第十三話 「アサシン」
ウィルとアリアはライブバーの従者と貢物に扮し、『ゼイダース』の拠点に忍び込んでいた。敷地内を案内してくれているのは正門の警備をしていたクラッサというちょび髭の男だ。
クラッサの指示により建物に入った一行は待機室でしばらく許可が降りるまで待っていて欲しいと言われたので、アリアは待機室のソファに腰を掛けた。
「貴様はボスへの貢物だろうが! そこのソファに腰を掛けていいのは従者の者だけだぞ」
「あら そうね ただ私はあなたが近寄ってきてくれるのを待っているだけなんだけれど....」
「....なっ! 何を言っている! 俺みたいな下っ端の人間がボスの物に触れられるわけないだろうが....」
「ごもっともだわ!.....だけど私はまだボスの物にはなっていないわ今だけね!」
クラッサが喉を鳴らす。
その音を聞き逃さなかったウィルはクラッサに追い討ちをかけた。
「クラッサ様私は何も見ておりません。部屋の隅に立っております故」
「し..仕方がないな」
アリアが両腕を上げ、クラッサを自分の胸へと迎入れようとするポーズをとった。
待機室の外を覗き、近くに仲間達がいないことを確認したクラッサが息を荒げながらアリアの胸にダイブをした。
すると、自分の胸に飛び込んできたクラッサをアリアが両足と左腕を使って抱きしめ、そっと囁いた。
「バカな子ね...」
「!?」
クラッサが慌てて脱出を試みたが、アリアの抱きしめる力は見た目以上に強大でなかなか抜け出せない。
そして、アリアの右手に握られたナイフがクラッサの首元に静かに刺さった。
アリアの中で暴れていた男の動きが止まり、床へと崩れ落ちる。
「ウィル これを消すのにちょっと手伝って!」
「了解」
アリアが死体となった男の両腕を掴み、ウィルが右手で足を掴んで持ち上げようとした。すると、アリアがウィルの異変に気付いた。
「ねえ....もしかしてウィルって左腕ないの?」
「ああ ない」
ウィルは右手でローブを払いのけ、自分の左肩をアリアに見せた。
「.... 今まで大丈夫だった...の?」
「問題ない」
明らかにアリアが申し訳なさそうな表情をしていた。別にウィル本人としては左腕がないことはもう気にしていないし、変に心配される方が却って対処しにくい。右腕だけでも全く問題ないのだ。
「なんかごめんなさいね...」
「そういう対応をされる方が迷惑だ」
「...わっ! 分かったわ じゃあこれからは私がウィルの左腕になってあげる!」
「そういうのもな....面倒い」
「ああ もうこれは譲れないわよ」
「まあ既に左腕はいるしな....」
ウィルはホンブル市にいるエマを思いだす。
(今頃何をしているだろうか....)
「!? ちょっと今聞き逃せないことを!」
「うるさい!早くこれを隠すぞ そこのクローゼットにでも放り込もう」
文句を言うアリアと一緒に死体を待機室の隣の部屋にあったクローゼットの中にとりあえず隠した二人は部屋の外へと移動する。
ここからは別行動だ。二人で行動すると見つかるリスクが高まる。
ウィルは腰を低く保ちながら、待機室前の廊下に巡回する者がいないことを確認すると足早に廊下を通り、曲がり角で一旦止まった。
顔を角から少し出し、次の廊下を確認する。
廊下を巡回する者がいた。
しかし、運の良いことに警備はウィルの進む方向を先に歩いている。後ろからの接近はしやすい。音を立てないように中腰のまま警備のすぐ後ろまで接近したウィルは、後ろから警備の膝を蹴る。
すると膝カックンされた警備がよろけ、態勢が崩れた瞬間、ウィルがナイフを持った右手を警備の首に回し、動きを封じた。
「配置を教えろ!抵抗したらそのまま殺す!」
「わっ わかった教える! だから殺すな!」
「早く言え!」
「この階で廊下を巡回しているのは五人だ。階段に一人。各部屋にも一人はいる!」
「女はどこだ!」
「どれのことだ!?いっぱいいるんだ....」
「十五くらいの少女だ」
「ああ それなら...ボスが今地下で競りに掛けてる... これで全部だ 助けてくれ!」
「ご協力感謝する ありがとう!」
ウィルは素早くナイフを警備の首に突き刺し、完全に動かなくなったのを確認すると己の肩に死体を担ぎ、トイレへと向かった。中に誰かいれば攻撃魔法で消すことも考えていたが、幸運なことに誰もいなかったので、死体を個室に置き、階段へと向かう。
ここからは一々、死体を隠すこともできないだろう。最初に情報を聞くまでは隠密に行動をしなくてはならなかったが、全ての者に気づかれずに行動をすることはウィルには出来ない。よって死体となった警備の情報が正しいという確認を取れたら強行突破する事にした。
強行突破といっても死体をそのままにして進むってだけなのだが。
(この階には五人廊下に警備がいるって言っていたが、もしかしてアリアが既に何人か殺したかな...)
廊下の警備に会わなかったウィルは地下へと続く階段を発見した。
(階段に一人か....よし!)
再び中腰のまま廊下の角から階段を覗いてみると、先ほどの警備が教えてくれた通りに一人の男が立っていた。だが、このまま降りていくと見つかってしまう位置にいる。
「厄介だな...<風蛇>...行け!」
<風蛇>を唱えるとウィルの手から細長い小さな竜巻が起こった。この魔法は攻撃力はほぼ皆無だが、自由に風を操作することができる。
ウィルの指示を受けた小さな竜巻が階段で警備をしていた者の頭に直撃した。
突然、建物内に吹いた風に驚いた警備がウィルがいる廊下から目を離した。その隙を見計らい、階段を駆け下り、警備の首をナイフで後ろから取り押さえる。
「配置を教えろ!抵抗したらそのまま殺す!」
「一階の廊下を巡回しているのは五人だ。そしてここに一人!」
「部屋にもいるのか?」
「ああ そうだ!」
「この下には誰がいる?」
「女だ」
「ボスと少女もか?」
「....」
「殺す」
「そ そうだ いる!」
「了解!」
階段にいた警備の首をナイフで刺し、ウィルは階段に対して魔法を唱え始める。
「<泥沼化>」
すると、階段を構成した土がドロドロと動き出し、形を変えた。こうすることで階段を簡単には降りれないようにしたのだ。追っ手を防ぐために。
そして、地下まで降りたウィルは長い廊下の先に大きな扉があることを発見した。
おそらくその先にボスとクロエがいるのだろう。
己の拳を強く握りしめ、ウィルは歩き出した。廊下にいた警備たちを魔法で吹き飛ばしながら。




