第二十五話 「謎の監視塔」
ーーー街灯の明かりが薄っすらと漆黒の空に反射する真夜中のソウルポリス。
ドンドンドンドンドン!!
静まり返った夜の街から住民が寝ている家のドアを思いっきり叩く音が響き渡った。それも複数の箇所から。
ファシリア魔法道具店の店主であるジョン・ファシリアは玄関の扉を叩く音に起こされ、ふらつきながら寝室から音のする方へと向かう。
「.....一体こんな時間に何の用だ」
マジックアイテム制作の仕事を終え、ようやくベッドに入って、眠りに落ちそうになっていた瞬間に起こされた苛立ちが、休息モードに切り変わろうとしていたジョンの頭を再び作業モードの頭へと戻らそうとしてきた。
ジョンは玄関の扉を自分の顔が出る程度開け外の様子を確認すると、そこには三人の治安維持兵の姿が見えた。
「ジョン・ファシリア 扉を完全に開けろ!! 治安維持兵だ。」
まだ完全に頭が回らなかったジョンがしばらくフリーズしていると再び、
「扉を開けなければ 反逆罪とみなしてお前を逮捕するぞ!」
我に帰ったジョンは急いで扉を全開にする。
「何の用ですかね? 見ての通り今は閉店時間ですよ」
「同行せよ!」
両腕を治安維持兵の二人に掴まれたジョンはそのまま連行され、夜の街を二ブロックほど歩かされた後、治安維持兵が予め待機させていたであろう馬車の荷台に入れられた。
荷台に強制的に入れられたジョンは中を見渡すとそこには顔なじみの者が沢山いることに気付く。
そこにいた者達は全員、職人だったのだ。
すると、荷台の入り口付近に座っていた男がジョンの存在に気付き、声を掛けてきた。
「ジョン! お前もか....」
「!? ザック! これは一体なんなんだ!?」
何がなんだか理解できなかったジョンは顔なじみの同業者であるザックがいたことにひとまず安心しながらも今起きている状況を把握するために問いかける。
「それがな 夜突然起こされて皆この馬車に連れてこられたんだよ 俺らも何がなんだか... 治安維持兵はなんか言ってたか!?」
「....同行せよ とだけな」
「お前もか.....」
有力な情報が聞き出せなかったザックとジョンはお互いに肩を落とした。その後しばらく馬車に揺られていた一行は各々不安を紛らわすために雑談を交わしていたが、馬車が停車するとその不安はより一層大きなものへと化ける。
ジョン達職人集団は治安維持兵の指示により、馬車から降りるとそこは普段のソウルポリスの街並みが見えた。どうやら街の外や収容所に連れられたということではないらしい。最悪の事態は免れたようだ。ただ見慣れた街並みではあるがそこには異様な光景が広がっていた。
夜の街は普段、ほとんどの人間が寝ているため歩いている人影は少ないはずなのだが、今日は至るところに治安維持兵が配置されており、その治安維持兵達がジョン達のように夜中連れてこられた住民達に何やら各所で細長い塔のような建設物を作らせている姿が見受けられた。その建設物を構成するための材料が随時、運河の方面から馬車によって運ばれて来ている。
異様な街の様子を観察していたジョン達は治安維持兵により召集を受け、一列に並ばされた。そして、各々に番号が割り当てられたのだ。
「一番から五番の者は第一設計図を受け取り、設計図に記された手順に従って十三番街の交差点に塔を建設せよ! 六番から八番の者は第二設計図を受け取り、設計図に記された手順に従って運ばれて来る材料の加工をこの場で開始せよ! そして最後に九番から十一番の者は第三設計図を受け取り、一ブロック先の角に立っている塔を完成させよ!」
四番だったジョンは治安維持兵に言われた通りに第一設計図を受け取り、十三番街の交差点まで移動した。そこには既に幾つかの木材などの最低限の材料が用意されていた。到着したジョンは受け取った第一設計図を読んでみる。
第一設計図は地面に突き刺す直径一・五メートル、高さ六メートルの塔の図面だった。塔の先端は何かと接合するような突起があるためこの設計図はどうやら未完のようだ。先ほど第三設計図とか治安維持兵が言っていたから、全ての設計図を合わせてみないとどのような塔が完成するのか予想がつかない。
ただ嫌な予感がした。各所で住民達が塔を制作させられていたのだが、その住民達のほとんどは何らかの分野の職人達でジョン同様のマジックアイテム職人や大工、溶接工などの姿ばかりであった。皆何がなんだかわからないながら得体の知れない塔を街中に建設していく。
ジョン達は十三番街の交差点に塔を建設し終わると、すぐに近くの場所まで連れて行かれ次の塔を建設させられた。
この建設ラッシュは朝の四時半頃まで続き、やっとジョン達は解放され、家に戻された。
しかし、解放されたジョン達は少しも気が休まらなかった。というのも作業が終わってから帰宅途中に初めて自分達が建設していた建築物の正体がわかったからである。
街の至るところに設置された塔の先端には円盤が装着されており、その円盤の周りを六つの球体が囲うように取り付けられていた。そして円盤の中心からは槍のような細長い尖った金属の棒が天に向かって生えている。
第一設計図を読んで完成系を見たマジックアイテム職人であるジョンはその塔がどんな役割をする塔なのか、すぐに理解した。
正直理解はしたくなかった。知らない方が良い真実というのもこの世には存在する。今回に関してはそれだ。
ジョン達が作成していた土台となる塔は、魔力を保存するタンクの役割を持つものだ。そして、円盤に取り付けられた球体は<千里眼>という名前のつけられた物と、<深層学習>という名前のつけられた二種類のマジックアイテムだった。<千里眼>にも様々な物が存在するが、取り付けられている<千里眼>はそこまで一級品の物ではないようだ。しかし、その<千里眼>は周りにいる人を認識し、記憶、追跡、監視が可能である。さらに、<深層学習>はある程度の条件や事例を最初に設定しておけば、使用していくごとに性能が上がり、独自で命令に基づいた判断を下して他のマジックアイテムを発動させることができる。最後にこの塔に取り付けられたマジックアイテムの中で最も厄介なのが槍のように尖った棒、<雷針>だ。<雷針>は雷系攻撃魔法を発動することができ、一度に二十人ほどまで攻撃が可能な上、相手を失神から殺害までのあらゆるダメージを与えることもできるのだ。
つまり、ジョン達が作らされていたのは自分達住民を自動で監視する兵器だったのだ。
「これは.... 不味い.....」
ジョン達は朝起きて来る住民達に建設していた姿を見られる前に、急いで各々の自宅へと帰還する。治安維持兵の指示だったとしても今後自分達を苦しめる建造物の建設に関わっていたと知られたくなかった。
ーーーコール・ガスナー。元新聞レイアウト及び競馬場の宣伝ポスターの製作者で現在のソウルポリスにおけるレジスタンス運動を広めるためのポスターを街中にこっそりと貼って宣伝をしている男である。宣伝の目的はレジスタンス運動を広めるためだけではなく、ソウルポリスに爆発騒動を持ち込んだ表現者であるレジスタンスの仲間になるためでもあった。この計画を実行させるためコールは信頼できる仲間を集めて、定期的にコールが作成したポスターを市内に配布していたのだ。コールがアポを取った沢山の母数から比較するとかなり少ないかもしれないが、現時点でそのことを考慮しないで見て見るとコールの予想以上に仲間が集まった。面子もかなりの有力者が多く、政治家の無党派層の者や貴族向け商人に元治安維持兵、貴族に仕える料理人、ジャーナリスト達だ。特にジャーナリストは政府の公認を受けた者しかなれないのだが、ここにいるジャーナリストは非公認の者だ。宣伝活動をしてからも徐々にレジスタンス支持派の者達が増えて来ている。とても良い兆候だ。
今日の昼過ぎのランチでコールは行きつけのレストランで元治安維持兵の仲間と会う約束をしていた。一度に全員と顔を見合すリスクは非常に高いので現段階では、コールが一人一人に接触するという形をとっている。
ポスターの資料と街の地図などをバッグに詰め、コールは自宅から今日初めて外へと出た。
「何だ? あれは?」
レストランへ行くため街を歩いていると、至る所に奇妙な塔が立っていた。昨日の夕方自宅に戻った頃は一つも立っていなかったはずなのだが、
疑問を抱えながらコールは目的のレストランへと到着した。街中を歩いている住民はコール同様に皆、突如出現した塔の話で盛り上がっている。
レストランの入り口の扉を開け、中に入ると昼のランチタイムのためかほとんどの席が埋まっていた。空いてる席がないか見回していると、奥のテーブル席からコールにアイコンタクトをしてくる男が見えた。元治安維持兵の仲間である。名前はフィル・ブラウン。
フィルを見つけるとコールは前の席へと腰をかける。
「久しぶりですね 何を飲んでます?」
「お久しぶりです。今、アイスティーを飲んでます」
コールはアイスティーとサンドウィッチを注文する。
「コールさん 街の様子見ました?」
「ええ 何やら奇妙な塔が至るところに立ってましたね」
「私も今日出かける時に見て驚きましたよ。昨日はあんなのなかったですから」
「あれは一体? 我々にとって害を与える存在な気がしますけど...」
「私も詳しくは.... ただ噂によると、昨日の夜に職人達が治安維持兵に連れて行かれたとか」
「では治安維持兵が職人に作らせたのですか やはり何かのマジックアイテムか何かか」
「私も元ではありますが、治安維持兵の一員だったので..... ただこのような任務は一度もありませんでしたよ。おそらく彼らも全容は把握してないでしょう。上の命令に従っているだけですから」
「そうですよね 今後の活動を話し合うために来たんですが、とりあえず様子見をしましょうか」
「あれが何なのかを特定するまでは控えましょう」
コール達はその後雑談をし、ランチを完食した後、各々の自宅に戻って謎の塔を解明することにした。




