79.剥がれた化けの皮
「犯人は、あなたです!!」
全員の視線がライカの指先に集中する。彼女が指し示した、犯人は…………。
「…………ぼ、僕ですか!?」
ヴェルカーだった。
コルネさんが、言葉を失う。顔は青ざめきっていて、涙は既に零れ落ちていた。セレナさんも驚きを隠せない様子で口元で手を覆っている。
でも前に、『あの人が犯人じゃないって知ってます』って言ってたよな、お前…………!?一体、どういう事なんだ?
「爆発魔法痕を偽装したのは、貴方です。あの時の貴方の言い訳は、やっぱり怪しかった。現場の指紋を取ってみたら、完全にクロです。言い逃れは出来ません」
「…………そうです、僕が…………僕が、やりました」
ヴェルカーまで、認めるような発言を…………!?
「えっ…………じゃ、じゃあ、ヴェルカー先輩が逮捕って事ですか!?」
セレナさんは、そう言った。それに対して、ライカは…………
「…………何か、勘違いしてませんか?」
「勘違い…………?」
その発言を待ってましたと言わんばかりの顔で、そう告げた。
「ライカ、どういう事かしら」
「言い方を変えてみましょう。私は、先程ヴェルカーさんが犯人だと言いました。でも、何かこの発言に穴があるとは思いませんか?」
「穴…………かしら」
「そうです。例えば…………」
「私、犯人が一人だなんて別に言ってませんよ?」
その声は、やけに空間内に響き渡った。
って事は、つまり…………!?
「…………!?じゃ、じゃあ、犯人は二人以上居るってことなの、ライカちゃん!?」
「ビンゴです!更に敢えて言うなら、こういう事ですね。『神聖解呪』」
「うぁぁぁ!?」
先程放たれた魔法よりも強い光を放つ解呪の魔法が、ヴェルカーさんに一直線に向かっていった。そして…………
「あ…………うぁぁぁ…………」
「ヴェ、ヴェルカーさん!?大丈夫ですか!?」
急いでコルネさんが介抱しに向かう。その間に、ヴェルカーから光は抜けていき…………
「…………あ、あれ…………?僕は、一体何を…………?」
「ヴェルカーさん!?っていうかライカさん、まさかこれって…………!?」
「そうです。要するに、傀儡にされて利用されていたって事ですね。犯人と言えば犯人かもしれませんが、本人には何の悪気もありませんでした。…………ショックを与えるような事言って、ごめんなさい。ヴェルカーさんは犯人ではないと言い張ったのに」
「いえ、大丈夫です…………じゃ、じゃあ犯人って…………!?」
この状況から察するに、犯人って、まさか…………!?
「一人だけ、いたんです。ヴェルカーさんを傀儡にして、認識阻害も行えた人が」
「…………それは誰なの、ライカ?」
「最初にギルド爆発事件が起こったと誤解させられた時、ミスリードを誘った人です。ほら、こんな事言ってたじゃないですか」
ライカは息を大きく吸い込むと、一言。
「 『た、大変です!?ギルドが、ギルドが吹き飛んじゃいました!?爆発ですか!?どうしましょう、先輩!?』」
「っ!?」
ヴェルカーとそいつ以外の全員が、そいつの方を向く。視線の先に居たのは…………。
「…………えっ、せ、セレナちゃん!?」
「わ…………私が犯人だって言うんですか!?」
セレナさん、だった。
「貴女はまずギルドの職員としてここに潜伏し、ヴェルカーさんを傀儡化しました。おそらく、幻惑魔法か催眠か魅了魔法のどれかだったんじゃないです?」
「そ、そんな…………言いがかりです!そんなの、証拠も何も…………」
「ありますよ。ここに、ばっちり」
「っ!?」
ライカが取り出したのは、糸のようなもの。一体それに、なんの意図が…………?
「これはヴェルカーさんの服の繊維なんですが…………先輩に頼んで調査にかけてもらった所、ばっちりアウト。貴女の魔力と一致する魔法痕がくっきりと」
「…………そ、それは…………」
セレナさんが項垂れる。おいおい…………マジかよ!でもなんで、一体どうして…………動機は何なんだ!?
「…………じゃあ、本当にセレナが犯人なの…………!?」
「ちょ、ちょっと待って!じゃあ、セレナさんの動機は何なの!?」
ルミネが俺と同じ疑問をこぼす。それに賛同するような視線をコルネさんとリヴィもライカに送っていた。
「…………そうですね。そこが一番重要です。何故なら、今回セレナさんの行動で私が最も許せないのがそこですから」
ライカの表情には、静かな怒りが宿る。口の端は上がっていた。
「…………その、動機って」
「では、逆に質問です。ここに来る途中、皆さんの話し声が聞こえて来ませんでしたか?」
「え?…………冒険者達が言ってた事、って事か?」
「はい」
「えっと…………確か」
『あぁもう、大事なギルドがこんなになってると思うと…………すげぇイライラするな』
『全くだ。こんな事した犯人はシバいてやりてぇよ!』
…………っ!?
「おい、全員恨み言を吐いてるぞ!?って事は…………いや、まさか!?」
「そのまさかですよ、レイさん」
「…………あ」
「…………そういうことだったんだね」
「え?えっ!?」
便利屋メンバーは、その意図を完全に理解した。未だ動けないヴェルカーとコルネさんは、困惑している様子。
…………セレナさん…………いや、セレナの正体は。
「えぇ、そうです。人々の憎しみを集めていた…………だとしたら、答えは一つだけです」
「……………………」
みんなで息を合わせ、その正体を。
「「「「七賢者!!」」」」
口にする!
「……………………ふふ」
その後、セレナが顔を上げる。その顔は…………。
「あは、あはははははは!バーレちゃった、バレちゃった!このまま行けるかと思ったんだけどなぁ~。セレナちゃん大反省!」
狂気を孕んだ邪悪な笑顔だった…………!
「セ…………セレナ、ちゃん?」
「騙しててごめんねぇ~、センパイ。実はボク、人々の憎しみを集めて悪さしちゃうぞ系組織、七賢者が一人なのです!あはは!」
完全に本性を表したセレナは、何が楽しいのかひたすらに笑い続ける。…………まさに、狂気…………
「じゃ、じゃあ…………ライカさんの言う通り、やっぱり貴女が全ての元凶…………」
「その通り!色々苦労したんだよぉ?ギルドを消滅させてみんなの憎しみを集めるの大変だったんだから。まずヴェルカーくんを傀儡化するのに時間かかっちゃったしぃ…………。魅了魔法でイチコロだと思ったのに、ヴェルカーくんったら中々オチてくれないんだもん」
み、魅了魔法!?それってあの、俺が前に大失態を晒した…………あの!?どうしよう、一気に不安が…………!
「ヴェルカーさんの気持ちを自分に向けさせて手助けさせたって事ですか…………!?」
「そーです!…………ヴェルカーくん気絶しちゃったみたいだし言っちゃうけど、センパイヴェルカーくんの事が好きだったよね?寝取っちゃった!ごめんね!」
「…………っ…………あ、貴女…………」
コルネさんの目に怒りが宿る。そりゃそうだ、自分が好きな人の気持ちが弄ばれたんだから…………。
「えっ、コルネってヴェルカーの事好きだったのね。初耳だわ」
…………決戦前に気の抜ける事言うなよ、お前…………。
「ガチで気づいてなかったんだ!?でもそれ言ってる場合じゃないよ、相手七賢者だよ!?絶対強いよ、どうする!?」
「頑張るわ」
「策は!?」
その会話を聞いてか聞かずか、ずっとコルネさんの方を向いていたセレナがこっちを向く。
「さてと…………便利屋さんだっけ」
「ええ、そうよ」
「えっとね?上からの命令なんだ。『潰せ』って。ギルドの認識阻害が解除されちゃったのも、また誤魔化すのめんどいしムカつくし…………。という訳で…………ボクの魅力でキミ達を傀儡にしてあげるからね♡」
「…………言わせておけば、言ってくれるじゃないですか!私は人の心を弄んで悪さするような人が大っ嫌いなんです!探偵としても、冒険者としても貴女をボッコボコにしてあげますからね!」
ライカが珍しく怒った様子でセレナに啖呵を切る。お前がそこまでするなら…………俺達も全力でやるしかないよな!
「いいね~その意思!嫌いじゃないよ?それじゃあ…………メロメロになっちゃえ♡」
「っ!?な、何だこれ!?」
「ううう、浮いてる!?」
セレナの掛け声と同時、床が光り身体が宙に浮いた!?
「キミ達を、ボクの素敵な世界に案内してあげるから…………ね♡」
その言葉を最後に、意識は掻き消えた。




