92.湯けむりの再会・新たな出会い
「では、こちらが皆さんの部屋になりまち!明日の戦いに備えて、どうぞごゆっくりでち~」
俺達が案内されたのは、この街でも一二を争う大きな旅館。そこの部屋に、ボビンの意向もあって特別価格で泊まる事が出来た。有難い…………ナチュラルウッドな感じの部屋が日本人的にはビビッとくる。割と向こうの旅館と大差ない感じで。
とまぁ…………この一日、色々あったけどやっと腰を下ろして落ち着けそうだ。冥府に落ちるは七賢者には会うわ…………とんでもない一日だったな、我ながら!
「ちなみに夜10時まで温泉開いてまちよ!疲れを取るにはもってこいなので、是非お試しあれでち!それでは、失礼しまち!」
フリルはそんな事を言いながら去っていった。温泉…………!この世界の温泉、どんな感じなのかとても気になる!
「温泉、いいわねー。…………その前に寝室を確認しておきましょ」
「お前…………!?まともな事を言うとか、正気か…………!?」
「しばくわよ」
こいつにも一般常識ってもんは存在したのか………!
「えーっと、布団が四つ…………寝室は一応二つみたいな間取りですねー」
「二対二で分かれて寝る感じかしら?私とライカ、レイとルミネみたいに」
「!?」
突然ルミネの背筋がピンと伸び、かと思えばカタカタと震え出す。…………まぁ、男と同じ部屋で寝るのは嫌だよな。
「この広間っぽい所も机どかせば布団敷けそうだから、三人で寝ればいいんじゃないか?俺はあっちに布団敷いて寝るよ」
「それは盲点…………!目から泥んこね」
「ウロコな」
「…………何だろう、何か良かったような良くないような微妙な気分…………」
何だかルミネが凄く苦々しい表情しているのが気になるが…………。
「とりあえず、温泉でも入って今日の疲れを取るとしようぜ」
「さんせ~です~!」
一先ず、お風呂行きを提案した。
◆◆◆
「ここですかー!男湯、女湯…………混浴もあるんですね」
「混浴ってかあれ、温水プールじゃねえか?」
「あっホントです、水着要着用って書いてますね。まーキラキラな花の国に混浴なんてないですよね」
「残念…………」
「なんで少し残念そうなんだお前は!」
温泉の入浴券とバスタオルを購入し、卓球台や食事処のあるロビーのような所へ。…………他にも転生してきた日本人がいて、温泉事業を広めたのかな?それ位日本式の温泉ロビーだ。
「…………ん?ねえレイくん、あれって…………」
「ん?どしたルミネ?…………あれ?」
ルミネに言われて視線を向けた先、そこには…………
「じゃぱにーずおんせんだね~。はなちゃんの胸を直で揉みしだくチャンス~、くっふっふ~」
「コーヒー牛乳の瓶を腹にねじ込むわよ?」
「おおっ、目がマジだ…………ごめんよ~はなちゃん…………って、ありゃ?」
…………どこかで見覚えのある二人組が。しかも片っぽ、厄介な方がこっちに気付いたような…………!?
「しずくん達じゃ~ん!やほ~!」
「えっ!?れ、玲!?それに皆も!?」
…………俺達の方を振り返り、完全にこちらに気付いた様子の二人…………六花とクッキーがいた。
「ハナ、ウッキー、久しぶりね」
「リヴィりそそれはひどくないかな~クッキーだよあたし~」
とか言いながらも、おサルらしいポーズを取るクッキー。やっぱりノリいいよな、こいつ…………。
…………というか、なんで二人はここに?
「こんな所でどうしたの?観光?」
あ、ナイス。ルミネが聞きたい事をちょうど聞いてくれた。
「いや、実はね…………花の国と聞いてもう行くしかねえと思ったクッキーちゃんがここを観光地に選んで束の間のバカンスに来たんだけど…………なんか七賢者とか出たんだって?ぶっそーだよねぇ。でも明日からはあたし達も参戦するのだよ」
なるほど、大体の事情は把握した。観光で来た所を七賢者騒動に巻き込まれたって事ね。最初の目的こそ違えど、今の目的は両者同じか。
「まぁでも、今日はそんな事を忘れて温泉なのだーって思ってたらしずくん達に会った感じかなー。ねー、はなちゃん」
「そうね。まぁそんな感じよ」
「という訳で、二人で混浴行ってらっしゃーい」
「こっこここ混浴ぅ!?」
こいつ、やっぱり人をおちょくる事しか考えてないのな!っていうかそんな事言ったら、こういう時って…………
「入るかバカー!変態変態変態っ!!」
「ごぼっ!?」
ほ、ほらやっぱり行列なボディブローが…………あっダメだこれ、意識が…………。
◆◆◆
「うーん…………」
いたた…………目が未だ開かないけど、多分気絶してたんだろうな…………でもなんか身体が暖かいような…………?
「…………ってここ、温泉!?」
やっとここ開いた目でしっかりと視認する。現在素っ裸。そして温泉の中。でも、一体誰が温泉に俺を入れたんだ!?
(私だよ)
貴方ですか、ストロンガーさん!?何か久しぶりですね!?そしてもう脳内に直接語りかけてきてる事には突っ込まないぞ。
(みんなはもう女風呂に入ったよ、それじゃあね)
あっちょっ、待っ…………消えたか…………。
本当にあの人は何者なんだ…………。
「ふぅ…………でも一人で温泉も悪くないな」
温泉で癒されていると、そんな事なんてちっぽけな悩みに思えて来るな…………日頃色んなヤツらに悩まされてる分、ここではゆっくりするか。
あいつらも温泉でゆっくりしてるのかな…………って、なんか微かに声が聞こえてくるような?仕切りの向こうが女湯なのかな。聞き耳は悪趣味かもだけど、何話してるのか少し気になるな…………。
「リヴィたそのサイズもいいもんですなー」
「私は今からキレるわ」
「きゃーっ!?リヴィちゃん、腐ったマグロどっから持ってきたのっ!?」
…………いやホントに何話してんの。他の客に迷惑掛けんなよ…………。
「…………ねぇねぇ、キミ」
「わっ!?な、何ですか」
何もやましい事はしていないのだが、女子風呂の会話を聞いていたからか凄く動揺してしまった。えっと…………声、かけられたのか。もう一人入ってる人、いたんだな。
「キミってもしかして幽霊だったりする?」
「っ!?な、何でそんなにピンポイントに!?」
「ぼくも…………だからかなー」
マジかよ。
そういうとその人は浮き上がり…………あっ、ガチ幽霊だ。足がない。でもち…………○○はあるのか。あぶねあぶね、コンプライアンスの問題に引っかかるとこだった。そこの器官、どうなってるんだ…………?
「ここ冥府と近いから出てこれるんだよねー。だからたまに温泉に浸かってるんだけど…………まさか同族に会えるとは思わなかったな」
「いや、俺こそびっくりですよ…………」
「あはは、タメ語でいいよ。ぼく、たかだか千年以上存在してるだけのちっぽけな幽霊だし」
「いや凄くない!?」
思った以上に大物だった、この人!
「何のためにそんな長く幽霊なんて…………」
「んー、大切な人を探すため…………かな」
大切な人…………。
「その人、色々あって不老不死でさ。ぼくが頑張って現世に脱走…………じゃなくて出られるようになったあとは、どこ行っちゃったのか皆目検討もつかなくて…………だから、探してるんだよね。と言っても、あまり死のエネルギーが満ちてる所以外にはいけないんだけど」
「へー、そういう事情が…………」
大切な人を…………か。いい話じゃん。うちの変人共とは掲げてる物が違うね。
「こうなったら必殺!バストサイズサバ読みのサバ!」
「自分で言ってて悲しくなりませんかそれ!?」
「ていうかただの腐ったサバじゃないそれ、さっさと捨てなさいよリヴィ!」
ほらこういう。
「あちら方は、君のお連れさんで?何やら複雑な表情してるけど」
「…………まぁ、そんな感じ」
「ふふ、あの人もあんな感じでやんちゃばっかりしてぼくを困らせてたんだよ。君には親近感湧いちゃうな」
マジで?あんなんなの、君の大切な人?
「じゃあ、そろそろぼくは上がるね。また会えたらいいねー」
「あっ、はい。どうもでしたー」
とか言ってその人は、風呂から上がりふよふよと脱衣場の方へ向かっていった。
…………しまった、名前とか聞くの忘れた。
…………俺も、そろそろ上がるかな…………。
まぁまたいつか会えそうな気がするなと思いながら、俺は風呂から上がった。




