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第十四話 「初めての共同逃走劇」

 ソウルポリス一般居住区に立ち並ぶ一般住民用の建物は、どれも五から七階建てのものばかりで同じような作りをしている上に、外装も暗色系のレンガを用いて建設されていることから長年住んでいる者ではないと、目的の住居を探すことは容易ではない。そんなまるでクローンのような見分けのつかない建物群のある部屋で、男の帰りを心配して待っている女の姿があった。


 彼女の名前はエマ・ファシリア。ファシリア魔法道具店の娘で、つい最近家出をし、この部屋に居候をしている職人見習いの女性である。父親の元で職人になるための修行をした所為かエマは周りの女性と比べると負けん気が強く、頑固者で男気質な性格になっていたため、中々良い相手が現れなかった。ーーーそれに彼女自身は気づいてはいないのだが...。


 エマが居候している部屋の主人の名前はウィル・クェーサー。数週間ほど前、家出をしたエマはウィルと訳合って意気投合をし、今では何故だか良きパートナーになっている。エマは父親に「子供は二度と帰って来るな」などと言われ、家出をしてしばらくもせずに大人になってしまった自分を見せつけてやりたいと思ったりもしたのだが、個性のあるマジックアイテムを作り出す立派な職人になるまでは我慢しようと心に決めていたのだった。


 そんなエマは今、部屋の窓から外の街の風景を眺めていた。


「どこにいるの....」


 ファシリア魔法道具店の娘だった頃、日々の大半、彼女は父親の手伝いをしている事が主だったために抱く感情は道具や父親に対する少数のものしか経験していなかった。しかし、ウィルとの生活が始まって以来、エマは人間に対する感情がこれほどまでに深くて種類があるという事実に驚くことが多くなっていた。そして今、エマの心を心配という感情が満たしている。

 というのも、いつも通りウィルが治安維持兵として市内の巡回業務をするために家を出て行ったのを見送ったエマはウィルの部屋で新しいマジックアイテムの製作に取りかかっていたのだが、その製作もいよいよ大詰めという段階に差し掛かった頃、普段から静かな街には似合わない爆発音が街のあらゆるところから聞こえてきたのだ。マジックアイテムの製作に夢中になっていたエマは時計を確認するとウィルが家に帰ってくるはずの時刻を悠に過ぎている。


 この瞬間、エマの脳内に考えたくない可能性が浮かんできた。ウィルの帰りが遅いのはこの爆発音と関係があるのではないかと。


 エマは自分が考えてしまった可能性を否定したかった。おそらく爆発は治安維持兵のミスで、ウィルは今、残業をしているのだと。おそらく爆発は政府の住民に対する避難訓練の一環で、ウィルは女遊びをしているの....だと。おそらく爆発は幻聴で、ウィルは遠回りをしながら帰宅途中だと。おそらく爆発はテロリストのせいで、ウィルはその対処を............して....いるの..だと。おそらく.....おそらく......

 

 それ以上考えると頭がおかしくなりそうになったエマは、一旦落ち着くため外の様子を見るために窓に近寄る。家の周辺はさほど変わりはなかった。しかし、街のあらゆる所から煙が上がり、慌てた様子で道を走る住民達の姿が見えた。また通常時は巡回をしている治安維持兵の数があきらかに少なくなっている。


 落ち着きを取り戻そうと窓に近寄ったが、逆効果だったようだ。むしろ爆発が実際に起こった事、爆発の被害が予想以上に大きいかったことがエマの心に重くのしかかる。


「外に出てウィルを探すべきか、でもあてはないし.... うーん でも、生きていれば家に帰ってくるから、私が外に出ると不味いか... 信じて待つのが女だよね!」


 先ほどまで作業していた頃は一瞬で時が過ぎたように感じたのだが、今はその一瞬が永遠に感じてくる。


「なんで時間は平等じゃあないの..... ウィルどこ? あああー 通信系のマジックアイテム作るべきだった」


 この落ち着かない状況下でエマは悟った。マジックアイテムの無力さを。そして自分にはマジックアイテムよりも大切な存在がいた事を。


「これで 女遊びだったらハンマーで殴りかかってやるわ....」


 エマは窓から見える全ての人を確認する。もしかしたら家に向かっているウィルが見つかるかもしれないと。しかし、そのような人物は一向に見つからない。


 エマが窓から外を食い入るように見ていたとき、玄関のドアが開く音が聞こえた。


「.....! ウィル!!」


 そこには待ち望んでいた相手、ウィルが立っていた。格好は治安維持兵としていつも装備している鎧を着ておらず、何やら作業着らしき服を着ていた。そしてやっと現れたウィルを目に焼きつかせるように見回したエマはウィルの左腕のところで視線が止まった。


「....ウィル.....左腕 どうしたの...?」


「...それは後で説明する! 時間がないんだ! すまないが、まずは俺から一方的に質問させてくれ 治安維持兵はここに来たか?」


「...え? ちょっと待ってよ!! え? 来てないけど 意味がわからない! 説明して!!」


「良かった。 説明は後でする! エマはマジックアイテムを政府に反対してでも作成するか?」


「!? ....ん? 意図がわからない」


「エマ!! 頼む!!」


 ウィルが今までに見たこともない必死の態度をとっている姿を見たエマは、己の疑問を解消するよりもウィルの質問に真剣に答えることにした。


「..... バレないように製作していくつもり。でも本心は自分が納得のいくマジックアイテムを作ってみんなに認めてもらうこと!だから政府に指図されることは含まれてない! 理想だけど...」


「...よし なるほど ありがとう。俺からも説明しなくてはな.... 非常に言いにくい事ではあるんだが」


 とウィルはエマが納得する様々な言い訳を考える。しかし、ウィルは言い訳することをやめた。そう、正直に話すことにしたのだ。


「エマ 俺は政府に反逆することにしたんだ。そして街の爆破は俺が起こした。」


 エマはウィルが何を言っているのか一瞬理解できなかった。いや理解したくなかった。自分の彼が政府にとっての『大罪』を犯すだなんて、すぐに誰だって「はい、そうですか」と理解できるわけがない。それでもウィルは真剣にエマの目を見つめてくる。


「それは自分が何をしてるのか理解して言っているの?」


「ああ 俺は自分がこれから何をすべきか初めてわかったんだ。政府に抑圧された人生で終わるつもりはない!これは誰しもが思うだろ? ただ皆、我が身可愛さに行動しないだけだ! 行動できないが正しいけどな。俺もそうだった。ただ今日の治安維持兵の任務で圧倒的な力を持った『人間』に出会って不可能と自分で思い込んでいた夢が実現できるかもしれないと思ったんだ。希望は少ないかもしれないが、可能性があるならやらずに死ぬことはできない!」


 ウィルは確かに普段の様子と明らかに異なり、発言の一言一言に熱があった。今までの彼はエマのことを思う発言はあったが、ウィル自身の人生には無関心のようだった。しかしどうだろう。今エマの目の前にいるウィルは初めて自分の人生に意味を見出したようだ。確かにウィルがやった事は受け入れなれない。まだ詳しい内容を聞いていないから断定はできないが、この国では処刑で済まされない『罪』を起こしたことは明白だ。ただ、エマの存在を認めてくれて、新たな感情を教えてくれたウィルを責めることはできないように思えてくる。


「やりたいことを見つけたようね。...でもそれは『罪』に問われる行動でしょ? その結果、左腕もなくなったんだろうし。 覚悟はあるのね.... 」


「エマ! 君は俺に左右されずに自分の人生を謳歌して欲しいと思ってる。だけどこれから俺は仲間と共にソウルポリスを出てレジスタンス活動をする。俺は『人間』に『人間』の自由を認めさせたいんだ。正義に守られた行動ではないのは理解している。ただこのまま抑圧された風景を見たくない。 わがままなのは分かってるけどこんな俺でも受け入れてくれるのなら一緒に来て欲しい。」


 エマは悩む。自分史上最大に。新たなマジックアイテムを製作するときよりも悩む。ウィルの行動に正解はあったのだろうか? そもそも正解など存在しないのだろう。自分が納得のいく行動をするしかないのだ。であればウィルはそれを実行しようとしている。ウィルと同行するかを決めるのはエマであり、ウィルではない。自分に決定権があるのに今回はエマはそれが嫌だった。今まで父親の言うことにただ従っていたツケが回って来たのだろう。自分で己の未来を決めなければならない。確かに自由は素晴らしいが自由には責任が伴なる。はたして自分はその責任を果たせるだろうか?正直わからない。

 今まで求めていた自由がいきなり目の前に表れると困惑してしまった。だが、いくら悩んでいても仕方ない。いずれは決めなければならないのだ。


 そして、エマは決意する。自由を求めてウィルと共に歩むという選択を自らの意志で選んだのだ。


「ウィル 私も覚悟した。 私もーーーー」


「ストップ!! 誰か来る!!」


 エマはやっとの想いで答えようとしたとき、何やら下の階から階段を登って来る数人の足音が聞こえた。


「クソ! もう来やがったか! 治安維持兵だ! 俺を捕まえに来た。 本当に申し訳ないエマ! バルコニーから隣の建物に逃げるんだ! 早く!!」


「ウィルは!?」


「俺は政府に認められた大罪人だ! そしてこの部屋を我々のアジトとして使わせてもらう!一般住民の貴方は関係ない!」


 ウィルは薄い壁を突き抜けるような大声でエマに返答した。おそらくウィルはエマに言ったのではなく、今も尚部屋に接近しつつある治安維持兵に言ったのだろう。エマの敵という立場をアピールして無事に逃がしたいのだろうが、


「ウィル。急場にしても言い訳下手すぎ! 私も仲間なんだからアジトは使います! 隠れるよ!」


「!?」


 エマはウィルにだけ聞こえるような声で返答すると、驚いた様子のウィルと共ににクローゼットの中に身を隠す。




 ーーーそして、直後、玄関の扉を蹴破り、部屋に入って来る治安維持兵達の足音が響き渡る。彼らは鎧を装備しているので、動く際に鎧が擦れる金属音がするので大体の人数は把握できた。

 おそらく、敵は三から四人。


 兵士達は手当たり次第に家具を破壊し、扉を開けながらウィル達のいるクローゼットまで迫ってくる。


「いないな!」


「さすがに家放棄してどこか行ったんじゃないですか?」


「それでもいいが、家は全て調べろ!」


「了解」


 一人の兵士がクローゼットの扉に手をかけたその時、クローゼット内から声が聞こえる。


「風系攻撃魔法<突撃風>」


 魔法が放たれると、クローゼットの前にいた兵士が薄い壁を突き破って後方まで吹き飛ばされる。その音を聞いた残りの兵士が急いで駆けつけて来るがウィルは魔法を使わずに、勢いよく扉から現れた兵士の顔面におもいっきり拳をぶちかます。ストレートに入った痛みに悶絶する兵士の上を通ってウィルとエマは玄関から飛び出し、階段を一段飛ばしで降りていく。


 すると、ウィル達が三階付近まで降りた頃に上の方から追いかけて来る二人の治安維持兵が階段を降りて来る音が聞こえて来た。


「もっと隠密にやってよ!」


「すまん! あの狭い部屋じゃ無理だ!」


 建物一階の小さなエントランスを抜け、ウィル達は建物群の細い路地を右に左に曲がり、上手く活用することで、先ほどの追っ手二人をなんとか撒くことに成功した。今回ばかりはこの政府が立てた個性のない建物に感謝するべきだろう。


 すっかり息が上がった二人が休憩するのも束の間、果物や野菜を中心とした市場を人混みに隠れながら歩いていたところ、奥の方からウィル達を凝視しながら人混みを掻き分けて迫って来る治安維持兵の姿が見えた。先ほど撒かれた治安維持兵が協力を要請したのだろう。市場には今回の爆発騒動でいつもより人混みの数は少なかったが、それでも走れるほどの隙間はないくらいに市場に買い物にくる人がいるため、逃走者のウィル達も追跡者の治安維持兵の両者ともに早歩きをしながら周りの人々が気づかない逃走劇を繰り広げていた。


「ねえ ウィル この市場を抜けたらこの先あまり人いないから また走ることになるよ?」


「ああ 仕方ないな 今はそのために体力回復だ。地下道を探して逃げるしかないんだよね」


「そうとも限らないわよ。 私の開発したこのマジックアイテムで市場の売り物の影に一旦身を隠しましょ?」


「そんな便利アイテムあったのか! 早く言ってよ! よし どうすればいい?」




 ーーー近くの治安維持兵から要請を受けて応援に向かった元巡回中の治安維持兵は対象を捉えながら市場を早歩きで追いかけていた。


「あの男女二人で間違いないんだよな?」


「ああ そうだ あの二人だ。 奴ら俺の仲間を吹き飛ばした連中だ。用心しろよ」


「クソ! 邪魔だな この人混みどうにかならんのか」


「おい! 集中しろ! 見失うぞ!!」


「角曲がるぞ! 死角になる! 広がれ!」


「了解!」




 ーーーウィル達は市場の果物を販売していた屋台の在庫置場の脇でエマのマジックアイテムを利用して身を潜めていた。マジックアイテムは小さいステッキのような物だが、カメレオンのように周りの背景に溶け込むようにして魔法発動者の色彩情報を背景と同じ色彩にすることができる。魔法発動者しか使用できないためウィルとエマは体を寄せ合って色彩情報を共有させて周りの景色に溶け込んでいる。その効果は思ったより絶大で、果物販売している店の主人も今のところ気づいていないくらいだ。


「しかしだな。エマ、なんでこれ作ったんだ?」


「それ今聞く? 治安維持兵達見ててよ ウィルの本業でしょ?」


「....おう」


 逃走中だというのにやけに柔和な会話をしていた二人の少し先を通り過ぎる治安維持兵達がいた。市場の騒音に気を取られないように慎重に治安維持兵の会話に耳を傾ける。


「死角を利用して姿を晦ましましたね」


「ああ だがまだ時間はそんなに経っていない。 市場の中に潜んでいるだろう。 手分けして探し出せ!」


「了解!!」


 一部始終をなんとか聞けたウィル達は移動を開始する。周りの人の様子を確認しつつ、腰を低くして屋台の影に隠れながら屋台から屋台へと移動していく。目的は市場からの脱出だ。今なら市場内で捜索している追跡者達を撒けるチャンスだ。

 そして、魚売り場の屋台の影に入ったとき丁度在庫を確認しに来た店の店主と鉢合わせをしてしまった。


「おい!! あんたら何してんだ? 泥棒か? ここで盗みを働くことがどうなるか知ってんか?」


「!? 違いますよ。 先ほど反対側の魚屋さんで妻と一緒に今日の夕飯の食材を探していたんですが、やけに魚の値段が高くてね。それで僕たちが舐められて高く売りつけられてるか確認したくてこちらの魚屋さんに来たんですよ。表の売り場で他の魚屋のぼったくりの確認しているのは失礼だし。 ....それにね。 在庫見れば言い値がわかりますでしょ?」


「それは それは 関心しねえな! ウチの在庫を見るとは。まあ兄ちゃんよ 見るところは鋭いがな! 俺んとこならそんなぼったくりの値段で売りはしねえぜ!! あそこは最近酷いからよお! どうだいここで買ってかないか?」


 魚屋の店主は先ほどの怖い顔から一変し、商人の顔になっていた。ウィルは少し安心した。これで大ごとにならなくて済む。魚を買う必要がでたが、これはもう必要経費だ。


「ホントですか!? では一匹お願いしたい。種類は任せますよ。先ほどの店で無駄に時間食われたから魚はもう忘れたいんですよ。 申し訳ない」


「おう おう! 大丈夫だ!! ウチはスピード命だからな!! おう 代金は確かに!! よいしょ! どうぞ!! 毎度あり!!」


 渋々魚を右手で持とうとしたウィルであったが、エマが気を使って魚を持ってくれた。本来なら男性がやるべきなのだが、


「すまないな。俺の左腕が迷惑をかける」


「まあね でも夕飯の食材は妻が買うものだから」


 その後、市場を出る家族連れの一行の最後尾を付けて、家族の一員の装いをしながらウィル達は市場からの脱出に成功した。


「よし! 最後の難関はソウルポリスを出るだけだ! 行くぞ!」


「それが一番厄介なんだけど」


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