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第一話 「悪魔と呼ばれる人間」

 ソウルポリス西移民居住区。ここには周辺国から連れて来れられた難民やデヴォルカス連邦共和国が建国する前の大戦時に敗戦した兵の家族やその子孫達、また一般市民になることのできなかった者達が多く生活している。このような決して恵まれた環境と言えない状況から、普段政府から最低限度の生活を提供してもらってる一般市民と居住区の住民との間には目に見えないとてつもなく大きな壁が存在する。両者の生活圏は密接しており近しい存在ではあるはずなのだが、「人間」とは手の届かない者よりも近しい者の方が意識してしまうのだろう。

 

 そんなソウルポリス西移民居住区のなかで最も一般居住区から離れたところに位置するスラム街には様々な廃棄物の山が日々生まれており、住民の生活環境にとっては悪影響を及ぼす場所であるが、ここの廃棄物を再利用して新たなマジックアイテムや道具を生み出す者や、売りさばいて小金を稼ごうとする者達にとってはまさに楽園であった。


 楽園にスキップして向かう一人の少女がいた。


 少女といってもあと数年で成人を迎えるような歳の女性である。見た目は痩せていて目には大きな隈ができており、髪はボサボサで長さはミディアムくらいだろう。もう少し太ればかなりの美人になるかもしれない。


 少女ーーー.....。女性の名前はサ・ジーン。彼女は難民としてこの地区に五年ほど前に来た。彼女の元いた地では最初が苗字で最後が名前らしい、当初は近隣の住民からもその見た目からか評判が良く、厳しい生活ながらも必死に皆と協力しながら生き抜いてきたつもりだった。しかし、現在はどうかというと....。彼女に近寄る者は皆無。さらに彼女に目を合わせないようにして、住民の皆が彼女を避けていた。


 原因となったのは一つ。 一年ほど前からジーンの様子が別人のように変わってしまったからだ。明るい性格のジーンであったが、ある日を境に日常の会話の言葉のキャッチボールができなくなり、話している事が全然的を射っていないのだ。さらには当然奇声をあげたり、見たことのない魔法を発動させて異形の建造物を作ったりするようになったのだ。


 そのある日とは。 廃棄物処理場に住民達が己の人生で一度も見たことのないほどの美しい絵や彫刻などの数々の作品が捨てられるようにして置かれていたという事件が発生した日のことだ。住民たちは競うようにしてそれらを回収した。中には回収した作品を生活のために売ったり、独占したものもいたそうだ。この事件は定期的に発生し、皆お宝を得るために必死になっていた。それ故住民同士の仲は少しずつ悪くなっていったが、しばらくするとジーンが現れ、恐ろしい魔法を発動させて以来、お宝を得ようとする住民はいなくなった。


 ジーンは早くお宝の山に行きたくてウキウキしていた。お宝のない日は心臓を誰かの手によって握りつぶされるような感覚になり、呼吸するのも辛かった。頭には自分を軽蔑する者の声が響き続き安らぐことができない。体の震えを抑えるために街で見かけた人の数を数えて紛らわしていた。

 しかしお宝のある日は心が安らぎ、己の全ての感覚が洗練されるような気分になる。もはやジーンにとってお宝は中毒になっていた。ジーンはお宝がない日も安らかに生活できるように自分でもお宝を作り出せるような魔法を開発しようとしているのだが、いつも周りの住民が恐怖の眼差しを向けるのは理解できなかった。


「美的センスが足りないのかしら...。 フフフっふ」


 ジーンが廃棄物処理場に着くと、お目当のお宝はすぐに見つかった。


「ひゃっはうーーーーーーーー!!!!!!!! 今日もあっるうううう!!!」


「どこから湧き出るのかは分からないけどオウ! すぐに私も魔法で作り出しちゃうんダカラねい!!!」


「デワデワではーーー! 発動!!!! <晩餐会>」


 ジーンが魔法を唱えると彼女の周りにあった廃棄物が形を変え始め、彼女の目の前に集まりだす。そるとそこには廃棄物と思えないほどの綺麗な光沢を放つテーブル、椅子が出現する。そして少し遠くからその状況を見守っていた住民の悲痛の叫び声が聞こえた。


「たっ! 助けてえええええええええ!!!」


「クソっ! これに掴まれーーー!!!!!」


住民がロープを投げて浮遊する物体を助けようとしているが、なすすすべなく物体はジーンの元へと飛んでいった。ジーンの元に飛んでいった物体は一つではなく複数確認できた。ーーーその物体が何であるかは説明する必要はないだろう。


「完成! ......。ウーーン なんか私のイメージと違うなああ」


 ジーンの元には豪華なテーブルに肉料理を中心として食べ物が並べられており、まさにこれから貴族の晩餐会がこの廃棄処理場で開かれるのではという光景に見て取れた。一連の作業を見ていた住民は我先にこの場から逃げ出すために己の非力な筋肉の限界を越えるような速さで走り出していった。

  

 逃げ出した住民の一人が走りながら周りの仲間に聞こえるように声を荒げる。


「もう我慢ならん!! 昔の奴の面影などない。あれは悪魔だ!! 今回ばかりはあの治安維持部隊にきちんと働いてもらう!」


 

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