4.ギルドでも一悶着
結構日数が空いてしまいました。すみません。それでは、第4話、始まります。
「ふんふんふーん、ふふふーん、ふーん」
上機嫌そうに鼻歌を歌うリヴィの運転するとらっかに乗り、俺達は街の外に出る。そこに広がっていたのは、見渡す限りの大自然、開放感のある平原だった。
「着いたわ。ここは、ナチュレ平原って場所よ」
「おぉ……すげえ……って、そうじゃない。ここで、モンスターを倒してお金稼ぎするんだよな?」
「そうね、えーと、この辺にモンスターは……あ、いいのがいるわ。レイ、ちょっと左の方を見て」
「左?……あ、なんかいるな」
左を見てみると、そこにはドラ○もんが白目剥いて倒れそうなほど大きなネズミがいた。……あのネズミ、2mはあるんじゃないか?
「あれはグロスマウスっていう魔物ね。大体群れて行動するのだけれど、たまに2、3匹でいることがあるわ。図体はでかいけれど、そんなに強くないし、肉が美味しいから結構いい値段で売れるのよ」
「ってことは、カモってことか」
「そういうことね」
思い返せば、この世界に来て、マトモなファンタジーらしい出来事なんてひとつもなかった。しかし、苦節数時間、カオスな出来事の果てに遂に戦闘!よし!憑依の練習も兼ねて、やるか!
「よし!戦闘か!じゃあ、トラックから降りて……」
「その必要はないわ」
「え?それってどういう……」
「いくわよ、とらっかちゃん」
『はいです!』
そう言うととらっかはますますスピードを増して……増して……まさか!?
「『死霊強化』ッ!!」
『みなぎってきたですー!』
そう唱えると同時に、紫色の光がとらっかを包み込み、そのまま勢いを増幅させて……
…………グロスマウスを、轢いた。
「グギィィィィ!?」
「とらっかちゃん、まだまだいくわよ!」
『はいです!それそれそれー!です!』
……それも、何回も。グロスマウスは悲鳴をあげるが、2人は攻撃をやめない。悲鳴をかき消すかのような生々しい音が辺りに響く。とらっかに衝撃が伝わり、中にいた俺は身体を揺さぶられる。咄嗟に目を瞑った。そして、全てが止み、静まり返ったあと、目を開けると、無惨にも肉片と化したグロスマウスがそこにいた。
……いや、おかしいだろ。
「……おいリヴィ、今のって何だよ」
「?何って言われても……普通に、ネクロマンサーとして敵を倒しただけよ」
「いやいやいやいや!あれがネクロマンサーとしての戦い方か!?ネクロマンサーってあれだろ、霊を操って華麗に優雅にモンスターを倒す職業だろ!?あれじゃ単なる暴走運転じゃねぇか!!」
「……世の中には、たくさんのネクロマンサーがいるわ。トラックを操るネクロマンサーがいてもおかしくないはずよ」
「おかしいわ!そりゃ、ネクロマンサーじゃなくて運転手だわ!!」
「……これまで仲間にしてほしいって伝えた人達、この戦い方を見た瞬間『その力、僕たちにはもったいないですよ!もっと相応しい方達がいるはずです!』って青白い顔で言ってみんなパーティ加入を断ったのよね。何故かしら……」
原因は明確だよ。トラックを乗りこなすだけじゃ飽き足らず、トラックでモンスターを轢き殺すネクロマンサーなんて、普通は引くわ。俺も引いてる。
「まあ、倒したんだからいいじゃない」
「……それもそうか……いや、いいのか?」
なんか段々変なことに巻き込まれすぎて感覚が麻痺してきた気がする。もう、深く考えないようにしよう。これ以上毒されたらたまらない。
『レイさん、どんな手を使おうが、最終的に勝てばよかろうなのです』
「とらっかちゃんの言う通りだわ。じゃあ早速冒険者ギルドに行きましょう」
「……そうだな」
とらっか、お前は何故そのネタを知っている。あれか、カ○ズってか。車だけに。
まあ何はともあれ、俺達はマウスだったものを荷台に乗せて、街に戻る。リヴィの案内で着いた先、そこは勿論……
「ここが、冒険者ギルド……!」
そう。冒険者ギルドだ。ここに来れば、俺だって冒険者になれ、仲間もできる……はず。……今までの経験からして、不安しかないけど。
「それじゃあ、中に入りましょう」
リヴィはうさぎのぬいぐるみを取り出し、何かの呪文を唱える。すると、とらっかはぬいぐるみの中に吸い込まれて、いなくなった。そのぬいぐるみ、便利だな。
「失礼するわ」
「あっ!ようこそ冒険者ギルドへ!……って、貴女はこの前の!?」
……俺達がギルドに入ると、受付にいたお姉さんが挨拶をした。整った容姿をした、綺麗な人だった。が、リヴィの顔を見た瞬間、滅茶苦茶渋い顔をする。……こいつ、ギルドでも何かやらかしてたのか……
「大丈夫よ、今回はちゃんと、モンスター討伐を報告しに来ただけだから」
「本当ですね?もう二度と、冒険者登録料が払えないからってギルドの中でトラック乗り回したりしませんね?」
「ええ、しないわ」
「……何やってんだよお前、ここでトラック乗り回すとか滅茶苦茶じゃねぇか」
「……ムシャクシャしてやった、後悔はしていない」
「しろよ」
「はぁ……それで、討伐したモンスターは何処ですか?」
「ここよ」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
「うわっ!グロっ!!」
リヴィが合図をすると、うさぎの中から綺麗にネズミ肉だけ取り出した。それだけだったらいいんだが、問題はその絵面。うさぎの腹が裂け、血塗れの肉が飛び出して来るというSAN値直葬ものの光景だった。は、吐きそう……
「どうしたの?」
「ど、どうしたもこうしたもありませんよ……こんな気持ち悪いものを持ってくるなんて……」
「普通のネズミ肉じゃない」
「うさちゃんの裂けたお腹から飛び出してくるミンチになったネズミ肉のどこが普通なんですか!?頭おかしいんじゃないですか!?」
俺も同感。こんなグロいもの、人前にさらけ出すリヴィの気が知れない。見ろ、周りドン引きだぞ。どうすんだよこの状況。もう俺が収拾をつけるしかないじゃん。ったく……
「あの……すみません。うちの馬鹿が迷惑かけて。大丈夫ですか?」
「……貴方は、あの人のお仲間ですか?」
「はい、そうです。乙黒玲って言います。あの、さっきのネズミ肉と交換するお金で冒険者登録をしたいんですが」
「……貴方は話が通じそうですね。申し遅れましたが、私は受付担当のコルネと申します。よろしくお願いします。えーっと、冒険者としての登録ですよね?……リヴィさんも一緒に。」
「そうよ」
「えーと、じゃあちょっと待っててください……はい、出来ました。これが、貴方達の冒険者カードです」
「冒険者カード……」
そこには、俺の名前、職業、ステータスが記されていた。えーっとなになに……職業は一般職……一般職!?
「あの、この一般職って」
「あれ、ご存知ないですか?冒険者なりたてでも就ける職業、それが一般職です。特に秀でた能力はないですが、その代わり様々な能力を使うことができますよ」
「つまり器用貧乏……」
「言うな!俺もそう思ったけど、言うなよ!」
「だ、大丈夫ですよレイさん!一般職の方でも一流冒険者として活躍している人もいますから!」
「それはほんのひと握りで、レイがなれるとは」
「お前はもう黙っとれ!!」
「ほう。やる気ね。受けて立つわ」
「ちょっと二人とも!?ちょっ、暴れないでください!暴れないでくださいってばー!!」
この後、不毛な言い争いが発生。そして、言い争いの果てにリヴィがトラックを召喚し、すぐさま責任者が降臨。勿論、たっぷり叱られた。……コルネさんも一緒に。……なんか、巻き込んですいません……
日が沈む頃、俺達は冒険者ギルドを出た。いや、追い出されたと言った方が正しい。まあ当たり前だな。あ、ちなみに、リヴィの職業は勿論ネクロマンサーだった。ここで運転手とか出てきたら思いっきり笑ってやったのに。
「ところで、この後どうすんだ?寝床とか」
「勿論野宿よ。お金が無いもの」
「ですよねー」
ギルドの登録料が意外とお高く、稼いだ分が全て持ってかれた。つまり、1文無し。懐が寒いってレベルじゃない、懐が絶対零度。
「んで、野宿ってどこで?」
「私とレイが初めて会った所よ。あそこ、結構涼しくて寝やすいのよ」
流石赤貧のネクロマンサー、実体験に基づいていて非常に説得力がある。んじゃ、そこに向かうとしますか。確かそこの路地を抜けてっと……着いたぞ。って……
「「……………………え?」」
俺達が初めて出会ったその草地。そこには、枝を張り巡らせ淡く光り輝く巨大な木があった。昼はあんなの無かったよな。一体、何なんだこれは……?
「……これって、何かしら」
「……すまん、分からん」
「……そう。どうしましょう、この木邪魔で寝るスペースないわ……」
そこかよ。普通、これが何かっていうのに興味を示すだろ。なんで寝ることが優先なんだ。
「寝られないのは困るわ。何とかしないと……こういう時は、『あの人』に聞いてみるのが一番ね」
「『あの人』……?」
「そう。膨大な知識を持つ、あの人よ。さぁ、行きましょう」
「え?ちょっ、おい、行くって何処へ」
「そんなの決まっているじゃない。勿論……」
「魔王に会いに、魔王城に行くのよ」
リヴィの口から飛び出してきたのは、衝撃的な一言だった。
今回の新キャラは苦労人ギルド職員、コルネさんでした。次回も新キャラ出ます。際限なく増えていく新キャラ、乞うご期待。