53.勇者マキ伝説
むかしむかしの、そのまた昔。世界は愛と平和に包まれました。めでたしめでたし。
………………あっ。
すみません。これエピローグでした…………。えー、コホン。仕切り直しです。
むかしむかしの、そのまた…………あっ、くどいですか。すみません。じゃあそのちょっと先から。
世界は混沌に満ちていました。宇宙、月からやってきたと言われる謎のエイリアン。『ルナシー』と名乗る彼らはこの星を支配下に置くために侵略戦争を仕掛けて来たのです…………!そう、宇宙戦争!SFですよ!SFと云えば美人クルー!きっと歴史の裏ではくんずほぐれつヒィヒィ言って人類の未来のために営みを…………
…………あっごめんなさい、アドリブは程々にするのでその目を止めてください。ゾクゾクするじゃないですか…………いたっ!ドルチェ、なにす…………あっは~い真面目にやらせていただきますね♥だからその刺々しいホウキ仕舞ってください、ごめんなさい……
…………まぁ、ともかく。ルナシーさんは我々の知らない魔法を使い、見たことも無い兵器を操りました。そんな彼らに勿論この星の人達は適うはずも無く、ボッコボコ。隠し撮りドルチェ成長記録を本人に発見された時の私より遥かにボッコボコです。え?何処の成長記録記録かって?それは勿論、おっ…………
いつっ!?ちょっ、刺さっ…………!?ご、ごめんなさい止めてください!私が謝りますからそれ仕舞って…………ね?もう失言しませんので。本当ですよ?ロッシェウソツカナイ。
えー…………話を戻しますとですね。ルナシーは実は月の魔力を扱う種族だったんです。月の光は魔力の源、フェルさんとか悪魔も月の晩には昂ると言うでしょう?それです。月の加護を直に受けたルナシーの魔力に月とそんなに縁深くない我々が負けるのは必然だったわけですね。
…………それでも、負けて黙っていないのがこの星の人々。次の日から月に祈りを捧げ、月の魔力の庇護を求めました。今でもこの習慣はこの世界に根付いています。ちょこちょこ『月の社』と呼ばれる神社に行って祈りを捧げるわけです。
ちょっと話が逸れましたね。軌道修正しますと…………そうそう、ルナシーに勝つため、自分達も月の魔力を賜ろうと祈ったんですね。それで、その結果…………。
…………ルナシーの魔力が三倍になりました。体色もまっかっかに変貌して…………。赤いと三倍っていうのは本当ですね。
…………えっ?何で敵がパワーアップしてるのかって?そりゃあ…………
月の魔力を賜る種族の戦うのに月に祈って力を注いでも逆効果ですよね。
…………はい、つまり愚行だったわけです。面白いですね~この話!ちょっと考えたら分かるはずなんですけどね。おばかさんですよね~うふふ。
因みにこれを由来としてこの時代の人々をまとめて一人の萌えキャラにした『ルナウォーちゃん』略してルゥちゃんが同人界隈で人気を博してですね。ぽんこつおばかちゃんキャラとして定着し無知シチュからのホテルでレイ…………あっごめんなさい包丁は止めてくださいドルチェ私の中には確認するまでもなく誰もいませんよ!いませんよっ!!
えーっと…………何でしたっけ?…………あぁ、赤くて三倍になった月の彗星ルナシャ…………いえ、ルナシーさんの話ですか。ただでさえ適わなかった相手が突然三倍にパワーアップですよ?そりゃ更にリンチコースですよ、リンチ!立ち直れないほどのダメージを負ったその時、もはやこの星は滅亡寸前…………
ところがどっこい、今もこの世界は続いていて私達が日々営みを重ねているわけです。あ、エロい意味じゃないですよ?えっ、その情報は余計?そうですか…………しゅん。
じゃあ何で、そんなボコボコにされてもこの星は大丈夫で侵略も完遂されずに終わったのか?その原因、いや勝因が…………
…………何を隠そう『勇者マキ』なのです!
彼女はこことは別の世界、皆さんと同じ世界からやって来ました。この星が滅亡し宇宙のバランスが崩れることを危惧した天界が思い腰を上げ、この世界に送り込んでくださったんです!
勇者マキはこの世界に臨界するに中って、ある能力を授かりました。それは…………『月の力』。そう、目には目を、歯には歯を!月には月をですね!
彼女は自らの魔力回路を月の魔力源と遠隔接続する事で文字通りの『月の勇者』になりました。月の魔力を受け取る者、月の魔力をその身に宿す者。どちらが強いかは明確です。結果、彼女はたった一人でルナシーの軍勢に立ち向かい、見事勝利を納めたわけです。しかも大層美人だったようですよ!当時に映像技術が無かったのが悔やまれますね…………うむむ。
彼女は月の力を得たことで、不老不死になったと言われています。その後しばらくは人助けをして各地を回っていたようですが、ある日突然書置きを残して行方不明になったんです。
『私が勇者マキとしてこの世界で果たすべき役目は終わりました。皆様にこれからも月の祝福があらんことを』
人々はそれを、『月の勇者様が天に昇って神になったんだ』と捉えました。その後いくら捜索しても彼女の姿は見つからず、打倒ルナシーの為の礼拝堂として作った月の社の中心部に彼女の着ていた服の布が残っていたからですね。それ以来、月の社は勇者……いや、月の神を祀る施設になったんです。
……彼女が残したメモ書きは、後の時代になってもう一通発見されました。それは…………
『千年後世界は危機に陥ります。それに深く関連するワードは、異界の…………』
『雪月花』
まぁそんな不吉な予言も残りましたが、世界は愛と平和に包まれました。めでたしめでたし!
「掻い摘んで話すとこんな感じですね」
「ちょくちょく下ネタ挟みたがるのはどうなのよ…………」
「そういう人だ、諦めろ」
「すみません、うちの姉がすみません…………」
…………俺は、話し始めと終わりのビフォーアフターで傷だらけになる人間を初めて見た。ドルチェ、キレると怖いね…………。怒らせないようにしよう。
「面白かったです~。…………そんで、『雪月花』として召喚されたのがはなちゃんとあたしって解釈でいいのかしらん」
「『ハナ』さんですもんね。その可能性は充分有り得ます。私ではなんとも言えませんけどね、すみません」
「おねぇちゃんがせつ……げつ、か?の勇者?かっこいいねっ!」
「そ、そんなことないわよ。ほら、私の剣いぶし銀の剣だから地味だし……華の勇者って柄じゃないわ」
「ワビサビあってかっこいいよ~その剣。あはは、はなちゃん白銀の雪月花の勇者だぁ」
「ちょっ、きいろ…………やめてよ」
雪に月に花…………確かに、六花やクッキーと関係が深そうなワードだ。だとすると、『脅威に対処する為の力』ってのはやっぱり、そういうことなのか?
…………ただ、どうにも引っかかるんだよな…………なんでそんな伝説にも出てくるような勇者をピンポイントでツヴィトーク家は呼び出せたんだ?ストロンガーさんの謎もまだ解けてないし…………。
…………まぁでも、そんなに深く考えることでもないか。
「むずかしーおはなしの後は、とうぶんがだいじだよっ!はい、エルマーナとくせークッキー!」
「お~クッキーじゃ~ん!これって、共食い?」
「んなわけないでしょ。………あ、これ美味しい」
「うまうま~。ありがとね~シフォンちゃん」
「えへへ、もっとほめて~」
今は取り敢えず、二人に異世界を楽しんでもらうことを考えましょうかね。次はどこに連れてくべきか…………あっ、あそこを忘れてた。
一番重要で、真っ先に案内すべきだったあのスポット…………
『便利屋・トゥットファーレ』へ。
…………一方その頃。
「いい?盗撮は犯罪だからね。反省してるっぽいから当初の予定より説教だいぶ短くしてあげたけど、肝に銘じておいてね」
「ごめんなさい…………」
「ずびばぜんでじだぁ…………」
ひたすら土下座を敢行すること数時間。床がすり減る程に頭を擦りつけ、誠意を見せ続けたことが幸いし、説教タイムは大幅に緩和された。熱い土下座魂である。
これなら、データも消されずに済むのでは…………
「それじゃあ…………データ、消すからね」
「「…………はい」」
などと言う淡い期待は、ルミネの一言の元に断ち切られた。
そして、ルミネは次々と尊い命を奪うしていく。
「えーっと…………うわ、こんなの撮ってたの…………?デリートデリート」
「ルーちゃん写真以外は消さないでくださいね…………?先輩への報告用の写真もあるので…………ぐす」
「分かってるって。これも消去、あれも消去、これ………………っ!?」
「ルーちゃん?」
「ど、どうしたのルミネ?」
淡々と写真を消していたルミネが突然、目を見開いた。瞳には困惑の色が顕著に現れ、身体は震えている。
「ふ、二人とも見てこれ!こんなのが写りこんでる!」
そして促されるまま、リヴィとライカは写真を覗き込む。そして、
「こ、これって…………!?」
「ま、まさか、これ………………!!」
その正体に気づいた時、
『クケケケケケケケケ、ギャハハハハハハハハ!!』
不気味な声が、辺りに谺した。




