60.奪還作戦② ~空からなんとやら~
「あぁもうほんと、何なの…………!?何なのよ、一体…………!?」
闇に包まれた街に、怨嗟の声が谺する。しかしそれは、少々変わった事情のようで。
まぁ、端的に言うと…………
「魔力が湧いてくるのは良いとして!なんで事ある毎に爆発するのよ、この能力っ!!」
例の天使のせいですねっ!!
「ふっ…………やっぱり私の能力は常人…………いや常幻霊さんには使いこなせないすぺしゃるな能力なんですね」
「ちげぇよアホ!あれを抱えてられるお前が頭おかしいだけだ!」
「あーっ!アホって言いましたね!?じゃあレイさんはタコです!タコー、タコー!イカー!」
こいつ!
「そんな事言ってる場合ですか、早くライカさんの能力を取り返しましょう!」
「っ、それもそうだな。狙いを定めて…………」
「イカー!ダイオウグソクムシ、シーラカンス!ウデフリツノザヤウミウシーっ!」
「うるさいな気が散る!ちょっと黙っとれ後でセスタさんに頼んで天界限定パフェ送って貰うから!」
「えっ!?ならアンビシャスホールドオメガパフェ頼んどいてください!」
なるほど、AHOパフェね!ピッタリだな、おい!
「そんじゃま、照準を合わせて…………行けっ!」
ゲームで鍛えたエイム力にはそこそこの自信がある、発射された弾は今も恨み言を垂れる幻霊へと一直線に吸い込まれて…………
ズドォォォォォォォン!!
「あぁもう、またなの!?全身に焼けるような痛みが走るし、何なのよこれっ!!」
いったは良いものの、爆風に完全に掻き消された!?
「うそっ、今のダメなんですか!?」
「あぁ、爆発で弾が弾かれた!しかも…………」
「…………ん?あんた達、人間?しかも、能力がちゃあんとあるのが一人…………」
「気づかれました!?え、え~っと…………ここは、ミニライカちゃんの可愛さに免じて許してください♡」
「その能力よこせぇぇぇぇぇぇ!!こんな能力別の幻霊に押し付けてやるぅぅぅぅぅぅ!!」
「うわぁぁぁぁ般若の様な顔でこっち迫ってきますぅぅぅぅ!!」
よっぽどライカの能力が嫌だったのかこっちへ鬼の形相で飛んでくる!その姿を確認するが早いか恐怖のあまり駆け出したけど、どんどん声が近くなってる!
「暴れんな肩しっかり掴んどけ!落ちるぞ!」
「レイさんもっと速く走れたりしませんか!?」
「やってるけど、これが限界だ!ごめん!!」
「こ、怖いですあの幻霊!レイさんレイさん、後でライカちゃんのおっぱい揉ませてあげるのでもうちょい速く走れませんか!?」
「丁重にお断りします」
「即答ですー!?」
ライカさんには興味ありませんので、結構です。…………って、余裕ぶっこいてみたけどこれヤバいやつ!そろそろ追いつかれる…………!
「…………?レイさん、何ですか上のあれ」
「知らないよ鳥とかじゃ…………って、お?」
リコに促され空を見ると、何かが近づいてくる。それにつられ幻霊も空を見たようで、叫び声も近づいてくる気配も止まる。
「なんか降ってきてますねぇ」
「何アレ、鳥?」
「飛行機ですかね」
「いや…………あれは」
幻霊も疑問を呈す中、降ってきたのは…………
『トラックですっ!!』
「with勇者っ!!」
とらっかとスの人だった!
「えっいや、ちょっ…………はぁぁぁぁぁぁ!?こっちに突っ込んで来てない!?アタシ潰されそうなんだけど!?」
「今です、レイさん!あれ、やっちゃってください!」
「あ、あぁ…………でも、本当にいいのか?」
「大丈夫です!どんとこいですっ!」
「じゃあ、心苦しいけど…………おりゃあっ!」
落ちてくるとらっかと今にもそれが激突しそうな幻霊めがけて、俺が投げたのは。
「ちょっ!?レイさん、何やってるんですか!?頭おかしくなったんですか、外道なんですか!?投げたのリコちゃんですよ!?」
…………そう、リコだ。
「このままじゃリコちゃんも一緒に死んじゃいますよ!?レイさんの腐れ外道!人殺し、冷徹人間!!」
そう罵倒するな、こっちだって今も心臓が張り裂けそうな位緊張も心配もしてるんだから…………!
皆の想像の通り、俺は人を殺すなんてことが出来るタマじゃないし、したくもない。酢豚?あれは…………モンスターだしノーカンで。
だから、これは訳あっての行動。他でもないリコが提案した、今回の作戦の要の一つだ。エクレアさんは死ぬほど反対してたけどな…………。俺も反対してたんだが、リコが押し切った。お嬢様だけど、言う事はしっかり言うよな、リコって。
まぁ、それはいいんだが…………この場合大事なのは、所謂5W1H、つまり『いつ・だれが・どこで・何を・どのように・どうして』この事を起こしたってこと。この内『いつ・だれが・どこで・何を・どのように』は明瞭だから、『どうして』が一番大切。
……何故、こうしたか。それは、さっきのライカの能力の例を見れば自ずと答えが導かれる。
ライカの能力を奪って所有していたそこの幻霊は、しっかりと爆発していた。つまり、能力のデメリットまで、もっと言ってしまえば能力の細かな性質まで影響を受けるということ。
なら、リコを危険に放り込んだなら?
「うわっちょっ、身体が勝手に!?なんかこっちに引き寄せられ…………って、トラック!?うわわ、ぶつかるー!?」
「れ、レイさん!あれって、まさか!?」
「…………そう!エクレアさんの能力だ!」
「レイさん!今ですっ!私のことは気にせず引っ張ってどうぞ!」
「よし来た、そらっ!!」
やって来た幻霊がトラックの軌道上に突っ込む直前、リコに括りつけておいた紐を思いっきり引っ張る!地面を多少擦りながらも、間一髪で助け出す!そして…………!
「行くよ、とらっかくん!」
『はいっ!マジカル、ミラクル…………魔法トラック&中年、みらくる☆とらっかとすーぱー☆ストロンガー、行きますっ!』
「『ストロ・フィナーレ』っ!!」
技名、大丈夫ですか!?首チョンパしたりしません!?
決めゼリフは無視するとして、とらっかとスなんとかさんはしっかりと二体の幻霊めがけてダイブ、激突そして爆発炎上!
『とったどー!能力、しっかり頂きましたですっ!』
「息の根は止めたね。それじゃ、『グラキエース・クリスタル』っ!よし、消火完了」
トラックと勇者、本来異世界で交わることの無い異色コンビが勝利を声高らかに告げる。…………倒したと思ったら生きてて、首をスッパリいかれるオチじゃなくて良かった…………。
「レイさん、まさかこれ…………最初から計算してたんですか?」
「まーな。提案はリコだけど。誰かの能力取り返すついでにエクレアさんの能力も取り返す手筈だったんだ」
「ふわぁ、凄いです!」
「でも、とらっかさんがあんな風に助けに来てくれるとは予想外でした。打ち合わせでは『相手が優勢で慢心してる所を不意打ちするです』としか言ってなかったので…………」
「それな」
まさかストロンガーさんと組んでやってくるとは思わなかった…………。君達、仲良かったのね…………。
「ふむ、魔法中年…………悪くなかったね。今度フリフリの衣装でも来てみるかな」
「やめましょう」
想像したくないです。とらっかならまだしも…………いや、服着れないだろあれ。
「それじゃ、また!助けが必要な時は何時でも呼んでね、裏方として尽力させてもらうよ」
『はい!また今度ゴルフ行きましょうね!』
とらっかって、ゴルフすんの!?っていうか、出来んの!?ストロンガーさんと嗜んでたの!?
最後にそんな大きな疑問を残して、ストロンガーさんは宙に消えてしまった。
「すとろんがー…………さん。凄い方ですね。わたくしもいつかあんな風に強くなれますかね?」
「目指す強さの方向性を間違えてないか?」
出来れば変なものに影響されないでそのままお嬢様でいて…………いや元から割とズレてるか、その辺どうなの?
「っとと、それより…………はい、ライカさん」
「これは…………?って、このキュートでスペシャルでエンジェルでエクスプロードな感じのエネルギーの塊は、もしや!?」
どんなエネルギーの塊だよ。
「はい!ライカさんの能力です、その身体に戻してあげてください」
「ありがとうございます、リコちゃん!それじゃ、早速…………」
ライカは淡く輝く球体を手にし、そっと口付けをする。すると、ライカの身体も輝き始め…………。
『おや?ライカさんのようすが…………!』
「とらっかまでボケないで、収集がつかなくなるから」
『えへへー』
「ライカさんが、光り輝いて…………あ、ボンってしました」
「ボンってしたな」
『ボンってしましたね』
変身の比喩じゃなく、本当に弾けた。いや爆ぜた。
まぁ、ともかく。
「あっつつ~…………。まぁ、爆発は慣れたもんです!それよりも、ライカちゃん、完全☆復活、ですっ!!爆発と魔法と爆発と爆発ならお任せ下さいっ!一緒に皆さんを助けましょう、おー!」
「え、エクレアの能力も取り戻したんですからねっ!ぶいっ!」
奪われた五人の能力の内、二つは回収完了だ!次の作戦段階に、いざ行かん!なんてな。
『それじゃ、ボクはまた不意打ち準備しとくですー』
「おっおう…………よろしく」
「また降ってくるんですか?」
『それは後でのお楽しみです!』
不安しかない。




