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異世界便利屋、トゥットファーレ!  作者: 牛酪
二章.建築業者系アルケミスト、始めました
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38.幼き勇者の決意

~遡ること一時間前~


「かくれんぼー、かくれんぼー♪」


シフォンは、フェルとかくれんぼをして遊んでいた。


魔王城に来てから数日が経過し、彼女はすっかり魔王城の住民とも打ち解け、楽しい魔王体験生活をしていたのだ。


「フェルちゃんに見つからないように、頑張って隠れるぞ!おー!」


これまで何回もフェルと遊びで対決してきたが、シフォンの戦績は二十六戦二十四敗二分。そう、一回も勝てていないのだ。


フェルは鬼ごっこをすれば悪魔パワー全開の凄まじい速度で走りフェルを捕まえ、トランプをすれば悪魔的な駆け引きで勝利をもぎ取る。つまり、非常に大人気ない。フェルは極度の負けず嫌いなのだ。


そんなフェルと戦う度、こちらも負けず嫌いのシフォンは次こそは絶対勝つ!とどんどん気合を入れて戦うようになった。実際二回引き分けに終わらせられたこともあり、シフォンのやる気と勝負への情熱は燃え上がる一方だった。


…………それが原因で、騒動に巻き込まれるとは知らずに。


「でも、どこにかくれたらフェルちゃんに見つからないんだろう……」


シフォンは思考を巡らせる。今日まで、魔王城の様々な所を見て回った。隠れるのに適した場所……。キッチン?それとも押し入れ?はたまた玉座の裏?


……いや、駄目だ。そんな所、すぐに見つかってしまう。


シフォンの頭の中に幾つもの隠れられそうな場所がよぎり、だが消えてゆく。考えている間にも、時間が刻一刻と迫りゆく。今回のかくれんぼは五分経過したら鬼が探し始めるというルールなのだ、あまり時間は残されていない。


「……うーん、どうしよう~……」


シフォンは頭を抱え、更に考える。けれども、一向にいい案は浮かんでこない。もうそろそろ四分が経過しようとしている、もう駄目かも……。


……と、思ったその時。


「……あっ!そうだ!」


シフォンは思い出した。一箇所だけ、自分がまだ行ったことがない場所があることを。それは…………。


「ここに確か、地下への階段が……あった!ここなら見つからないかも!」


この階段の存在自体は前から知っていた。見つけた時に、「ディアブロおねーちゃん、これなぁに?」と聞いてみたものの、「うーん、シフォンちゃんにはまだ早いかなぁ、ここは」とはぐらかされてしまったことをよく覚えている。それ以来そこのことはすっかり忘れていたが、思い出すと俄然興味が湧いてきた。隠れられそうな場所ともあって、シフォンの好奇心は急激に増大し、地下がどんな所か見て回るとともに隠れることを決めたのだ。


「ふっふっふっ、今度こそ、フェルちゃんに勝っちゃうんだからね!」


そう言って、シフォンは地下への階段を下る。魔王城一階とは明らかに異なる雰囲気。だがそんなものはフェルに勝つことで頭がいっぱいのシフォンにとっては眼中に無く、ただ足音を響かせながら階段を降りていく。そして……。


「わぁ、おっきい扉……」


封印解除用ルームに辿り着く。本来なら、扉に書かれている『重要施設封印解除用ルーム』という文を見て入ることを躊躇うような場所なのだが、幼いシフォンにはそんな難しい漢字が読めるはずもなく、何の警戒も無しにそのまま扉を開けて入ってしまう。


「物がいっぱい……!やっぱりここなら、フェルちゃんに見つからないかも!!よーし、いけるぞー!」


いくつもの積んである魔術用の道具の山から、隠れるのに適した場所を探し、扉から見た死角に隠れる。そしてちょうど、五分が経過した。フェルの捜索の始動だ。


「ドアとかもちゃんと元通りに戻してここに来たから、見つからないはずだよ。ふっふっふ、今日こそフェルちゃんを打ち負かすぞー!」


シフォンはそう叫ぶ。だがしかし、シフォンは直ぐに外で鳴る物音に気づく。コツ、コツという靴の足音。直ぐにシフォンは一つの可能性に行き着く。


(まさか、もうバレたの!?は、早過ぎるよぉ!?)


そして、ガチャリと音を立ててドアが開く。死角から覗き込むと、そこには……。


「それじゃ、ご開帳~。ささ、入って入って」


……フェルではなく、ディアブロと便利屋の四人が居た。


(な、なんだ……おねーちゃんたちとおにーちゃんかぁ……とりあえず、良かったぁ……)


シフォンは安堵の息を吐く。ひとまず、最悪の事態は回避出来たのだ、安心から緊張から一気に力が抜ける。


「じゃあ、封印解くよ。マジックアイテム、貸してちょーだい」

「はいですー」


だが、力を抜きすぎた。その場にへなへなと崩れるように倒れた結果、シフォンはその手を魔術用の道具の山に当ててしまう。結果、微小だがハッキリとした物音が立った。


「では、早速…………む?」

「どうしたのディアブロさん?」

「いや、なんか今物音がしたような……?」

(き、気づかれた……!?)


一瞬にしてシフォンに緊張が戻る。口に手を当て、息の音を抑え、微動だにせすやり過ごそうとする。


「……私は何も聞こえなかったけれど……気の所為じゃないかしら?」

「うーん……まぁ、そうか。気にしない方面で行こう。あ、ドア閉めて」

「了解したわ」

(………………バレてない、よね……?)


どうやら間一髪危機を乗り切ったらしい、再びシフォンに安心が戻る。しかし、今度は慢心せず、動かない。じっと、皆がこの部屋から出ていくのを待ち続ける。


そうして大分落ち着きを取り戻すと、シフォンの中にある一つの疑問が生まれた。


(おねーちゃんたち、ふーいん?を解くって言ってたよね……なんの事だろ)


シフォンは、その言葉の意味を知らない。知らないが、何やら嫌な感覚が背を伝う。それは、子供の豊かな感性が敏感に感じ取った邪悪な気配だったのだろう、だがしかし彼女にそんなことを知る由もない。結果……


「それじゃ、始めるよ。……おお、神よ……。その御力で、閉ざされし封印の扉を開き、力を解き放ち給え!」

「隠されし力、今こそ発揮する時!『封印解除』っ!!」


……邪悪な怪物は、封印から解き放たれることとなった。


「……なに、これ」

「う……嘘ですよね?だ、だって、これ……」

「……くケケ、よク俺を封印から覚まシてクレたな、雑種どモ」

(……えっ……!?な、何……!?何なの……!?)


その怪物の放つ邪悪なオーラに、シフォンはただただ圧倒される。恐怖で足はすくみ、声が出せなくなる。シフォンは、便利屋メンバーや姉たちのように七賢者との戦いを経験した訳ではない。それどころか、戦闘すら今まで経験したことのない、ただのどこにでも居る少女なのだ。


……そんな少女が、手練の冒険者さえも震え上がらせるというベノムの邪悪なオーラを前にして普通を保っていられる訳は無かった。


シフォンは一歩も動けず、かと言って声を出すことも出来ず、物陰に隠れ続ける。その間にも、自分の大好きな便利屋の皆とディアブロはどんどん痛めつけられていく。拘束され、呪いを受け、苦しみ……。


どうにか裏をかいて立ち回ろうとしても、絶対的な戦力差がそれを許さない。そしてまた、追い詰められ、嬲られ……。


(おねーちゃん……おにーちゃん……う……ううっ……ぐすっ……ひっく、ぐすっ……)


そんな光景をただ見ることしか出来ないシフォン。遂に耐えることが出来なくなり、涙が零れる。皆が死ぬかもしれないことを考えると、涙は更に勢いを増す。嗚咽を必死に殺すも、目から溢れ出る涙は

止まることを知らない。精神はもうとっくに瓦解していた。


彼女に出来ることは、ただ祈ることだけ。どうか、どうかこの悪夢のような時間が早く終わりますように。誰一人死ぬことなく、あの怪物を倒せますように……。それしか、彼女に出来ることはなかった。


そして…………。


「……終わりダ、口程にモなかっタな」

「くっ……ま、まだ、終わった訳じゃ……」

「強がっテも無駄ダ、さテ……トドメを刺スとしよウ」


…………遂に、シフォンが最も恐れていた瞬間がやって来てしまった。


(あぁ、駄目……そんなの、見てられない……見られないよ……)


大好きなおにーちゃんが、死ぬ。それは最早覆ることのないものだと知った時、彼女の精神は遂に限界を迎える。そして、凄惨な光景を見ないための自己防衛反応として、意識を手放そうとして…………


…………だがしかし、意識が途切れる直前、ある人物の言葉が脳裏をよぎった。


『ねぇしーちゃん、これだけは覚えておいて。いつか、しーちゃんの大切な人が危険に晒されるときがあるかもしれない。その時、自分じゃどうしようも出来ないって思っても、まずは行動してみて。何も出来ず目の前で大切な人を失うのは、とても辛いことだから……。だから、まずは行動してみて。それでも駄目だったら、わたしが助けに行くから。絶対、助けに行くから』


……それは、いつか親友が送ってくれた言葉だった。


(まずは……行動……)


シフォンは頭を巡らせる。今まで自分は、恐怖に打ち勝つことが出来ず何も出来なかった。その結果、大切な人を失おうとしている……。意識を手放し死ぬ所を見ないようにして、保身だけを考えて……。


(……何も出来ずに、おにーちゃんを失う……)


シフォンは、便利屋との楽しい思い出を思い出す。一緒に遊んでもらったこと、一緒にご飯を食べたこと、いっぱいお話ししたこと……。


……そういったことが、もう二度と出来なくなるなんて。そんなこと……


(そんなこと…………絶対にイヤだ!!)


そしてシフォンは物陰から飛び出す。恐怖が無くなった訳では無い、今でも足はガクガクと震えているし、涙だって止まることは無い。それでも、シフォンは止めない。大切な人を守るため、自分は何も出来なかったと後悔しないため。


そして、ベノムに向かって言い放つ。


「おにーちゃんとおねーちゃん達に手を出すのなら、わたしが許さない!わたしが……()()()()が、相手になるよ!!」


今ここに、幼き勇者が誕生した。

一週間毎日投稿期間中に、二章完結しませんでした。計画性の無さの露呈……。キリが悪いので、完結までは毎日投稿継続します。という訳で、次回は明日更新です。

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