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異世界便利屋、トゥットファーレ!  作者: 牛酪
一章.便利屋トゥットファーレ、開店!
5/110

5.異世界便利屋、開店!

前回の更新からしばらく空いてしまい、すみません。リアルの都合で、書くことが出来ませんでした。次回からは、しっかりと1週間1回のペースで進められると思います。

「魔王に会いに、魔王城に行くのよ」


リヴィの口から飛び出してきたのは、そんな衝撃的な一言だった。魔王。魔王……魔王って、あれだろ?大抵ラスボスで悪の権化のやつ。そうだよな?そんなやつの所に突っ込みに行くのか!?


「……正気か?」

「ええ、至って普通のコンディションよ」

「魔王城って、あの魔王が住んでるやつだろ?」

「ええ。普通の人は滅多に寄り付かないわね」

「魔王城に行くってお前……大体どうやって行くんだよ!?」

「徒歩五分。この街のはずれにあるわ」

「近っ!?」


街の徒歩五分圏内にあんのかよ魔王城!そんな近くにあって大丈夫なのかよ、それ!!それでよく魔族が攻めてこなかった……


ん?魔族?待て、よく思い出せ。確かこの世界において魔族ってのは悪い存在では無かったような……?ってことは、魔王って……


「……なあリヴィ。魔王って普段何をしてるんだ?」

「魔族の統治は魔族の都に居る魔将軍に任せて、この辺にある魔王城でたまに人の相談を聞いたりのんびりしたりして過ごしているらしいわ。温厚で器の広いとの噂もあるわね」


魔王という存在のイメージと威厳は、今ここに跡形もなく崩れ去った。その代わり、魔王の株が急上昇。滅茶苦茶良い奴じゃん、魔王。ギルドでトラックを乗り回す奴とか、ドジで人の人生を終わらせる奴より数百倍も良い奴だよ。他が酷すぎるだけ?それは言わないお約束。


「……魔王って、すごいいい人なんだな……」

「そうらしいわね。じゃあ、もう出発していいかしら?」

「ああ、いいぞ」


そうして俺達は魔王城へ出発した。無論、とらっかで。……わーい、もうこの流れに疑問を抱かなくなってきた!嬉しい!嬉しい。嬉しい……嬉し…………。あー虚しい。


「着いたわ、ここが魔王城よ」

「ここが……」


そう言っているうちに魔王城。その見た目は、いかにもファンタジー系作品のラスボスが住んでいそうな、黒で統一された洋風の城だった。これだけなら、ラスボスが住んでいてもおかしくないんだが、横にある花畑がそういう雰囲気を全て消し飛ばしているので若干ファンシーに見える。これでいいのか魔王城?


「お邪魔しまーす、っと……」

「お邪魔するわ。魔王さん、いらっしゃるかしら?」


中に入ると、落ち着いた雰囲気の玄関が広がっていた。リヴィがそう言うと、奥から誰かが出てくる。


「……だぁれ?」


出てきたのは年端もいかない、しかし悪魔っぽい羽の生えた少女だった。あれは……魔王じゃないよな、少なくとも。誰だ?


「俺は乙黒玲。んで、こっちがリヴィ」

「リヴィよ。ところで貴女は?」

「ん……、フェル。まおーさまのそっきん。いごよろしく。」

「その魔王様に会いたいんだけど……出来るか?」

「……わかった。とりあえず、おねーちゃんよんでかくにんしてみる。」


そう言うとフェルは奥の方へ引っ込んでいく。程なくして、フェルより頭1つ分位大きい別の悪魔っ娘が出てきた。


「おねーちゃん、おきゃくさんあっち」

「どれどれ……ああ、あの人達ね。フェルの姉、同じく側近のディアブロよ、よろしく!」

「あ、よろしくお願いします。乙黒玲です」

「リヴィよ」

「あはは、そんな堅苦しくしなくても大丈夫だよ。ここ、大したことないただの魔王城だし」


大したことあると思うのですがそれは。まあでも、堅苦しいのは俺も苦手だし、自然体で行くか。


「そんでもって、お客さんよね?魔王様ならそこの奥の部屋だから、案内するね」

「お、おう……そんな簡単に通しちゃって良いものなのか?」

「平気平気、魔王様強いから。見たところあなたたちも危なそうには見えないしね」

「……ん、おねーちゃん、おうたいがんばったから、アイスたべていい?」

「いいよ、冷蔵庫にあるから食べてきな」

「……♪あいす、あいす、あいすー♪」


超平和……この世界は平和だなぁ……こんなに平和なら、チート能力貰う必要なかったんじゃ?結局貰えてないわけだけど。まあとにかく、今は魔王に会うことが先決か。


「魔王様ー、お客様ですー」


開け放たれた扉の向こうには、広々とした空間。そして、そこに佇む玉座。そこにいたのは……


「「「えっ」」」

「あっ」


そこにいたのは、玉座の上で逆立ちしながらテレビゲームに興じる魔王だった。




「失礼、見苦しいところを見せたね」

「あ、あぁ……はい」

「……参考までに聞きますけど、何をしてなさったのかしら」

「ちょっと熱中しすぎてね。エキサイトしてしまったよ。はっはっは」

「……そうですか……」


仕切り直し。今目の前にいる、マントを羽織った大柄の魔術師のモンスターっぽい人、さっきまで相当エキサイトしていたこの人こそが魔王。……何処に逆立ちしてエキサイトしながらゲームする人がいるんだ……此処か……


「魔王様、ちょっと変わってるけどいい人だから大丈夫よ!ほら……その……あの……変わってるけどいい人だから!」

「それフォローしてなくないか?」

「フォローするならもうちょっと頑張ってくれディアブロ。まあ、私がちょっと変わってるのは自分でも自覚してるから問題ないよ」

「あ、そうすか……」

「……面白い人ね」


この世界には、いよいよ変人しかいないらしい。


「ところで、君たちはどう言った理由でここに来たのかね?」

「あ、それがですね……」


俺達はこれまでの経緯を魔王に説明する。すると魔王は、少し考える素振りを見せたあと、口を開いた。


「その木って、これの事かい?」

「……!?そ、そう、これです!」


魔王の手の先に映し出されたのは、まさしくさっきまで俺達が居た所。ここに映っている今もぐんぐんと成長している。なんじゃ、こりゃ……!?


「どうやらこの木、なんか外部から力を与えられて急激に成長したみたいだね。強大な魔力を感じる」

「見た感じ、私たち下等の悪魔の数千倍って感じかな」


数千倍!?どんだけだよ!それと、もう1つ。外部から力を……?って、それってあのチート草!?……そういえばあの草も淡く光ってたな。あんなに成長する程の魔力……俺に注がれてたら耐えきれずに爆発していたんじゃねぇか?俺が。


「そうだね……この木……そうだな、とりあえず『世界樹(ユグドラシル)』とでも名付けようか」

「おお!魔王様、いつものイタ……素敵なネーミングセンス、炸裂ですね!」

「聞き逃さんぞ今の。イタいって言っただろ」

「……な、なんのことですかね~?」


君たち、仲いいね。それはそうとしてユグドラシル……ただの草は異世界最強の木になりましたってか。主人公かよ!そっちの方がよく有りそうだわ!


「あと、その木に関してもう1つ。えーっと、リヴィだっけ?」

「ええ、そうです」

「あの木、君の魔力に反応しているようだ」

「「……え?」」

「あ、それ私も思いました。なんかリヴィちゃんに近い魔力を感じるんですよねぇ」

「……どういう事かしら?」

「見たところ、君は結構強い魔力を有しているようだ。あの手の魔法の植物は、行使された強い魔力を感じ取り、それを使った者を主としその魔力に染まっていき成長すると言われている。あの辺で魔法を使ったりはしなかったかね?」


そういえば俺、あの場所で実態付与の魔法をリヴィに掛けてもらった!その魔力に反応して、あの木が成長したってことか!ってことは、リヴィはあの木の主……マスターってことで。それはつまり、俺はなんもないのに周りが何か強大な能力やステータスを持っているってことで……。うん、俺、主役向いてねぇや。モブキャラだわ。痛感した。


「それは……私が主ってことですか」

「まあ、そういうことになるな。あの木に魔力を注げば思い通りの形に成長させることもできるだろう」

「……家の形にすることもできるんですか?」

「家?出来なくもないが……何故?」

「……いえ、こちらの事情です。……レイ。」


世界樹を家の形にするって何言ってんのお前。ってことは、まさか。


「……何だ」

「今日から野宿卒業よ」

「俺、1回も野宿してないんだが」


乙黒玲、異世界生活1日目。世界樹が家になりました。ははは、なんじゃこりゃ。







「じゃあ、気をつけてね!また来てねー!」

「ん。ばいばい」

「また来るわ。世界樹ごと」

「やめとけ」


俺達は、魔王城をあとにする。もうすっかり月も登って、広場に戻ると世界樹が月の光に照らされていた。神々しいな……こんなのを家にして、バチが当たらんか?


「えーっと、魔力を注げばいいのよね……ほいさっさといそっそっと」

「なんだその掛け声……って、おぉっ!?」


その瞬間、世界樹が光り輝く。一瞬の閃光が止んだ後にあったのは、ファンタジー世界にありそうな趣のあるツリーハウスだった。


「すごっ……いかにもファンタジー」

「ふふふ、褒めてもいいのよ」

「はいはいすごいすごい」

「……ねえ、レイ」

「ん?何だ?」

「実は私、やりたいことがあるの」

「やりたいこと?」

「そう。お金が手に入るし、拠点を手に入れたらやろうと思ってたことなんだけど……」

「……商売ってことか?」

「まあ、そういう事ね」

「じゃあ、何をやりたいんだ?」

「それはね――」













俺は、鳥の鳴く声で目を覚ました。異世界での初めての朝。すごく気持ちのいい朝だ。勿論、それは朝の雰囲気が心地よかったからだけではなくて。そう、俺達の新しい仕事の始まりの日だから。


「よいしょっと。ふう、終わったわ」

「おはようリヴィ」

「あら、起きてきたのね。寝坊助さん」

「うるせぇ。その様子だと、看板の設置終わったみたいだな」

「ええ。9時からいよいよ始まりよ」

「…そうだな」


現在時刻、8時59分。そして、秒針は刻一刻と時を刻み、9時が訪れた。そして俺達は、看板に被せていた布を取り、そこに刻まれている文字を読み上げる。


「「『便利屋・トゥットファーレ』本日開店!!」」



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