6.初めてのお客さん
予定通り1週間以内に投稿できました。いよいよ便利屋さんの活動、本格開始です。それでは、始まります。
「……なあ」
「……どうしたの?」
「……ちょっと気になったんだけど、トゥットファーレってどういう意味なんだ?」
「……何処かの国の言語で便利屋を指すらしいわよ」
「……へー」
「……」
「……」
「暇ね」
「暇だな」
便利屋を開業してから3時間が経過。誰も来ない。よって超絶暇。誰も来ないな本当に……待てよ。もしかして。
「……そういえば、広告とか出した?」
「あっ」
「……そりゃ来るもんも来ないよ」
宣伝しなけりゃ、その存在が伝わるはずもない。うん、至極当たり前だね。これまでの3時間、何だったんだろうね。
「じゃあ、今から宣伝しに行きましょう」
「了解」
「便利屋『トゥットファーレ』本日開店です!悩み事とか解決します!お願いします!」
折角二人いるので、リヴィと二手に分かれ宣伝をする。勿論、チラシ刷ったりティッシュ配ったりは金銭的に無理なので声掛けしかない。本当に大丈夫かこれ?
「っていうか、あいつ一人で宣伝させて大丈夫か……?……ん?」
宣伝しながら歩いていると、何やら角の向こうがざわめいているのが聞こえてきた。一体何だ?ちょっと行ってみるか。
「何があんのかなっと……って、うわ」
「便利屋『トゥットファーレ』本日開店ですー。よろしくお願いしまーす。繰り返しまーす、よろしくお願いしまーす」
……そこには、とらっかに機材をつけた選挙カーに乗りながらメガホンで宣伝するリヴィがいた。つくづく、異世界とはなんだっけと思う。っていうか、ああいうのって許可がいるんじゃないの?
「おい、リヴィ!」
「よろし……あら。どうしたの?」
「いや、どうしたもこうしたもお前、それどういう状況だよ」
「どういう状況って、普通にとらっかちゃん選挙カーver.に乗って宣伝してるのよ」
「んなの見れば分かるわ!ちゃんと許可を取ってやってんのかそれ!?」
「え?許可がいるの?」
「いやこの世界じゃどうか知らんけど……ん?」
特徴的な服に身を包んだ男性が、とらっかのドアをノックした。
「……え」
「ごめんね、ちょっと署まで来てもらおうか」
「……えっ……」
無論、その人は警察官(この世界でどういうのかは知らんが)。そのまま、リヴィは事情聴取に連れていかれましたとさ。本当にあいつは何をやりたいんだ。ネクロマンサーってあんな面白ビックリ職業だっけ?
「はぁ……宣伝再開だな」
今の騒ぎで振り出しに戻された感あるけどね。なんか周りの人ドン引きした視線でこっち見てるし。被害甚大だよ、ぜってぇ客来ねぇよ。あいついつかとっちめる。
「ここじゃやりにくいから、移動するか」
「あの……便利屋の方ですか?」
「……!?あ、はい、そうです!」
「その、依頼したいことがあるんですけど……」
そう言ってくれたのは、お下げ髪が特徴的な女の子だった。なんというミラクル!あんなに盛大にやらかしたのに、声かけてくれる人がいたよ!世の中、捨てたもんじゃないね‼
「依頼ですね!受けますよ!」
「……!ありがとうございます!」
「とりあえず、立ち話も何ですし店の方いきます?」
「あ、はい!お願いします!」
「とりあえずお茶でも」
「ありが……すみません、これ水なんですけど」
「これは失礼。お茶入れようとしたら茶葉すらなかったもので。何せ両手に収まる程しか資金がなくて」
「それ、何で開業しようと思ったんですか……」
「私にも分かりません。開業しようとしたのはもう一人の店員で……」
「ふぅ……やっと帰ってこれたわ」
「お、噂をすれば。帰ってきたか前科持ち」
「……まだ注意だけだからセーフよ、セーフ。説教されただけだもの」
「警察に連れていかれて事情聴取からの説教って流れの時点でアウトだと気づかんのか」
「いや、投獄されてないからセーフ……あら?お客さん?」
「……あ、はい、そうです。依頼を受けてくれるって聞いて」
「私はリヴィ、この便利屋の発案者よ。よろしくね。ところで、貴女の名前は?」
「ルミネって言います。一応冒険者やってて、職業はアルケミストです。よろしくお願いします」
「敬語じゃなくていいわよ、年近そうだし」
「確かに年近そうだな。俺にも敬語じゃなくていいぞ」
「え、そうですか?……じゃあ、そうさせてもらうね」
そう言うと、ルミネははにかんだ。……この子、可愛いな。今まで出会った中でもコルネさんと同じくらいの常識人っぽいし。
「そういえば、依頼したいことって何かしら?」
「その……わたしの宝物のペンダントを取り返して欲しいんだ」
ルミネの話によると、平原のモンスターにペンダントを奪われてしまい、取り返そうと奮闘するもまだ取り返せていないらしい。そして、その奪還を手伝ってほしいとのことだった。
「……なるほどね……ひとついいかしら?」
「うん、いいよ」
「ルミネはアルケミストなのよね?なら、戦闘して自力で取り返すことが出来ないのかしら?」
それは俺も思った。アルケミストって、錬金術で攻撃したり薬を調合したりして戦う強い職業ってイメージだから。あくまで俺の中の勝手なイメージだから、そうとも限らんが。もしアルケミストが強い職業だったら、そんなアルケミストでも歯が立たないモンスターだったら俺もリヴィも確実に無理だし。
「あ、それかぁ……わたしも、最初は倒そうとしたんだけどね」
「……もしかして、超強いモンスターに奪われたのか……?」
「いや、そうじゃないの。わたしのペンダントを奪ったモンスター、実はピュロボロスってモンスターなんだ……」
「ピュロボロス……それは厄介ね……」
メタクソ強そうな名前のモンスターじゃねぇか!?出来たばかりの便利屋の最初の仕事で相手にしていいやつじゃねぇだろそれ!さっき、超強いって訳じゃないって言ってなかった!?名前から強者のオーラがプンプンするんだけど!!
「おい、名前からしてそいつ超強そうなんだが!?本当に強くないのか、それ!?」
「強くないわよ。確かにドラゴンだけど、ちょっと強い人が殴れば一撃よ」
「……え?そんな弱いの?」
「ええ。ただ、ピュロボロスにはひとつ厄介な点があってね……倒すと爆発するのよ」
「えぇ……」
新事実:異世界のドラゴン、性質が完全にばく〇んいわだった。そりゃ、倒して取り返せないわけだ。そんなことしたら、ペンダントごと木っ端微塵、倒さずして奪い返すしか選択肢がなかったのか。
「そうなの。わたしが得意な魔法はゴーレム錬成だから、わたしが攻撃したら間違いなく爆発しちゃう。友達に『剛腕のゴーレムクリエイター』なんて痛い渾名付けられちゃうくらい火力あるから……」
「剛腕のゴーレムクリエイター……かっこいいわね」
「は、恥ずかしいから誰にも言わないでね……?」
そういって恥じらう姿は、まさに女の子といった感じで、普通に可愛い。ってそうじゃねぇや。
「つまり、俺達がそいつからペンダントを取り返せばいいんだな?」
「うん、そしたらわたしが遠距離からゴーレム使ってとどめを刺すよ。近くで倒して爆発したら危険だし」
「そんな事しなくてもとらっかちゃんで遠くから轢けば……」
『イヤです!痛いもんは痛いです!』
「なんかぬいぐるみの中から声がしてるが……流石にそれは可哀想だからやめとけ」
ちなみに、このとらっかの声、ぬいぐるみの中から無理やり絞り出してるせいか亡者が救いを求めるようなえげつない声に聞こえる。見ろ、ルミネなんか震えてるぞ。え?俺?勿論、ガクガクしてます。
「じゃあ、作戦としてはレイに小回りが利くクマさんに憑依してもらって取り返してから、ルミネがとどめを刺すって感じでいいかしら」
「うん、いいけど……憑依?」
「大したことないわ、レイは霊体だから使えるのよ」
「へぇー、そうなんだ。………………えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「あー、諸事情あってな」
「そ、そうなんだ……全然気が付かなかった……でも、普通に触れるね」
「実態付与の魔法を掛けてるから、生身の人間と何ら変わりはないわよ」
「なるほど……いや、なるほどでいいのかな……?この展開に疑問を覚えた方がいいのかな……?」
同士の香りがプンプンする。これは、紛れもなき常識人!良かった!俺と同じようなこと考えてる!やっぱり、俺達じゃなくて周りの方がおかしいよな!
「……?どうしたの?レイくん」
「あぁ、いや、なんでもない」
「それじゃあ、そろそろ取り返しに行きましょうか」
「そうだな。よし、いっちょやったりますか!」
「リヴィちゃん……レイくん……!2人とも、ありがとう!」
「これも仕事よ、気にしなくていいわ」
「よし、トゥットファーレ、仕事開始だ!」
「「「おー!」」」
トゥットファーレ依頼file.1 「ペンダントを取り戻せ!」 開始!