第一話 「漂流物」
ホンブル市闘技大会が開催される中、レジスタンスのリーダーがバウンティハンターによって狩られた。
そして、リーダーであるウィル・クェーサーの親友であり、右腕でもあるロルトはウィルの父、ジャック・クェーサーにより、怪盗ジャッジであるという正体を暴かれ、捕まってしまう。
レジスタンス活動が風に乗ってきたと思われた中、突如失った二人のレジスタンスメンバー。
レジスタンスの今後が問われる事となった。
そして暗躍するベイジョンとモヴィルス。二人の運命は如何に?
『MAGIC CODE』解放の前段階である『ソルジャーゲーム』がついに新章でベールを脱ぐ!!
デヴォルカス連邦共和国の中でも治安が悪い事で有名なコルノン市。この市は上空から見ると円の形をしていて、中央にはコルノン市の行政を司る市役所があり、周りには貴族の居住区が広がっている。しかし、中央から離れるほどに住民の扱われ方が大きく異なる。貴族の居住区を囲う大きな壁の外には貧民街が広がっているのだ。
この貧民街を牛耳る貴族の配下の四つのギャング組織がお互いに日夜抗争を続けながら、この市は持ち堪えている。
抗争の主な中心は、コルノン市の中央を横切る大きな川の所有権だ。水は住民たちにとって貴重なものであるため、川の付近はおそらく最も治安が悪い区画に当たるだろう。
そして、今日もそんな危険な川に近寄る三人の子供の影があった。
ミーシャ。年齢はおそらく十五、六かそこらのブロンドの長い髪を後ろでまとめ、吸い込まれるような青い瞳を持つ少女。着ている服はところどころに縫った跡があり、洗いきれていない汚れが目立つ。しかし、きちんとオメカシをすればかなりの美人であることは間違いないだろう。
クロエ。年齢はミーシャよりも一、二歳若いと思われる少女。髪はショートで、すらりとした高い鼻が特徴的なミーシャに負けない美人だ。しかし、その全てを疑うような鋭い目は美人であることを忘れさせる威力をも持つ。
ダリス。最年少の男の子だ。ミーシャ、クロエよりもまだ身長が低いながらも必死で後を付いていくその姿は、なんの事情も知らない大人が見たら、微笑ましく思うことだろう。だが、ダリスの若いながらも自分よりも前を歩く二人の少女を守ろうと心の中で思っているダリルは将来有望な戦士になる事は明白であるかのように思える。
ミーシャ、クロエ、ダリスは洗濯を兼ね、生活用水を川に汲みに来ていたのだ。
一番年長のミーシャは後に続くクロエ、ダリルを気にかけながら、慎重に川岸まで到着した。
そして、周りを見渡し人影がないことを確認すると手でこっちへ来るように合図を出す。
集合した三人は腕に抱えていたバケツに川の水を汲み、まず持ってきた服の洗濯を開始する。
「ダリス。水使いすぎよ もっと効率よく洗濯するの! ちょっと貸して」
クロエは年下のダリスに注意をし、自分の方が洗濯が上手であることを見せびらかしたくなった。
「姉ちゃんさあ ここは川なんだからいいじゃん! 使い放題だよ」
「まだ煮沸してないんだからダメよ いい? この川はね汚いの! 隣のジョー叔母さんのおしっこも混じってるのよ。あと誰かの死体もねっ」
「うえー やめてよー」
「クロエ!」
ミーシャは洗濯しながら、クロエの言葉使いを注意した。
ミーシャに怒られたクロエを見たダリスはニヤニヤしながら水を大量に使い、洗濯を再開する。クロエは口をパクパクさせながら何やら言いたげなようだが、ダリスは気にしない。面白い方が正義なのだ。
その後、ある程度の洗濯を終えた三人は、生活用水のための水を汲み始めた。
三人は魔法が使えない。故に川まで来て水を汲まねばならないのだ。魔法が使えないのは、使い方を習える場所がないからだ。母親が所属している『ガルゴス』のメンバーになれば習えるらしいのだが、三人の母親であるヘレンはそれを許すつもりはない。
『ガルゴス』はこの街の四大ギャングの一つであるからだ。
この街で生活していくにはどこかのギャング組織の一員になることが賢明な判断だとされている。その上、ヘレンの選択は一般的ではあるのだが、へレン自身は子供にそのような事はさせたくないと思っているのだ。
川の水を汲み終わり、そろそろ帰ろうかとした頃、
「ねえねえ! あそこに死体が浮かんでるよ しかもなんか兵士ぽいっ」
ダリスが川に浮かんでいる死体を発見したようだ。この街では珍しくはない事なのだが、浮かんでいる死体が住民であれば無視をするが、兵士のような何かを身につけている貴重な存在は別物なのだ。
つまり、
「ラッキー! でかしたぞダリスっ!!」
川を訪れる住民にとっては宝が流れ着いたという事に等しい。
クロエはダリスが発見した死体を確認すると、テンションが上がった。
この辺では見ない格好をした死体だったからだ。それはクロエだけではなく、
「ホントじゃん! クロエ!ダリス!ここで私が岸へあげる手伝いをして!!」
ミーシャはそう告げると勢いよく川へとダイブし、ダリスが発見した死体の方へと泳ぎだした。
ミーシャは仰向けで浮かんでいる死体の所まで到着すると、死体の右腕を掴み、岸へと引き返した。
岸に行くと、今度はミーシャに代わり、クロエとダリスが死体を岸へと運び始める。
ズリズリと死体を引きながら、先ほど洗濯をしていた場所まで運び終えると、三人は一斉に死体を漁り始める。
「ねえ見て見て! この人、剣持ってるよ! これは売れるね」
さすが男の子と言うべきだろうか、ダリスは武器に興味津々のようだ。
「これは!?金貨じゃない! 私達の一週間分の食事くらいはあるわよっ!!」
クロエは金貨を発見した。
「二人ともあまり大きな声を出さないでっ 他の人に見つかったら大変なことになるわよ!」
ミーシャは注意をしたが、心ここに在らずのようだ。出てきたマジックアイテムに目が奪われてしまっている。
その後、一通り漁り終えた三人は奪った物を洗濯した服の中に隠し、早いとこ家に帰ることにした。
「この人、戦闘に敗れて川に落ちたのかな? 着ている鎧もボロボロだし、左腕もないよ きっと切られたんだ」
「ダリス。あまりそういうことは考えない方が身のためよ。私たちには関係のない事なんだから。あれは死体。人ではないの」
クロエは自身に言い聞かせながらダリスにも言い聞かせた。
「まあ そうだよね」
この場の少し微妙に重くなりつつある雰囲気を打開するためミーシャは帰ろうと二人に言い、家への帰路に向かう事にした。
すると、先ほどは人影の無かった川岸付近から何やら、人相の悪い二人組の男が帰ろうとする三人の前に立ちはだかった。
「おいおい 見てたぞ君達。 悪い事は言わねえ さっさと拾った物を俺らに渡せや」
「何も無かったわ この死体には。だからそこをどいてもらえる?」
クロエは二人組の男たちに臆する事なく嘘をついた。
「ああ? 何言ってんの? 見てたんだよ 嘘ついてもバレんだよ とっとと出せや! 大人なら殺してる頃だぞ おい!」
上から睨みつけてくるこの卑怯な大人を殴ってやりたいクロエであるが、それが出来ないのでただ睨み返すことしかできなかった。
その様子を見たミーシャが慌てて、自分が拾ったマジックアイテムを取り出し、
「すみません!どうかお許しくださいっ この子はまだ分別がつかないんです。 これがさっき拾った物でございます!」
男たちに渡した。
受け取った男は、そのマジックアイテムをまじまじと見つめた後、
「遅えんだよ!」
クロエを蹴飛ばした。
「うっ!」
突然蹴られた痛みに耐えられなかったクロエは、お腹を抱えてただ蹲った。
「何をするんだ!!」
我慢の限界だったダリスは、先ほど死体から奪った剣を両手で握り、男を刺すため全速力で駆け出した。
「クソが」
ダリスの剣は、男が軽く足で蹴飛ばすと、ダリスの手から離れ、地面へと転がった。そして、
「てめえも子供らしくすればまだ助かったのによ」
男はダリスの首を掴むと、そのまま片手で持ち上げた。いくら子供でも片手で持ち上げられるとはかなりの腕力の持ち主だ。
男は暴れるダリスには気にもせず、川へと向かう。
「すみません! どうかそれだけは! 罪は償いますので!!」
男の後ろからはミーシャが何やら叫んでいるが、無視をし男はダリスを尚も片手で持ち上げたまま川へと歩く速度を落とさない。
「おいおい子供相手に容赦ねえな チックよ」
「俺は子供だからって特別扱いはしねえんだ。平等主義者だからな。シニアス そっちの可愛い子はお前に任せるぜえ」
「おい聞いたか チックが任せるとよ じゃあお嬢さん方、先ほどの無礼を償いたいならお楽しみと行こうではないか」
蹲っていたクロエをシニアスと呼ばれた男が強引に連れ出そうとすると、
「すみません! どうかその子は 私にしてください」
「ほほう なるほど じゃあ二人ともだな!」
不敵な笑みを浮かべたシニアスはクロエとミーシャに魔法を唱えた。
「<催眠>」
急激に意識がなくなった二人は、地面へと倒れこむ。
「こっちは完了したぜ チック! そっちはどうだい?」
「ああ 優しい俺は子供を殺さずに川へ放り投げるよ そんなことよりこいつらが死体から奪った物を探せ!お楽しみは後だ」
「はいはい」
少し離れた川岸から聞こえてくるチックの声を確認したシニアスは高ぶる欲望を抑えながら、洗濯された服をカゴから無造作に取り出し始めた。
どうせ子供のことだ。隠す場所なんか容易に想像できる。
すると、何枚か服を取り出したところ金貨やマジックアイテムが出てきた。
どうやら当たりのようだ。今日はなんかついている。嘘をつかれたのはムカつくが、この辺では日常のように嘘が溢れかえっている。気にするほどではない。川岸で子供をさらうのは面白くはないが、金と女が降ってくるなら別だ。
一通り漁ったシニアスは地面でスヤスヤと寝ている二人を見ると、待っていられなくなった。欲望を抑えるのは苦手だ。
たかが子供を川に落とすにしては時間がかかり過ぎだ。チックの奴は何をしている。
「おーい チック 早くしろ!」
「....」
(反応がねえ 面倒だな見に行くか.... 反応くらいしろってんだよ)
シニアスは川岸に向かった。
しかし、チックの姿がない。
「おーい チック どこ行った?」
「....」
(はあ? マジでどこ行ったんだ? ああもう! 面倒だな 待ってられん!!)
シニアスはチックを待つのが面倒になり、お楽しみを先に済まそうと川岸を去ろうとしたその時、
「....あいつ...は...チック...って言う...のか っ!...ダセえなあ....」
シニアスが振り返るとそこにチックはおらず、いたのは全身ボロボロの鎧を身につけ、右腕しか残っていない死体と思っていた兵士だった。
「ああ? なんだお前生きていやがったのか? チックはどこに行った?」
シニアスは先ほど子供を脅した時よりも慎重にこの死に損ないに向き合ってみる。この市で生きるには危険を見極める能力が求められる。そのためシニアスにはこの死に損ないが危険であるという事が長年の直感から何故だが分かった。
「そいつが姉ちゃんをやったさっきの奴の仲間だ! やっちゃえ!!」
生意気な声が聞こえるなあと思い、声のする方を見てみると、死に損ないに隠れるようにして先ほどチックが川に放り投げたはずの子供がそこにはいた。
(やばいな これ チック死んだか?)
久しぶりに感じる悪寒に震えながら、シニアスは先手を打つ事にした。ギャングで生き残ってきたスキルの一つでもある。
(やばい奴は最初に潰せか... 最近やっと理解できてきたぜ)
「<豪鋭剣>!」
シニアスは腰にぶら下げていたナイフを抜きながら、魔法を唱える。
ただのナイフであれば、一手で致命傷を負わせるのは少し面倒だ。しかし、<豪鋭剣>はそれを可能にする。
相手に掠れさえすれば、己の力量に比例して致命傷を与えることができる。
(相手は先ほどまで死体だった野郎だ チックの件は知らんが、早く死体に戻ってもらうぜ!)
「<風切り>!」
突如、死に損ないから現れた空気の圧縮された線が、シニアスに向かってきた。
ナイフの間合いの距離では避けることができない。
(あれ これ死ぬのか?)
シニアスの肩から上の部分が体から分離した。そして、その切れ目からドバッと血が吹き出す。
死に損ないにも、その血が付着しているが、彼は気にしてないようだ。
ただボーっとその場の出来事に付いていけず見守っていたダリスは、先ほどまで死体だった男を見た。
漂流した宝物だった物体は今やダリスにとって命の恩人へと変わっていた。
「ありがとう! 早く姉ちゃんたちのところへ!」
「...そうだな... 急ごう...」
「ちなみに 名前とかある? 俺はダリスだよ!」
「ああ...そうだな... うっ!...今更隠す必要も....ないか... ウィルだ」
「ウィルか! よろしくね!」




