84.コルネの一大決戦
「という訳で、こちらが七賢者討伐報酬です!皆さん、ギルドとしても個人としてもお礼を言わせて頂きます!本当に、ありがとうございました!」
全てが片付いた後、ギルドに呼び出しを受けて。待っていたものは、お待ちかねの報酬だった…………!
「わぁー!300万フロルです!前回の酢豚の時より200万も増えてますよ!」
「ふふ、あなた達がいなかったらここは守れていなかったので、上乗せさせてもらいました。あ、追加報酬でギルドの酒場割引チケットもあるので持ってきますね」
「これで…………これでサフラン生活からおさらばできるよ…………」
「サフランの在庫たっぷりと補充しないとね。生活必需品だもの」
「やめろぉ!!」
何気ないいつものやり取りも、帰ってきた日常を感じられて、とても感慨深い。ギルド爆発事件、やっと終わったんだな…………。ライカが拘留されてから、長かった……………………ん?
………………あっ!?
「え…………エクレアさん!!」
「エクレアさん…………?あっ」
そうだよ!ライカの代わりに、エクレアさんが拘留されてたんだったよ!!まずい、早く迎えに行かないと大変な事に…………!
その事に気がついたライカは慌てふためき、ルミネは引き笑いをし、リヴィは青ざめた顔で目を閉じて合掌。これは、こればっかりはまずい…………!
「ご心配なく」
「どひぇっ!?そ、その声は…………エクレアさん!?」
突如背後から現れたエクレアさんと、俺の無様な悲鳴に皆がそちらを向く。ひょ、表情が普段から変わらない人だから、怒りレベルが分からない…………!
「怒ってませんよ」
「ひっ!ご、ごめんなさ…………およ?お、怒って…………ないんです、か?」
「はい、怒ってませんよライカさん。事件解決おめでとうございます。流石お嬢様が認めただけはありますね」
「で、でも、ずっと私の代わりに独房で…………」
「その点に関してはご心配なく。冥土流分身術で身代わりを創り出し私は脱出、お嬢様の身の回りのお世話など通常業務を行っておりましたので」
「もはや何でもありだな、エクレアさん!」
これが、この人が超人メイドたる所以か…………。ストロンガーさんと肩を並べる位は実力あるんじゃないの?
「という訳で、そろそろ帰らないといけないので。冥土流移動術、ドロン」
「き、消えました…………」
「…………相対するだけで寿命が縮みそうね」
「同感、リヴィちゃん…………」
…………ともかく、これでこの事件は完全に終わりだ。振り返ってみると、ライカが大活躍だったな。覚醒…………いつか俺も出来るのだろうか。
「お待たせしましたチケットです…………あら?皆さん、心なしかやつれているような…………?」
「大丈夫ですコルネさん。チケットありがとうございます」
「いえいえ。はい、どうぞ」
「今度お酒でも飲みましょ」
「いいね!飲みに来ようよレイくん」
「いいけど、あんま飲みすぎんなよ…………」
ルミネさん、前回脱ごうとしてましたよね。程々にしてくださいね。しろ。
「…………報酬は以上で全部なんですが、えっと、あと、その…………」
「…………?どうしたんですかコルネさん?…………まさか!?探偵ライカちゃんレーダーで察するに、ヴェ…………」
「そ、その先は言わなくていいです!皆に聞こえちゃいますので!」
…………あぁ、なるほど。
「要するに、告白って事ですか」
「そ、そうですレイさん…………。ヴェルカーさんがセレナに魅了されてたって事を知って、やっぱり取られたくないなぁって思ったというか…………あわ、あわわわ」
顔を真っ赤にして手をあたふたさせるコルネさんは、文句無しに可愛い。これは、普通にいけるんじゃないか?
「あ、皆さん来てたんですね。その節はお騒がせしました…………」
「ヴェルカーじゃない。なんか前と纏ってる雰囲気が違くてキ…………変ね」
今キモいって言いかけたでしょリヴィ。確かに若干の胡散臭さが抜けてどうにも慣れんが…………。
…………ってのはどうでも良くて。ヴェルカーが、来たってことは…………。
「あ、コルネが話があるって言ってたわよ」
「え?コルネさんが僕に?」
「ぴっ!?ちょ、ちょっとリヴィさん!?」
突然訪れたチャンスに困惑するコルネさん。だが今が絶好の機だ!いけ!
(今逃したら言えない状態ズルズルと引きずっちゃいますよ、行くなら今しかないです)
(ルミネさん…………わ、分かりました!私、やってみます)
ルミネがコルネさんに耳打ちをする。その後のコルネさんの意を決した様な表情から察するに、背中を押したんだろう。ナイス!
思わず親指を立てると、ルミネもすかさずグッドサイン。いいね…………!こういうの、いいね…………!…………こういうのを、語彙力が溶けた状態って言うんだな。理解した。
「あの…………ヴェルカーさん」
「はい、何でしょう?」
「その…………あ、貴方の事が、ずっと前から好きでしたっ!!」
ギルド中に響き渡る澄んだ声で、高らかに思いを告げる。ギルド内の女性陣は歓喜の渦、男性陣は悲鳴の渦に包まれる。…………男性人気、高いからなぁ…………。
そして、それを目を見て真っ直ぐと受け止めたヴェルカーの返答は。
「…………ごめんなさい」
無常にも、気持ちが届かなかった事を表す一言だった…………。
「…………そう、ですか」
ギルド内は、一斉に静まり返る。流石に男連中もここで盛り上がるほど空気が読めない訳ではないようで、安心した。…………一部、口の端が上がっている奴もいるけど。
…………それにしても、失恋かぁ…………。何が駄目だったんだろうな…………。彼女がいたとか?
「あの…………一つ、いいですか」
「…………うん」
「なんで、私じゃ駄目なんですか?」
コルネさんが、凄く気になっていた事をストレートに聞く。一体、ヴェルカーはコルネさんの何が…………?
「…………お~っす。ぎるど、なおってんな。とうばつほうしゅう、もらいにきた」
…………と思ってたら、空気が読めなさそうな人が一人入ってきた…………。
「…………んあ?なにこのふんいき。だれか、こくりでもやったの?」
「フェルちゃん、来てそうそう申し訳無いんだけど、少し静かに…………あれ?ヴェルカーさん?」
コルネさんと相対していたはずのヴェルカーが、いつの間にかフェルの前へ。その事を怪訝に思ったらしいルミネが、尋ねると。
「実は僕…………」
息を吸い込み。
「こういう小さな子が好きなんです!!」
ギルドの空気を、一瞬で氷点下まで下げた…………。
「………………え」
コルネさんの顔が白を通り越して青になっている。現実を受け入れられない、そんな表情。無理もない、だって、その…………
…………ヴェルカーが、ロリコンだったから…………!
「…………あのレイさん、前にコルネさん『女性を見る時も胸に視線を送ったり全くしないんです』ってヴェルカーさんを評してましたよね。あれって、もしかして」
「あぁ、ライカ…………多分、そういう事だ」
大きいのじゃなくて、小さいのに興奮するだけだったんだ…………。紳士さの欠片も、なかったんだ…………!
「という訳で名も知らぬ小さなレディ!つきあ」
「ことわるしんけん」
「あぁっ!?フェルちゃんがパンチでヴェルカーさんを氷漬けに!?」
「フェルコンパンチね」
そんな光景を見て、コルネさんの目の端には涙が溜まり。ぽろぽろ、またぽろぽろと…………
「あ…………あ、あぁ…………」
そして、遂には。
「あんまりよぉぉぉぉ!!うわぁぁぁぁん!!」
我慢できず、走り去ってしまった…………。




