七夕特別編.織姫様は追い詰めたい
七夕という事で、季節行事恒例の特別編です。時系列的には、三章解決後の話です。タイトルは…………ちょっと流行りに乗ってみました(遅い)
「はぁ…………もう朝か…………」
とある日の朝、俺はいつものように目覚める。最近色々あって忙しかったから、こうゆっくり目覚められる朝は貴重だ。
「今日も一日がんばりますか…………よっと」
未だ重い身体を起こし、ベッドから降りて着替える。そして、顔を洗おうと部屋から出ると…………。
「あら、おはよう」
「おー、おはよう」
そこには、今起きたばかりなのか髪を下ろしたリヴィがいた。いつもとイメージが違ってドキッと…………することは多分未来永劫ないです、はい。だって、ネタロマンサーだよ?
「ふぁぁ…………二度寝したいわ」
「それはお互い様だろ…………そう言われると眠くなってくるからやめろ」
お互い目指す先は同じ、眠い目を擦りながら廊下を抜けリビングへ。ドアを開けると…………
「おはよ…………お?」
「あら?」
そこには、
「おっはよーございます!どうです、これ!?似合ってます!?」
何故か、和服っぽい服装と羽衣を纏ったライカがいた。
「お前どうした、それ」
「ふふん!二人は今日が何の日か、ご存知ですか!?」
「今日は何の日って、そりゃもちろん7月7日…………あぁ、なるほど」
「冷やし中華の日ね」
「あってるけど違うよアホ」
7月7日は確かに冷やし中華の日だけど、そうじゃねぇだろ…………この服装と日付が指すに、間違いなく。
「七夕だろ?」
「せーかいです!さっすが、レイさん!」
「あぁ、七夕ね七夕。分かってたわよ?わざとボケただけで、分かってたわよ?」
「変な見栄張るな。ところで、この世界にも七夕ってあったんだな」
「はい!こっちの世界でも、天の川で分断されてしまったカップルの伝承が伝わる日です!一年間逃げのびたアルタイルに、ベガが彼女パワーでむりやり渡れない川を渡り、『やっと捕まえたわよだぁりん♡もう逃げちゃ…………ダメよ』って追い詰める話なんです!ベガの強すぎる思いが願いを叶えてくれるとされ、願い事をする行事ですね。包丁とか鉈とかと一緒に短冊を竹に吊るすんですよ」
ヤンデレじゃねぇか。そんなのにあやかって願い事していいのか…………?
「とまぁ、そういうわけでライカちゃんはコスプレしてるんだよね」
話していると、後ろからエプロンをしたルミネが出てきた。良かった、ツッコミ役増えた…………。
「あ、起きてたのねルミネ」
「そりゃ、今日の食事当番だし。朝ごはんできたよ」
「やったぁ!ありがとうございますルーちゃん!」
「汚すなよ」
各々席に着き、準備を整える。今日のメニューは…………おぉ、オクラ丼じゃん!温泉卵が乗ってるのもポイント高いね、こりゃ。サフランが乗ってるのだけはあんまり気にしたくないけど。
「それじゃ…………いただきます」
「「「いただきまーす!」」」
さっそくご飯を口に運ぶ。うーん、やっぱりルミネの作る朝ごはんが一番美味しい。ライカとリヴィのはたまにポイズンクッキング化してる時があるからな…………。
「ところで、今日って街で七夕祭りあるんだってね」
「へぇ…………今日店休みだし、行くか?」
「あー…………ご、ごめん。今日は用事ある」
「そうか…………ライカは?」
「私はごろごろしてたいので行きません」
「ダメ人間じゃねぇか」
「私は行くわよ」
「おぉ!じゃ、一緒に行くか」
「そうしましょう」
向こうの世界ではよく地元の七夕祭りに参加したっけなぁ…………。こっちではどんな七夕祭りなんだろうか。
「ご馳走様。そんじゃ、行くか」
「私もご馳走様。えぇ、そうね。行きましょう」
「そのー…………ご、ごめん」
「ん?いや別に行けないのは仕方ないだろ、気にしてないよ」
「あー…………うん、そうだね。行ってらっしゃい」
「行ってきます」
「行ってくるわ」
準備を整え、玄関へ。一年に一度のイベントだ、めいっぱい楽しんでくるか!
「…………言えなかった…………」
「まぁ、言ったところでどうにもならないですよー。帰ってきたレイさんの顔を楽しみにして待ちましょー」
「そ、そうだね…………あと、ライカちゃん」
「ふゆ?何です?」
「その…………ごにょごにょ」
「ふむふむ…………うん!全然おっけーです!やりましょー!」
「ありがと、ライカちゃん」
【スペランタの街中心部】
「人がいっぱいいるな」
「祭りだからね」
街の中心広場に来てみると、辺りは多くの人で賑わっ…………いや、なんかざわざわしてるな。何だろうか。
「…………っていうか、俺達なんか周りから距離置かれてない?特に男から」
「そりゃ、女の子といっしょにいるからに決まってるじゃない」
…………リア充かよ近寄りたくもないわ爆発しろってこと?だとしたらそう思われるの結構心外なんだが…………
「さぁさぁ皆さん!やって参りました七夕祭り!司会はわたし、コルネでお送りします!」
誰かと思えば、ギルドのお姉さんだった。ギルド職員って多分公務員だし、こういうイベントの時は企画とか任されるのかな?
それと同時、女性陣から歓声が上がる。…………しかし、男性陣からは一切声が上がらなかった。
「な、なんか男の方テンション低くない?」
「男性は強制参加だから、来たくない人がいたんだと思うわ」
と、リヴィはサラッと衝撃的な事を…………!
「おいお前、それってどういう…………」
「女性の皆さん!例の物は持ちましたか?」
「「「「持ちましたー!」」」」
と声を上げるその手には…………は?
………………その手には、刃物があった。
「お、おいリヴィ、これってどういう」
「…………さっきライカがしてた、七夕の伝承を覚えているかしら」
「あ、あぁ。確か、ヤンデレのベガがアルタイルを追い詰めるっていう…………」
「…………そう。これは、男性陣と女性陣に別れて追い詰められるか、逃げ切るかを競う祭りなのよ」
「そ、そんなアホみたいな祭り…………ひっ!?」
動揺して視線を逸らし戻した一瞬の隙に、リヴィの手には鉈が握られていた。
「でも男の人は何故かこの祭りに消極的で…………だから、男性は強制参加なのよ」
に、逃げ道を絶たれてる…………!手の回し方が恐ろしすぎる!
ルミネが送り出すときちょっと言い淀んでたのは、そういう事だったのか!?だったら止めてくれても…………そうだね強制参加だね!
「日頃ストレスが溜まってるであろう女性の皆さん!今日だけは己を解放することができますよ!男性の皆さんは…………女性のワガママ、受け入れてあげて下さいね♡」
受け入れたら死ぬやつ!これ程までに可愛らしさを感じない語尾のハートマーク、初めて見た!
「お、おいリヴィ。俺とお前はもう結構長い付き合いだ、そんな俺に祭りとは言え刃物を向けることはしないよな…………しないよね、しませんよね。しないでください」
だが、無情にも。
「それでは…………祭り・スタートです!!」
「ごめんなさいね、レイ」
祭りの火蓋は切って落とされる…………!
「だぁぁぁぁもう畜生!なんで!この世界は!こんな事!ばっかりなんだよぉぉぉぉ!!おうちかえるっ!!」
「逃がさないわよ。私の可愛い刃こぼれ包丁達、行きなさい!『死霊術』!」
「うおっ!危なっ!!」
後ろから飛んできた包丁を、すんでのところで躱し。しかし後ろは振り返らずに、一目散に逃走する!
「日頃から家事を手伝えやクソ夫!逃げるんじゃねえ!」
「わっ、分かった!ちゃんと手伝うから、だからそれ仕舞って!」
「よくもあたしの事を喪女と罵ってくれたわねあんた達!タダじゃおかないわ、ギッタギタにしてやる!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!謝るので許してください!」
「…………とくに、おとこにたいするうっぷんはないけど。でも、まつりだもんね…………!とりあえず、あいすよこせ…………っ!」
「理不尽の極み!?だ、誰か助け…………うわぁぁぁぁぁ!?」
周囲で巻き起こる阿鼻叫喚の地獄絵図も気にせず、ただひたすらに走る!この世界に来て、七賢者と戦った時より、ベノムと戦った時よりも死の危険と恐怖を覚える。何としても、逃げ切らなくては!!死んでたまるかぁぁぁぁぁ!!
【夕刻 スペランタの街中心部】
「はい!タイムアップ!ここで本日の祭りはおしまいです!結果は…………圧倒的大差で、女性陣の勝利です!おめでとうございます!」
歓声が湧き上がる広場。その一角には、捕まってダウンした男性陣が積み上げられている死屍累々たる有様が広がっていた…………。俺も、そこに転がってます。はい、アッサリ捕まりました…………。
あの後、全力逃走も虚しくリヴィにすぐ捕まった。いつ着替えたのか、いつぞやのオクラを彷彿とさせる竹の衣装で迫ってくるリヴィは…………とても、怖かった。なんでも、ジェットエンジン搭載らしい。そんなものから己の足で逃げられる訳もなく、アッサリと捕まったという事だ。
「あー、楽しかったわ…………じゃあ、帰りましょう。来年も、またやりましょうね」
「勘弁してください」
【トゥットファーレ前】
「やっと…………やっと家だ…………良かった、良かったぁ…………」
「なんで泣いてるのよ、レイ」
辿り着いた家に、どうしようもなく安堵感を覚える。安心で涙が自然と零れてくるなんて、初めての経験だ。本当に、本当に疲れた…………。
安心に包まれたまま、玄関のドアを開ける。すると、そこには…………。
「お…………おかえり、レイくん、リヴィちゃん」
織姫の衣装に身を包んだルミネがいた。
「ルミネ、どうしたのその格好」
「え、えっとね…………こういうの一回来てみたくって、ライカちゃんにプロデュースしてもらったんだ。ど、どうかな…………」
そうやって、恥じらいながらこちらに感想を聞いてくるルミネは、いつになく可愛くて…………やばい、なんかドキドキする。普通に綺麗なんだよお前!
「まぁ…………その、なんだ。…………可愛いな」
「似合ってるわよ、ルミネ」
「ふふ、ありがとう二人とも。…………頑張って良かった」
途中で後ろを向いてしまったので、後半部分は殆ど聞き取れなかった。なんで言ってたんだろう…………。
「あと…………リヴィちゃん、何それ」
「竹よ」
「うん、そうだね。もういいや、ありがとう」
「おかえりです二人とも…………おりょ」
あっ、うるさいのが来た。
「リヴィりん何ですかその衣装!?カッコイイです!」
「えっ」
「えっ」
「ふふふ、そうでしょ。ジェットエンジン搭載だから空も飛べるのよ」
「なおのことカッコイイです!私もそれ、欲しいですー!」
「もう一着あるからあげるわよ」
「本当ですか!?リヴィりん、大好きです!」
…………こいつのセンスはどうなっているのだろうか。真剣に一回脳内を覗いてみたい。
「それはそうと、晩御飯出来てるよ。七夕カレー、作ってみたんだ。カレールーで天の川を表現した力作だよ」
「おぉ!」
「withサフランです!」
「おぉ…………」
「じゃあ、晩御飯にしましょうか」
…………こうして、なんだかんだあったけど。それでも、なんだかんだで楽しい七夕の日を過ごしたのだった。祭りだけは、二度とごめんだけどな!!
皆が寝静まった夜中、何となく喉が乾いて目を覚ます。水を飲むためにダイニングへ向かう途中、みんなが書いた短冊が目に止まった。
リヴィちゃんのお願い事は『七夕の回数増加』。伝統もへったくれもないお願い事だ。でも、なんだか微笑ましい。
ライカちゃんのお願い事は『探偵になってみたいです!』。まともなお願いだけど、ライカちゃんに探偵なんてできるのかな…………?証拠爆破しそう。
レイくんのお願い事は『やめてください』。リヴィちゃんとライカちゃんのお願いを見て心からそう思ったんだと思う。自分の事じゃないところが、なんともレイくんらしくて思わず笑ってしまう。
そして、私の願い事は…………
『ちゃんと、言えますように』
今は言えなくてもいい。伝えられなくてもいい。でも…………いつか、言えたらな…………って。そう思った。だから、今日はそれでおしまい。
コップ一杯の水を飲み干すと、ベッドへ戻る。願いを乗せた短冊は、心なしかきらきらと輝いているように見えた。
次回は明日の夜九時過ぎ頃に更新です。




