77.今日は、そういう気分だから
「こっちにはいませんでしたよ!」
「こっちもです!ったく、あいつ逃げ足だけは速いんだよ…………!」
シャーロッテの言葉に傷付き、走り去ってしまったライカ。混沌とした場の処理はルミネとリヴィに任せて、俺とコルネさんが後を追った訳だけど…………曲がり角で見失ってしまった。こっちの方角に逃げたのは確かなんだけど…………この辺は路地が多いし、探すのは難しいなこりゃ…………。
「…………ん?そういえばここって…………」
「どうしました、レイさん?」
「いや、もしかしたら居場所が分かったかもしれないです」
「本当ですか!?」
「確証は無いんですけど…………まぁ、行かない理由が無いですし」
数日前、幻影との戦いを繰り広げたこの路地。あいつって知らない所は苦手だし、もしかしたら…………。
◆◆◆
「確かこの辺だったような…………」
「ひっく…………ぐすっ。ずびびっ…………ティッシュティッシュ…………」
「…………分かりやすっ」
「ですね」
幻影事件の際に、ライカが突っ込んでいたゴミ箱。その付近に、案の定あいつはいた。
「…………よう」
「…………!レ、レイさん…………わ、私泣いてませんから、泣いてませんからね…………」
「無理に泣きやもうとしなくていいぞ」
「だって私、皆を笑顔にする探偵ですし…………泣いてる場合じゃ…………ぐすっ」
「探偵だろうが何だろうが、辛い時はあるだろ。そういう時泣いとかないと、もっと辛いぞ」
「…………ふえぇぇぇ…………レイさぁん…………」
俺の胸に飛び込んで泣くライカ。背中をさすって、落ち着くのを待つ。それが一瞬だったのか、数分だったのかは分からないが、ライカの息は少しづつ落ち着きを取り戻していた。
「…………そろそろ、大丈夫ですか?」
「…………はい。コルネさんも、心配かけてごめんなさいです…………」
「気にしてませんよ。私達、一緒に捜査をした仲間でしょう?」
「…………そんな事言われたら、嬉しくてまた涙が出てきちゃいますよぉ…………」
「えへへ、泣いてもいいんですよ?」
「…………ズルいですよそれは…………」
ライカがコルネに抱きつく。…………加害者と被害者という関係から、ここまで良い関係になったんだな…………。
…………それよりまずは、シャーロッテの件か。
「ライカ、その…………」
「…………シャーロッテ、ですよね」
「あぁ、そうだ」
「私は…………あの人が犯人じゃないって分かります。犯人の目星だって…………」
「そうか…………って、んん!?」
あまりにも自然に放たれた言葉だったので反応が一瞬遅れてしまったが、それって…………!?
「ちょっ、ライカさん!?まさか、犯人が分かったんですか!?」
「…………ほぼ」
その言葉に、コルネさんは驚きを隠せない表情を浮かべる。俺だって、そうなっているだろう。…………でも、でもだ。じゃあ、なんで…………?
「だったら、なんでその推理をアイツの前で言わなかったんだ…………?」
「…………決定的な確証が無かったんです。それが無ければ、相手に言い負かされてしまうかも…………だから、言えなかったんです」
「ライカ…………」
「確たる証拠を見つけられなかった私が悪いです。推理なんて言えるはずもありませんでした。言い返せないのは理屈で分かっていたんです。でも…………でも、それでも…………何も言えないのは惨めで、辛くて、苦しくて…………逃げ出しちゃいました。私、駄目天使ですね。探偵なんて、出来っこなかったんです」
「ライカさん…………」
ライカの心からの、とても静かで悲痛な叫びが辺りの空気に沁みていく。空は、曇り始めていた。
…………でもさ。
「探偵なんて出来なかったって…………そんな事言うなよ」
「レイさん…………?」
「ライカは探偵に成り立てなんだし、失敗だってあるだろうに。ライバルに手柄を取られた位で『自分は探偵向いてないんだ…………』って落ち込むな」
「…………」
黙るライカに、尚も続ける。
「…………俺さ、向こうの世界では取り立てて得意な事なんてなかったし、ロリコン呼ばわりされていろいろ意地悪もされてたからさ、自己嫌悪する事もあったよ。…………でもさ、そこで折れちゃ今の俺はいなかった」
「…………それで」
「俺はさ、出来た主人公なんかじゃないから…………『駄目だなんて自分を卑下するな』なんて言えないよ。俺だってひょろひょろで弱っちいのは自覚してるし、自称もしてる。でも、だからどうしたってんだ」
「…………駄目でも、いいんですか…………?」
…………ったく、こんなちょっとクサいセリフなんて俺には似合わないんだけどな。…………今日はそんな気分の日だったって事で。
「あぁ、駄目でも良い。リヴィだって普通の死霊術は使えないポンコツネクロマンサーだし、ルミネだって普通のアルケミストらしい事は出来ないだろ?でも、だからってその職業である事を諦めなきゃいけない訳じゃない。違うか?」
「…………違わ、ないです」
「じゃあ、何も気にする事ないじゃん。証拠なんか、俺達で集めてやろうぜ」
「…………レイさんは時々、いい事言うからズルいです」
「今日はそういう気分だったんだよ」
「…………心配してくれて、ありがとうございます。私、もう大丈夫です。一緒に…………証拠でもなんでも探し出してやりましょう!!」
…………通じたようで、何よりだ。やっぱり、ライカはこうでなくっちゃな
「レイさんは仲間思いなんですね」
「…………そんなんじゃないですよ、よして下さい」
「せっかく今度四人で使えるギルドレストランクーポンでもあげげようと思ってたんですけど、仲間思いじゃないって言うならいいですね」
「アイアム仲間思い」
「何だかんだライカさんとレイさんって似てますよね」
「え、心外なんですけど」
「あはははは!私と同類ですよ同類!プークスクス!」
「レベル高い自虐すんな」
そんな冗談を交わせる程に、場を支配していた重苦しさはどこえやら。気がつけば、雲の隙間から日も差していた。
「しかし、どうして探したものでしょう…………うーむむむ…………」
「証拠が出て来ないから困ってるんだよな」
「です…………一体どうしたら…………」
「探しても出て来ない証拠、まるで雲隠れしてしまったみたいですよね…………」
「…………コルネさん、今なんて言いました?」
「え?えっと、証拠が雲隠れ…………」
「でぇぇぇすぅぅぅぅ!!」
「うわっ、どうしたお前!」
急に奇声上げて、なんだお前…………って、もしかして!?
「お前、分かったのか!?」
「はい!ちょっと捜索してきます!レイさんとコルネさんはリヴィりんとルーちゃん、ギルド職員代表としてセレナさんとヴェルカーさんを連れてきてください!」
「了解です!しっかり連れてきますね」
「ライカ、お前もしっかりな!」
「はいです!じゃあ…………ギルドで落ち合いましょう!!」
その言葉を最後に、俺達は走り出した。




