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第三話 「ファシリア魔法道具店の娘」

 ソウルポリス一般居住区のメインストリートから少し外れたところに「ファシリア魔法道具店」という名前の店がある。ここでは一般兵士向けのマジックアイテムや武器を主に制作兼販売をしている。時折は貴族向け商人の依頼によるオーダーメイドのマジックアイテム制作なんかも請け負っているため、そこそこ街の住民や商人からは信頼されている店である。


 エマ・ファシリア。彼女は「ファシリア魔法道具店」店主の娘であり、現在は父親の元でマジックアイテム制作の修行をしていて、ゆくゆく店を継ぐことになっている。店の看板娘としての評判は高いのだが、自分としては制作技術もその辺の職人には負けない腕前になってきたので、そろそろ二十歳を過ぎたということもあり、独立したいという野望を密かに抱いている。


 そしてエマがいつものマジックアイテムの製作ノルマを終わらせると、店の工房にある地下へと向かう。地下にはこれから販売するマジックアイテムの在庫が置かれてあるのだが、どれも一般兵士向けのマジックアイテムで国指定の代物である。エマはそんな大量に置かれている在庫には見向きせずに奥に設置されていたある棚へと歩いて行った。棚の前に立ったエマは小声で呟く。


「我は個性ある者 <解錠>」


 エマが魔法を唱えると棚が少しずつ横に動き出した。そして棚が動き終わるとそこには棚の大きさに隠れるようにして設置された扉が現れ、エマは中へ入っていく。


 エマが入って行った部屋は作業台と収納スペースが一つあるほどの小さな部屋だ。昔エマが幼かった頃に祖父が教えてくれた秘密の部屋である。父親がこの部屋の存在について知っているか確かめたことは未だないが、おそらく知っているだろう。しかし、父親は普段からこの部屋を使っている様子がなかったので少し前からこの部屋をエマの秘密の作業スペースとして活用している。


 エマは父親が作成しているマジックアイテムが好きでなはかった。国に指定された機能と構造のマジックアイテムを黙々と作っているだけだからだ。貴族向けのオーダーメイド商品を作成しているときの姿は尊敬できるのだが、それでも職人として己にしか創り出せない個性のある製品を作って欲しいと思っていた。

 しかし、自分の願望を他人に押し付けることは良いことではないと思うエマは、普段の製作スキルを活かし、独学で自分が作りたい個性のあるマジックアイテム制作を秘密の部屋で行なっている。エマにとってこの作業は仕事が終わった後の密かな楽しみだった。


 部屋に入り作成途中だったアイテムを取り出そうと、収納スペースの扉を開けると、エマの時が止まったーーーー。


 実際の時が止まった訳ではないが、エマの頭の処理が追いついていなかった。中にあったのはーーーー。


 粉々に破壊された制作途中のアイテムや材料だった。


 すぐにエマは一階にいる父親の元へと駆け出す。今流行りの大怪盗ジャッジの仕業でないのはすぐに分かる。その辺の泥棒だとしても盗むものは地下に大量に置いてある一般兵士用のマジックアイテムか、貴族用のオーダーメイド商品だろう。

だとすると考えられる犯人は一人しかいない。ーーーーそう父親である。


 急いで父親のいるところまで行くと同時に慎重に尋ねる。


「地下に置いてあるアイテム壊した?」


「アイテム? これから売りに出す大事な商品を俺が壊す訳ないだろう。」


「違う。私が作った方」


「あーー。あれか、地下の秘密の部屋のか」


「.....。 知ってたんだ....。」


「はああ 俺はここの店主だぞ 知らない訳なかろう」


「....じゃあ!! なんで私があそこで作ってたアイテム破壊するの?? 迷惑かけてないのに....」


 「馬鹿者が!!! あんなもの作成して何の役に立つんだ!! え? 言ってみろ!! 政府にこの店ごと潰される可能性だって出てくるぞ!! 貴族のイチャモンで潰されるならまだしも、お前の考えなしのゴミで潰される身にもなってみろ!!!」


「....っな!!? 父さんはいつも政府の犬のごとくマジックアイテムを作っていていいの!? 販売する製品を変えろって言っている訳じゃない! ただ家の奥で作ってるだけじゃん! お爺ちゃんのような職人の誇りが一切父さんにはない!!」


「時代が変わったんだ!!! 大人ならそのくらい分かれ!! 子供のままならこの店にお前は必要ない!」


「......わかった。大人の役割は父さんがやって! 私は子供だから店でていく!!」


「....好きにしろ 子供は二度と帰ってくるな」


 一連の騒動が終わるとエマは自分の道具と必要最低限な荷物を詰め、別のところに隠してあった以前制作した腕輪型のアイテムを持って店を出て行った。 


 勢いで出てきたもののエマは行くあてもなく街の中をとぼとぼ歩いていた。


「はあーーー。これからどうするか。まずは寝るところを探さないと...」


 そんな愚痴をこぼしていると前方から、こちらに歩み寄ってくる男の姿が見えた。顔はそこそこ良い感じの男で年齢も大して自分と変わりなさそうだ。


「え!? まさかナンパ!? お店出てきてそうそう大人になってしまうじゃん!」


 と考えていたエマであったがどうもナンパする男の雰囲気ではなかった。自慢ではないが、店の看板娘としてそこそこモテるのでナンパされたことは何度かある。なので大体、男の雰囲気で把握することが出来るのだが、エマの予想ではナンパでないと感じた。


「すみませんが、手に装備している腕輪型のマジックアイテムを見せて頂くことはできますか?」


 エマは少し驚いた。というのもよく男を観察してみると治安維持部隊がいつも身につけているマジックアイテムを腰にぶら下げていたからだ。服は普段着だったので気がつかなかった。これは痛恨のミスだ。家出してからそうそう逮捕される危機だ。


「えっ! まああ そのお 何でもないですよ ただの飾りというか なんというか....」


 エマが返答に詰まっていると男が笑い出した。


「あーー すみません。警戒させてしまいましたね。このマジックアイテムの所為で、私は治安維持部隊には所属してますけど今は非番だしそれに ーーーーこう言っては兵士失格なんですが別に報告しようだなんて思ってませんよ。ただ貴方が装備しているマジックアイテムらしきものが見たことなく興味が出たのでお話した次第なんですが、個人として」


「本当ですか?」


「はい、信頼してもらうために私も実は家でこっそりマジックアイテムではないけど創作活動しているんですよ。見つかったら不味いですけどね。 あ! それより自己紹介がまだでしたね。ウィル・クェーサーと申します。見たところ大荷物ですがどちらかに行かれるんですか?」


「えっ えっと 私の名はエマ・ファシリアと申します。ファシリア魔法道具店の娘でして、....修行として旅をしようかなー なんて出てきたんですけど今のところ行くあてがなくて...」


 エマは直感だが今、目の前に希望が表れた気がした。治安維持部隊ってのが気になるが、一応自分の製作したマジックアイテムに興味を持ってくれた上に自分に合わせようとしてくれている。行くあてもないのでとりあえずどこかに泊まりたいのだが、そんな金はこれからのことを考えると足りない。信頼できるのかはまだ確かではないが、ここでは信頼するしかないのだ。信頼はお互いが作りあげるものだとか誰かが言ってた気もするし。


「そうでしたか。あのファシリア魔法道具店の。 なるほどもしかしたら貴方とは話が合うかもですね。宿泊施設はこの辺りには幾つかありますけど、ご存知の上で言っているということは安宿ですか。 となるとソウルポリス西移民居住区になら幾らでもあるとは思いますが 嫌なら私の家でも」


「ウィルさんの家に泊まらせてください!」


 エマは即答だった。個人的にソウルポリス西移民居住区に住むくらいなら男の家が良かった。


「おー!? では案内しますよ」


 エマとウィルはその後ウィルの自宅で夕飯を食べながらお互いの事を話し合った。感触としては信頼できる相手だということが何となく分かった。というのもウィルの家には街で話した時のように実際に部屋の奥には幾つかの芸術作品が並べられていたからだ。国から支給された使い捨てコップを使用したおそらくこのソウルポリスのジオラマ模型から、粘土で作られた兵士の像などであった。これは日々マジックアイテムを作成する職人の端くれであるエマにとっても素晴らしい作品にも見て取れる。


「思ったよりちゃんと作られてる。最初は信用できなかったけど、凄いね」


「これを見せるのは初めてだな。こんなの見せたら普通逮捕されてしまうからね。でもこれで両者ともに弱音を握った状態だからさっきよりは信用できるでしょ?」


「うん あと一応泊めさせてもらう身として何もないのもあれだから興味があるって言ってくれたあの腕輪型のマジックアイテムあげる」


「本当!? それは嬉しいな 世で手に入るマジックアイテムなんかみんな同じだからね 個性のあるものが欲しかったんだよ 男としては当然だろ?」


「嬉しいのはこっちのセリフ。今まで父親も含めて周りの人たちから私の存在はただの職人のアシスタントの枠でしか認めてもらえなかったから、初めて私自身の価値を認めてもらえた気がする。ありがとうございます。」


「いえいえ こちらこそ」






数週間後ウィルはエマにこれからいつも通りの仕事に出かけるといい残し、ソウルポリス西移民居住区へと向かった。

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