44.乙黒玲、過去のお話
「くっ……まさかこんなに強いとは……」
「グハハハハハ!!貴様等に遅れをとるほどこの私は弱くはないわっ!!」
崩壊し、沈みゆく世界。この戦闘が成立するのもあと残り僅か。ネクロマンスで対抗してきたけれど、限界が近いわ……!
「もう諦めろ!この世界は酢豚に沈みゆく運命なのだ!!」
「うるさいわ、パイナップル!そんな事は、絶対にさせないんだから!」
「っていうか、酢の匂いやばっ!!なんかベトベトするし、わたしもう帰りたいんだけど!」
「吐きそうですぅ……」
「全く……だらしないわね」
ここに来るまでの数々の過激な戦闘で、ルミネはサイボーグ化、ライカは熾天使へとパワーアップを遂げたものの、疲労が重なり満足な力を出せていない。あ、レイは死んだわ。あーめん。
「ロケットパンチ出してる場合じゃないよ……ベトベト、ギトギトでなんか錆びてきてるよ……」
「熾天使パワーも……枯れ気味です……」
既に意気消沈の二人。ここは、私がやるしかないわね!因縁の酢豚パイナップル七賢者に、ネクロマンサー正義の一撃をかますのよ!
「ははは、沈め沈めぇっ!……むっ?」
「パイナップル、あなたの企みを見逃しておく訳にはいかないわ!受けなさい!正義の一撃、『重機鈍器諸々発射光線』ッ!!」
「グァァァァァァァ!!」
私が放った一撃は酢豚パイナップルに直撃、断末魔の叫び声を上げながら酢豚の中に沈んでいく!
「あ……あいるびー、ばっく…………ぐふっ」
そしてあいつは親指を立てて酢豚の海の中へと沈んでいく。それと同時に、世界を覆っていた酢豚の海が光を放ち掻き消えてゆく。それは、世界が救われていく感動のシーンだった…………
「っていう感じでお嬢様に冒険譚を語ろうと思うんだけど、どうかしら」
「「「却下!!」」」
「えー、何がいけないっていうのかしら……?」
今までの話が全部嘘だからだね!うん!何じゃその話は!そんな事微塵もなかったわ!っていうか、それよりもツッコミを入れたいのは……!
「なんで俺死んだことになってんだよ!?じゃあここにいる俺は何なんだよ!!」
「だって霊だし、死んでるようなもんじゃない」
「だからって存在まで抹消すんな!」
「わたしも何でサイボーグになってるの!?もう意味分かんないんだけど!?」
「いや、ロケットパンチ打てそうだなってイメージで……」
「イメージで人の種族まで変えないで!?」
「私は純粋なるパワーアップなので特に文句はないですー、熾天使じゃないけど熾天使って言ってもらって構わないですよー!」
「誰が言うか」
「酷いですー!?」
あぁもう滅茶苦茶だ、強制的にSANチェックが入る程無茶苦茶だ!なんでこの嘘を吐こうと思ったのか、そして何故そういう設定にしたのか小一時間位問い詰めたい!
「はぁ……リヴィちゃん、なんでそんな嘘を……」
「ふっ、今日は何の日かしら、ルミネ?」
「今日?今日は四月一日…………あっ」
「そう、エイプリルフールよ!」
この世界にもそういう概念あったんだね!それは地球にいた頃に吐かれた酷い嘘を思い出す……いやあれはもう終わった件だ、掘り返すのはよそう。それこそSANチェックが入る。
「フランクなジョークでお嬢様とのスムーズなコミュニケーションがポッシブルになるようにしようと思って」
「その意識高い系みたいなのムカつくからやめろ」
「……第一、それって無礼にあたるんじゃない?もし、そう解釈されたら…………」
「私達の大切な部分は…………ですか」
「そ、そうだったわね…………それは嫌ね…………」
思わず皆下腹部を手で隠す。あの時の恐怖は皆の中にトラウマとして刻み込まれた模様、まぁ無理もない。俺も怖い。
「…………まぁ、その件は置いといて、ですね!」
「そ、そうね!置いておくのが良いわ!」
「うん!私もそう思う!」
「激しく同意」
重苦しい空気を払うべく、ライカがコマンド『話題転換』を発動させる。この場合はおそらくそれが最善の選択肢だ、ナイスライカ!
「移動中って暇ですよね!なんかこう、爆発とか刺激的な事が起きませんかねー」
「起こすなよ?フリじゃないぞ、絶対に起こすなよ?」
「流石にここで爆発はしませんよ!?」
そう、移動中。
リヴィがアホみたいな、いやアホそのものな嘘を吐いたせいで場がカオスの嵐になっていて忘れていたものの、そういえばツヴィトーク家の屋敷へと移動中だったんだ。……うん、とらっかで。これは……無礼じゃないよな……?そんなこと言ったら格好とか既に無礼だし……いやそれはお嬢様が許してくれたからいいのか?基準が分からねぇ……
「……まぁ、そんな訳で暇なのでお話が聞きたいです!レイさんの!」
「へっ?俺?」
そんな事言われても、俺面白い話なんて出来ないぞ?今朝見たシフォンちゃんが巨大化して側転で街を破壊する夢の話位なら出来るけど……そんなの聞いても何も面白くないだろうし……。
「お屋敷には地球の方もいらっしゃるみたいなので、せっかくなのでレイさんの地球時代の話が聞きたいです!」
「あー……それか…………」
「それ、わたしも気になる。レイくんが住んでたチキュウって所がどんな所かとか、レイくんの過去とか聞いてみたいかも」
「私もよ。人の過去の話を聞くのは好きだからね、イジれるし」
「お前鬼か」
回を重ねる毎に、リヴィのゲスさも浮き彫りになってくる。ナナさん程じゃないけど。
「……でも、俺の過去話なんか聞いても面白くないだろ」
「「「面白そう」」」
おおぅ、即答。
……これは、腹くくるしかないかなぁ……
「あー、そんじゃ話すけど……何聞きたい?生い立ちとか聞いてもつまんないだろうし」
「チキュウでのお友達について聞きたいわね」
「あ、友達……そうか、友達か………………」
「何ですかその反応」
「…………ってことは、もしかして」
「あぁ、地球での俺はな…………」
「殆ど、友達いなかったんだよ」
俺の名前は乙黒玲。普通に高校に通う普通の高校生……なんだけど。
少々、俺の学生生活は変わっていてだな……その。
「ロリコンがぼっちで飯食ってる……キモ」
「あいつなんで学校来てるんだろうね、引き篭ればいいのに」
…………まぁ、こういう待遇な訳だ。
一応俺の名誉の為に説明しておくけど、俺はロリコンじゃないぞ、断じて。普通に同い年位の子がタイプだし。……ただ、学校ではロリコン扱いされて、蔑まれている。
こういう感じになってしまったのはある出来事での誤解が原因なんだが……一度広まった噂をなかったことにするのは不可能で、広まってから今までこの状態はずっと継続している。
……まぁ、俺が我慢すれば済む話だし、特に気にしていない。誤解だって自分の中で割り切れてるしな。
……そんな訳で、周りからロリコン呼ばわりされ、友達も碌にいない俺だが、話しかけてくれる奇特な奴はいるもので……
「ねぇ、乙黒」
「……どうした?」
それが、こいつだ。
「あんたの隣の席、空いてるよね」
「まぁな。俺の隣で飯食いたがる奴なんていないし」
「……じゃあ、隣座らせてもらうわよ。別にあんたと一緒にご飯食べたいわけじゃないんだからね」
「はいはい、分かったよ、飯伏」
飯伏六花。俺の同級生で、顔立ちも整った人気の出そうな女子なんだが、何故か俺にちょくちょく話しかけてくる。そのせいで、女子からは煙たがられて、男子からは変な噂を流されてしまっている。本当、何で俺みたいな奴に関わってくれるんだろうな……万に一つも良い事なんてないのに。
あ、さっき話しかけてくる奇特な奴がいるっていったが、それは飯伏だけじゃない。もう一人、話しかけてくれる人がいる。
「へいへいはなちゃ~ん、乙女の花園から帰還したぜ~……って、おやぁ?おやおやおやぁ?二人でラブラブ♥お食事タイムかはなちゃん!?」
「断じて違うからね!それ以上言ったら叩くわよ、きいろ!!」
「じょ~だんじょ~だん。あはは、はなちゃん顔真っ赤~」
「う、うるさいわね!顔赤くなんか、ないんだからね!!」
「はいは~い、分かった分かった。それで、あたしも一緒にご飯食べていいかい乙黒くん?」
「別にいいけど……俺の近くで飯食うの嫌じゃないか?阿久津」
「もし嫌だったら速攻ではなちゃん引っ張ってこの場から立ち去ってるよ~。だから全然、気にしなくて大丈夫だよ」
「そうか」
阿久津きいろ。飯伏と常に一緒にいる、彼女の親友的な感じの人。こいつ、いっつもぽわぽわしてて何考えてるか分かんないんだよな……。でも、関わってきて分かったけど意外と頭切れるんだよな、阿久津。敵に回したくないタイプの人間だと思う。
学校でまともに話しかけてくれる人はこの二人位だ。……でも何で、この二人は俺なんかに話しかけて来てくれるんだろうな…………慈善事業?
「なぁ、阿久津」
「いつもクッキーって呼んでっていってるじゃ~ん。それで、何~?」
ちなみに阿久津はあくつきいろから取ってクッキーとクラスメイトには呼ばれている。女子をあだ名呼びとかハードル高すぎて俺には到底無理だけどな。
「いや、いつも何かと俺に話しかけてくれるけど、それで変な噂とか流されて……嫌な思いしてないかなって」
「そんな事ない!!」
「い、飯伏?」
飯伏は突然立ち上がると、力強く否定の言葉を口にする。周囲の注目を浴びながらも、そんなの気にしないと言った風に口を開く。
「あんたがロリコン呼ばわりされてるの、誤解だって知ってるから。分かってるから。嫌な思いなんて全然してない。むしろ、あんたと話せてうれし……………………いや、なんでもない」
飯伏はそこまで力強く言った後、何故か急激に声が小さくなり、最後の方の言葉は殆ど聞き取れなかった。あんたと話せて何だって言ってたんだ?
「んふー、んふふふふ」
「ちょっときいろ、止めてよ……こっち、見ないで」
「あーもう、はなちゃん可愛い!天使!そして乙黒くん、良かったね。はなちゃん乙黒くんと話せてうれ」
「わーっ!わーっ!!何でもない!何でもないからね!!分かった!?」
「お、おう」
凄い剣幕に押され、これ以上のこの話題の進行が困難になる。まぁ、本人が嫌がってるし、この話を続ける理由も特にないし、別にいいかな。
とまぁ、こんな感じで俺の地球での学生生活は送られていた。
「ざっとこんなもんかな」
「なるほどなるほど~、レイさん、向こうで色々あったんですね~」
「なるほど。レイはロリコン、と」
「お前俺の話の何聞いてたんだよ!?」
それ誤解だって説明したよね、リヴィさん!?んんん!?
「ふーん……そんなお知り合いがいたんだねー、へー」
「ど、どうしたルミネ」
「いや別に?何でもないよ。うん、何でもない。何でもないから」
「だったらそのジト目を止めてくれ……」
ルミネは目を細め、じー、という音が聞こえてきそうな程のジト目でこっちを見てくる。何が……?今の話のどこにルミネの琴線に触れる話が……!?
「それより、そろそろ着くわよ」
「あ、そうなの?結構早かったな」
「そうだね~ネイブ行った時よりは短いね~」
「本当にどうしたルミネ…………」
「……じゃあ、あれがツヴィトーク家のお屋敷です?」
「へ?もう見えてるの?」
「横です」
「横?」
横と言っても、隣に壁しか…………ん?いや違う、これ塀だ!巨大な塀だぞ、これ!ということは……
「……こ、この塀が囲んでる所全部お屋敷?」
「……そうみたいね」
「……だとしたら、これ……」
「あぁ……この屋敷……」
「「「「予想以上にでかーっ!?」」」」
目的地のツヴィトーク家の屋敷は、予想以上にデカかった!えっこれ、本当にラフな格好で大丈夫だったの!?




