9.お風呂場殺タオル事件
「……とりあえず、依頼解決の旨を勇者さんに連絡しなきゃじゃない?」
「……そうだな」
さっきの爆発で体力がかなり吹き飛んだので、ライカが持ってきた本人曰く手作りのポーション(値札が貼ってありましたけど、どういうことでしょうかライカさん)を飲んで休憩中。するとルミネがそんなことを言い出した。確かにそうだな。
「ん、でもどうやって連絡するんだ?」
「あ、これ使って。魔法端末。そこに勇者さんの連絡先あるから、選んで通話してね」
ルミネから手渡されたのは、地球のスマホとよく似た端末。お、これスマホと同じ感覚で使えるぞ。えーっと、勇者は……あ、あった。ポチッと。とぅるるる……ガチャ。
『はい、ストロンガーです』
「あ、便利屋トゥットファーレです。ドラゴン、無事に倒しました」
『あぁ、それは良かった。あのドラゴン、ギルドへ持っていきな。30万フロル位の値になるだろ』
「……フロル?」
『この世界の通貨単位だよ。この前のは君が分かりやすいように日本円で価値を説明したから知らなかったか、ごめんね』
確かに10万円相当って言ってたよな……その時は何の疑問も抱かなかったけど……んん?だとするとおかしいぞ?
「あの……なんで日本円とか知ってるんですか……?」
『地球に行ったことあるからね』
「……ゑ」
『僕は世界を自由に行き来することができるんだ』
ストロンガーさん、まじ何者なの。もう声を荒らげて突っ込む気にもなれない。人は驚きを通り越すと無我の境地に至るらしい、新発見だ。
「何の話してるんですかー?聞きたいですぅ。スピーカーモードにしてくださーい」
「OK。えーっと、こうか」
『という訳で、賞金は山分けで……出たな』
「え?」
『フッフッフ……よくぞ来た我のテリトリーへ……』
「え」
『出たな破壊の権化ツェアシュ……!』
「えぇ!?ツェアシュってあの伝説の怪物!?嘘ぉ!?」
『如何にも……我こそ破壊の権化ツェアシュ……貴様を歓迎しよう……手厚くな!』
『貴様の野望ここで阻止してくれる!行くぞ!喰らえ必……』
ピッ。
ツー、ツー、ツー……
「「「「…………」」」」
「聞かなかったことにしよう」
「「「賛成」」」
「あっいらっしゃいませ……ゲッ!?リヴィさん!?」
「人の顔を見るなりそれはないでしょ」
「無理もないと思うけどな」
ところ変わって、冒険者ギルド。コルネさん、いつもすみません。例のドラゴン、納品しに参りました。
「これ、倒したわ」
「何か倒したんですか……って、えぇ!?ちょっ、これ!?」
「どうかしたかしら?」
「いや、どうしたも何もこれ超強力なドラゴンですよ!?どうやって倒したんですか!?」
「ストロンガーさんっていう勇者さんが倒し損ねたやつのとどめ刺してきたんです」
「あぁ、そういうことだったんですか。じゃあ仕方ないか、ストロンガーさんだし」
ストロンガーさんの名前出しただけで「じゃあ仕方ない」で片付いたぞ。もう全部あいつ1人でいいんじゃないかな、割とマジで。
「それじゃあ……はい、報酬の30万フロルです」
「……!?こんなに沢山お金……初めて……しあわせ……がくっ」
「うわっリヴィちゃんが倒れた!?」
「大金に耐性がなかったんだ、無理もない……」
「あの、よそでやってもらえませんか……って、あら?そちらの方は初めて見る顔ですね」
「あ、はい。ライカと言います。冒険者登録って出来ます?私も下界に来たからには冒険者やってみたいんですよ。まあ、ちょーかわいーライカちゃんならすっごくつよーい職業就けちゃいますよね。そこら辺よろしくです」
うぜぇ。
「何を言っているのかさっぱり分からないですが……登録なら出来ますよ。えっと……はい、冒険者カード……って、きゃっ!?」
コルネさんが取り出した冒険者カードは、取り出した瞬間ボンってなって黒焦げに。つまり、爆発。……。
「おい」
「ひっ!わ、私何もしてないです!……多分私の魔力が強すぎてキャパオーバー起こしたんじゃないでしょうか?」
「……ちょっと待っててください」
そう言うと、コルネさんは奥に引っ込んだ。しばらくした後、何やら安っぽいカードを……あれ、どう見てもおもちゃだろ。
「貴女はとっても魔力が強いのですね。職業は間違いなくウィザードでしょう。そんな魔力の強い貴女には……この特別製カードを差しあげます。魔力は手動で入力する必要がありますが、いくら強くても記録できる特別製ですよ」
「……!ふふん、そうでしょうそうでしょう!私は強いですからね!可愛くて強い、まさに最強です!特別製も当然ですね!」
「……あの、コルネさん、あれっておもちゃじゃ」
「……本人が喜んでるので大丈夫です。名前と顔写真だけ用意しておけば身分証として使えるので、別に問題ないでしょう」
「……そうですね」
俺達の会話には気づかず、あのアホはおもちゃ掲げて喜んでいる。そんなアホも正式に冒険者になって、ようやく俺たちの慌ただしく忙しい1日も終わるのだった。
「ふいー、疲れた……やっぱり、気持ちいいな」
現在、風呂。リヴィが頑張って魔力を込めてくれたお陰で、この世界樹には風呂まである。檜風呂って感じで趣があっていいなこれ。一日の疲れが癒される……
「……そういえば、明日憑依の練習もしなけりゃだな……待てよ、ここで済ませればいいんじゃね?」
という訳で、善は急げ。やってみよう。えーっと、目標は……あそこのタオルとかでいいか。
「『憑依』!」
ふかふか、ふかふか。身体中にそんな感覚が広がってくる。ということは……
「おー、俺、タオルになってる」
憑依完了。こんな感じなら物に取り付くのは大丈夫かな。……っていうか、ふかふかが気持ちよくて眠くなってきた……ダメだ、抗えない。ここは快感に身を任せて寝よう……
水の滴る音で目が覚めた。やばっ、結構ガッツリ寝ちゃったな。そんじゃ、出るとするか……
「お、誰もいないね。お風呂入っちゃおうっと」
「!?」
ま、ままままままずい!ルミネが入ってきちゃった!幸いご都合主義が発生してタオルを巻いてるからギリギリセーフ……いやアウト!バレたら殺されちゃう!ど、どうしよう!?
「ふー、気持ちいいな……ふふふ」
頬を若干赤くしてそう言うルミネは妙に色っぽ……じゃない!見てることがバレたら余計に酷い目に遭うぞ!とりあえず脱出する方法を……いやここで憑依を解いたらルミネにも見えるようになる!それ即ち、死!ここはなるべく見ないようにして切り抜けるしかない!
「今日は仲間も増えたし、また最高の1日だったな……。リヴィちゃんにレイくん、ライカちゃん……こうやってパーティ組むの初めてだし、うれしいなぁ」
どうしよう。不可抗力なんだけどここで聞いてるのが申し訳なくなってきた。罪悪感半端ない……
「まとまりはあんまりないけど……でも、そういうのに一緒に突っ込んでくれるレイくんがいてくれるから、心強いし」
ごめんなさい……そのレイくんは今貴女の入浴シーンを覗いています……ごめんなさい……罪悪感で胸が押しつぶされそう……。
「……なんか、自分で言ってて恥ずかしくなってきちゃったな……シャワー浴びようっと」
俺も恥ずかしい。憑依の練習せずにさっさと風呂から出ればよかったかな……彼女いない歴イコール年齢には生の入浴シーンは刺激が強すぎる……うれしいっちゃ、うれしいけど……ってそうじゃない!今日のことは忘れないと殺される!
「シャワー、シャワー……きゃっ!?冷たっ!?」
どうやら冷水になってたらしく、ルミネはシャワーを手放した。って、こっちに倒れてくる!?そして冷水がモロに……
「冷たっ!?」
「!?その声は、れ、れれれレイくん!?え、タオルに憑依してるの!?」
やべぇぇぇぇぇぇ!バレたぁぁぁぁぁぁ!どどどうしよう、殺される!
「れ、レイくん……いつからそこに……」
「……最初からいたけど、出るに出れなくて……悪気はないです、ごめんなさい」
こうなったら仕方がない。俺は最終奥義「土下座」を発動。……といってもタオルの姿なので土下座風でしかないけど。誰か、タオルの正しい土下座の仕方を教えてください。
「ということは、全部聞かれて……さ、最低!ヘンタイ!お、女の子のお風呂を覗くなんて……全く……」
「その点に関しては釈明の余地がないです、本当に申し訳ありませんでした」
「………たら」
「え?」
「……覗きじゃなくて、ちゃんと言ってくれたら、たまになら一緒に入ってあげてもいいけど……」
「……え!?」
「ち、違う!覗かれる位ならって話!勘違いしたら一発殴るから……」
はらり。
そう言った瞬間、ルミネの身体を覆い隠していたタオルが取れた。つい反射的に顔を上げようとしてしまい……
「――――ッ!!」
物凄い勢いでルミネの手が伸びてきて、そこで意識は途絶えた。
「いたた……」
「レイ、大丈夫?」
「なんか昨日風呂入ったあとの記憶がないんだよな……気がついたら朝になってたし……」
「そうなの……大変ね」
「うーん……まあ、特に重要な事じゃなさそうだし思い出さなくていいか。ちょっとトイレ行ってくるわ」
「いってらっしゃい」
こうして、今日も便利屋としての一日が始まる。
「ル、ルーちゃん!リヴィりん!風呂掃除に行ったらなんか引きちぎられたタオル見つけちゃいました!?」
「あら本当。無残ね。知らないわ。ルミネ、何か知ってる?」
「あはは……私も、知らないなぁ~……」