80.御伽のヒメの大結界
「う…………ぅん」
何分何秒の時が経ったか分からない頃、目を覚ます。辺りを見渡すと、そこは。
「…………はっ!?ど、どこだここ!?」
見慣れぬ夜の竹林だった。
「あっ、レイさん起きました!大丈夫ですか!?」
「俺は大丈夫だ!えっと、他のみんなは…………」
「目を覚ましたわ」
「大丈夫、生きてるしこうやって竹をへし折れる力もあるよ」
「ヴェルカーさんは気絶してるけど…………私は無事です」
ヴェルカー以外はみんな意識があるらしい。…………って言う事は、一番守らないといけないのはヴェルカーだな…………。
「ていうかここ、一体どこなんだ?」
「…………あいつにしてやられました。ここは多分、結界の中です」
「…………は?結界?」
ライカの言っている事がよく分からず、疑問を漏らした。それに答えたのはリヴィで、
「…………結界魔術。簡単に言うと自分に有利なフィールドを構築する魔法よ。結界にはそれぞれ『理』ってものがあって、それは結界内では絶対に逆らえないルールなの。例えば、『中にいる者は足が動かなくなる』って『理』が存在する空間なら、術者も含めて足が動かなくなる。それを有効利用して相手を倒すのが結界魔術ね。足が動かなくても、魔法で飛ぶ事が出来れば相手を殺す事は可能でしょう」
…………だ、そうだ。
「…………ってことは、『理』が分からないと動くに動けないって事か」
「えぇ。どんな風にこっちに悪影響を及ぼしてくるか分からない以上、迂闊に動けないわ」
「…………結界の『理』ってその結界の装いにも影響を与えるから、よく考えたら分かるかもなんだけど…………ごめんねレイくん、わたしにはさっぱり」
「見た目、か…………」
辺りをもう一度見渡す。見渡す限りの竹が茂る、夜の竹林。綺麗な月が俺達を照らしていた。…………うーん。
「…………さっぱり分からん。コルネさんは、何か分かりました?」
「私も、全然…………。戦闘では絶対に足を引っ張ってしまうのに、頭も回らなくてすみません…………」
「大丈夫、わたし達が守りますから。こう見えて、わたし達武闘派なんですよ?」
「…………ありがとうございます、頼もしいです」
セレナとの戦いに突入したら、コルネさんとヴェルカーの護衛に最低一人は付けないといけない。戦力が削がれるのは痛手だけど、仕方ない。出来る範囲で出来る限りの最善を尽くさなくちゃだからな。
「…………出てこないのが逆に不気味ですね…………」
「セレナか」
「えぇ。結界の『理』を推理してみても、情報が乏しくて絞りこめないのが現状で…………。ここに勝負を持ち込まれた時点で不利です。結界魔術を使ってくる危険性を考慮出来なかったのが失策でした」
「それはまぁ、考えても仕方ないし…………出来る事をやるだけだろ」
「はい!そうですね!」
…………不安が無いといえば、嘘になるが。これまで、二人も七賢者を倒してきたんだ!その経験は伊達じゃない!ギルドを…………俺達の街を守るためにも、やるぞ!
「…………出てこないわね。やーいやーいかかってこーい」
「挑発適当すぎない!?そんなんじゃ、出てこな…………」
「呼ばれて飛びててジャジャジャジャーン☆」
「嘘ぉ!?で、出た!?」
声がする方向を向く。上だ。そこに居たのは…………
「ボクの素敵な世界にようこそ、便利屋さんとギルド職員さん!歓迎するよ!」
…………和装に身を包んだ、まさしく女神のような女だった。
「ちょっ、何あれ!?見た事ないような格好してるよ!?」
「和服…………?向こうの世界の文化を知っている…………?…………頭をフル回転させるですよ、私…………!えっと…………」
「…………まるで、女神様みたいね」
「せ、セレナちゃん…………いや、セレナ!貴女、何をしようとしてるんですか!?」
「えーっ?そりゃ勿論決まってるじゃーん。キミ達の抹殺だよ!心強い協力者もいる事だし!」
「協力者…………?」
「ねぇ、そうだよね?」
……………………。
「レイくん」
「っ!?れ、レイくん!?えっ、嘘!?」
……………………あぁ……………………。
「ちょっ、レイ!?目が虚ろよ、大丈夫なの!?」
「あ…………あぁ…………」
「この症状は…………まさか、魅了!?しかも超超強力なやつじゃないですか!」
「んっふふー、そうだよ。レイくんは、ボクの魅力に丁度メロメロになったとこ!きっと下半身も大変な事になってるだろうねぇ」
…………その声、一言一言が。甘く、脳を蕩けさせていく。骨の髄、脳の隋まで痺れていく。思考は、もう、つかいものに、ならなく なっていく うつくしさに まけて
「…………そうか、貴女!竹林に月、魅了…………。なら、この結界は…………『カグヤヒメ』!」
「おっ?ドンピシャで言い当ててくるかぁ。そうだよ、ボクの結界は『カグヤヒメ』!この世界では少しマイナーな伝承だけどねぇ」
そのこえも あまく とけて い く
「悪いんだけど誰か説明頼むわ!カグヤヒメって何かしら!?」
「『カグヤヒメ』…………こことは違う世界から伝わったとも言われています。月の世界から落とされたカグヤヒメ…………彼女は竹から生まれ、この世のものとは思えない美女に成長しました。そして、沢山の男から求婚されるも、難題を吹っかけて全て断り、何やかんやあって月に帰った…………そんな話だったはずです!」
「説明ありがとう、コルネ!…………つまり、どういう事かしら!」
そのすがたに すべてが とけて とかされて なにも わからなく なって い く
「カグヤヒメは、男達の求婚を無理難題を吹っかけてお断りしました…………!曲解すれば、男達を魅了してコキ使い使い捨てる魔性の女!多分、奴はそういう一面を材料として結界を形作っています!」
「なるほど、モテモテの麗しき姫君も裏を返せば男を誑かす悪女!理解したわ!」
「おぉ~!ここまでドンピシャで当てられると逆に気持ちいいね!そのとーり!この結界の『理』は『ボクの姿を見た男は魅了される』だよ!ヴェルカーくんも目を覚ましてボクを見たらメロメロになっちゃうんだから」
うぃんくを してきた その しぐさに また おちて いく とろけて じがが なく なって いく
「…………最悪!最悪です!レイさんが抗う余地のない『理』での完全支配!今はまだここにいるものの、向こうに行っちゃったらどうなるかも分かりませんし!」
「じゃあ、あっちに行っちゃったらレイくんは死んじゃうかもしれないって事!?」
「まぁ、元から死んでますけど…………心まで壊れて廃人になりかねません!先述の通り抗えすらしないから尚更タチが悪い!」
「そーだねぇ、心まで堕としてあげるからぁ~…………もしかしたら、壊れちゃうかもね!あははははっ!」
「こいつ…………!」
だめだ もう なにも………… かんが えら れ な
「さぁ…………こっちにおいで?キミが望むものは何だって与えてあげる。満足しきれない程の快楽だってあげる。一緒に絡み合って、蕩けちゃおう?」
「あ…………せれな、さ、ま」
「だ、駄目だよレイくん!しっかりして!」
「そんな事しても無駄だよぉ。レイくんが男である限りボクの魅了からは逃れられない!彼の脳内はもうボクでいっぱい、キミの事なんか眼中に無いだろうねぇ」
「…………言わせておけば…………!」
「ルミネさん落ち着いてください!挑発に乗ったら、セレナの思うツボです!」
せ れ な さ ま
「大丈夫、キミの中に渦巻く欲望は全て受け止めてあげるから。気持ちよく、なりたいよね?なっちゃおうよ」
「あ……………あぁ…………」
「考えろ…………考えるです…………!一体どうしたら、レイさんを…………えっと…………えっと…………」
せ な ま
「ふっ…………セレナの話を聞く限り、どうやらここは私の出番みたいね!」
「リヴィりん!?」
「ライカとレイが捜査している時、私達だってサボってた訳じゃないのよ!新たな力でレイを救ってあげるから、見てなさい!!」




