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第二十五話 「ヴァークナイト」

ウィルの前に余裕な面持ちで佇む男。ヴァークナイト。


この男はウィルのことを知っている。それに父親のジャックのことさえも。


戦闘において、相手に自分の情報を知られているということが最も痛い。

こちらは相手がどんな魔法を使えるかも知らないのだから。


治安維持兵達が使用する攻撃魔法の種類は数が多くないので、ほとんどウィルは知っている。

今まで治安維持兵と戦えてこれたのもそのためだ。ギャングなど治安維持兵の足元にも及ばない。


しかしながら、ヴァークナイトがそんなウィルが知っているような魔法を使ってくるはずがないだろう。

何しろ相手はデヴォルカスの海域を一隻の船で守っている集団の長であるのだから。


右手で掴んだ剣が汗で滑り落ちそうになる。


(何も...思いつかん...)


ウィルの頭の中は珍しく真っ白だった。


「威勢はいいが。それだけかね? 早く攻撃しないと。そんなんじゃ戦場で生きていけないぞ?」


ヴァークナイトの声でウィルは再び、意識を保った。


しかし、依然として体が動かない。


「じゃ、せいぜい逃げるが良い。ポテンシャルをプレゼンしてみろ。<斥力発動(アッティヴァ)>」


聴き慣れない単語を発したヴァークナイト。


次の瞬間。


見えざる力によって、再びウィルの体が吹き飛んだ。


「なっ!?」


突然の出来事で状況を整理できないでいる間も、ウィルの体は宙を舞い、今まさに落下していた。


「<竜巻>強!」


迫りくる地面目掛けて、ウィルは思いっきり空気の塊を放つ。


地面に衝突し、跳ね返った風力が己の落下速度を打ち消した。


体勢を調整し、地面に着地する。


「落下は問題ないようだな。」


上を見上げたウィルは、ヴァークナイトがいる場所に驚愕した。


「空を...飛べるだと!?」


ヴァークナイトは屋上から身を乗り出し、フワフワと空中を浮かびながら、まるで階段を降りるかのごとく地面に降りてきていたのだ。


「新鮮な反応だな! 兵士(ソルジャー)

「<土壁>」


ウィルは下へと意識を集中し、石畳の地面の下に存在していた土に、魔法を発動させた。


石の割れ目を突き破り、即席の土の壁をヴァークナイトとウィルの間に出現させたのだ。


「...さっき俺が空を飛べるところを見たのに、その対処法は如何なものかね〜」

「言ってろ」


ウィル自身、足止めするためにこんな土の壁を作りだしたのではない。


(逃げるためだ!)


ウィルは壁に向かって全速力で走り始める。


ヴァークナイトに破壊されるよりも前に。


「はて...」


空中に浮かび、土の壁を越えようとしていたヴァークナイトが、壁目掛けて直進するウィルを怪しげに見つめていた。


「<潜地>!」


魔法を発動させたウィルは土の壁の中にへと姿を消した。


「なっ!?」


ヴァークナイトは呆気にとられていた。


その様子を土の中に潜る前に確認したウィルはわずかに口元がにやけていた。


(あのヴァークナイトでも地面の中にいては手も足も出まい)


土の中を潜ることができる魔法<潜地>。地面が石畳であったため、潜ることができなかったが、要は繋がっている土があれば良いのだ。土壁を伝って石畳の下にあった土の中にウィルは移動することに成功した。


それでもウィルは用心のため、ヴァークナイトから距離を取るべく、全速力で地面の中を進む。

泳ぐと言ったほうが正しいかもしれないが。


「なるほど...これは一本取られたな。やはり陸ではまだ感覚が鈍ってしまうか...」


ヴァークナイトは顔に手を当てながら、大袈裟に困った表情を浮かべる。


「では、海でやってるいることを陸でも実践しようではないか。<千里眼>!!」


顔に当てた片手を己の帽子の鍔に当てたヴァークナイトは額が完全に出ないほどに少しだけ、帽子を持ち上げた。


「そこか!」


空中でホバリングをしていたヴァークナイトは一言だけ吐き捨てると、燕のように滑空し、地面スレスレの距離を保ちながら飛行を始める。


街の通りを歩いていた治安維持兵や職人達が目を見開きながら歩いている間を器用にすり抜けながらヴァークナイトはある一点を見つめ飛行した。


そして、


「<引力発動(アッテラルフォルツァ)>」


空中で飛行していたヴァークナイトが右手を地面にかざすと、地面が割れ、砕けた石の塊が幾つも浮上し始める。


石の塊がヴァークナイトの周りを通過すると、


「ウィル・クェーサー レジスタンスのリーダー。 貴様を逮捕する!!」


ヴァークナイトの片手はウィルの首を掴んでいた。


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