も寝るが、他の頭は身体が動き回っている時に寝ている。

自分なら、寝ている時に身体に動き回られたらたまったものじゃない…。

少し同情してしまう。


さてさて、キマイラも寝たことだし俺も飯にするか。

パンと塩漬け肉とドライフルーツ。

もう何日もこのメニューだ…。

少なからず飽きているが、人里離れた草原で贅沢は言えない。

溜息をついてリュックを探っていると、ふと脇の茂みの奥にプーコットの実がいくつも生っているのが目に入る。

プーコットの実は、まるでパイナップルのような味のイチゴ大の実で俺の好物の一つだ。

新鮮な食べ物にも飢えていた俺は、貪るように食べ散らした。

美味い!

夢中で食べまくる。


キマイラに背を向けて……


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