31.安心と信頼のストロンガー・プロダクト
前に宣言した一週間毎日投稿、しっかりやります。有言実行です。それでは、始まります。
「えへへ、おにーちゃん、やっと見つけた!」
「………………」
「わたしだよわたし、覚えてないの?もう、おにーちゃんったらぁ」
「………………」
「でも大丈夫!やっと兄妹再開出来たから、そこの女は置いておいてわたしとおにーちゃんで幸せに」
「ルミネ」
「『撲滅拳』ッ!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「……撲滅拳、相手は死ぬ、だよ」
……洞窟内で出会った幼女。……見てもらえば分かるように、我々は俺との再開?を喜ぶいたいけな幼女を2の16乗-1のパワーでぶん殴っている訳でして。
……いや勿論理由もなくやったわけじゃないよ?それ犯罪だし。そんな罪を犯す度胸もないからね。
……じゃあ、どういうことかって言うと……。
「……クソっ……魅了して傀儡にしてあげようと思ったのに……何という力……ゴリラめ……ぐふっ」
「ゴリラじゃないよ失礼な!!」
「あのルミネさん、モンスターとは言え死体に更に蹴り入れるのはどうかと」
そう、あの幼女はモンスターだったとさ。
まぁ、こんな洞窟に幼女がいること自体おかしいから流石に分かった。
「ふーっ、ふーっ……ごめん、取り乱した」
「……お、お疲れ様です」
恐らく擬態魔法でも掛けていたのだろう、そこに転がっていた死体は先程の幼女とは違う醜悪なゴブリンみたいな生き物だったが……これ、幼女のまま死滅してたら絵面やばかったよな。滅茶苦茶ルミネ蹴り入れて見るも無残な姿になってるし。
「でもさ、一つ言っていい?」
「いいぞ、多分俺も同じこと思ってるから」
「じゃあ、せーので言おう」
「せーの」
「「この洞窟魅了魔法使うやつしかいないじゃんどうなってんの!?」」
そう、そうなんだよ。
この洞窟に入ってから遭遇したモンスターが十六体いたんだけど、その内ナイスバディのお姉さんの姿をしたモンスターが7体、イケメンが4体、少女が2体、幼女が3体。あ、ちなみに甲殻類キメラはお姉さん系統に分類してる。
……この洞窟の趣味の悪さが伺える。戦法が嫌らしすぎることこの上なさすぎるだろ……。
「なんかもうわたし、人の姿をしたやつをぶん殴るのに何も感じなくなってきた……」
「俺もその光景を見ても心が痛まなくなってきたぞ」
……慣れって、怖いね。
人を沢山殺した大罪人って、こんな気分なんだろうか……。
……え?なんで人の姿をしてるやつをモンスターだと判別できるかって?それは……
「む、何か来るよ。あっちの角から」
「どれどれ……あ、ほんとだ、影が見える」
「ぐすっ……ぐすっ……」
都合よくちょうどいい実例が来たな。こいつで実演しますか。
「あっ……ひ、人だ!良かった……本当に良かった……怖かったよぉ……そこのお兄さん!助けてくださ――」
「Hey st、あいつモンスター?」
『まもの』
「よしルミネ」
「『フェルコン・パンチ』ッ!!」
「きゃぁぁぁぁぁ!?」
そう、俺達にはモンスターを判別してくれる頼れるアシスタントAI、stというものがあるのだ。もう言わなくても分かると思うけど、stってのはstrongのst、つまり制作著作ストロンガーさん。
甲殻類キメラに遭遇したあと、なんとなくベルを鳴らしてみたらこんなものをくれた。本当にストロンガーさん様様だ。俺は何一つチート能力を持たずにこの世界に降り立ったわけだけど、ストロンガーさんと知り合えたことがもうチートだよねこれ。チート能力『困った時の勇者頼み』。
「でもこれ本当に便利だよね……ストロンガーさん本当に何者なの……?」
「チートだっていいじゃないか、ストロンガーさんだもの」
「なにそれ」
というわけで、モンスターの数こそ多いものの、Hey st→まもの→撲殺の流れで結構下の階層まで潜ってこれた。今多分……十階層分位まで潜ったんじゃないかな?
……思えば俺、何もしてない。
この前冒険者カードを確認した時もステータスがそんなに上がってなかったし、これはもうレベリングするしかないのか……?現実、他人に任せてイージーモードとはいかないらしい。ストロンガーさん?あー、あれは……チートモードでしょ、やっぱり。
「むむっ?」
「今度はどうした?」
「何か強い魔力的なものを感じる、強いモンスターがいるのかもしれないよ」
「ってことは……ボス?」
「かも。マジックアイテムそこにあるかもね」
「でもなぁ……今までのモンスターの傾向を顧みると……」
「魅了系の可能性が高いね……強いモンスターの魅了は面倒なんだよなぁ……」
……嫌らしい特技を使うボス戦ってのは、ゲームでも気が乗らないものだけど、現実はもっと気が乗らないものなんだなぁ……。
「まぁとりあえず倒さなきゃいけないことに変わりはないし、行こうか」
「そうだね」
俺達は洞窟のさらに奥へと進んでいく。数百メートル歩くと、見えてきたのは……
「……ボスの部屋だ」
「ボスの部屋だね」
「「わかりやすっ」」
……そこにあったのは、ご丁寧に「ボスの部屋~ノックして入ってね~」と書いてある扉だった。ここまで来ると罠なんじゃないかと疑ってしまうが、他に道はない。来た道も分岐点は無かったし、ここに入るしかないみたいだ。何か嫌だな。
「それじゃ、入ろうか」
「ノック忘れるなよ、何が起こるか分からないし」
「あっそうか。それじゃあ……」
そう言ってルミネはノックのため拳を強く握り締め腕をぐっと引いて……ん?おかしくね?それノックじゃなくて……
「失礼しますっ!!」
「正拳突きー!?」
バキッゴキッ!!
コンコンじゃすまないような威力で放たれた拳は、そんな音を立ててドアを木っ端微塵に吹き飛ばしましたとさ。
……これで良かったの!?なんか修理代要求されたりしない!?
「は、はへー……ドア吹っ飛ばして来るとは思わなかったです……何なんですかあんたら……」
「あんたがボス!?」
「そ、そうですけど」
「そうか!よーし、ぶっ飛ばす!!」
「ちょ、ちょっと待って心の準備が……って危なー!?なにこいつなにこいつ!?こんなのが来るなんて聞いてないですよ!?」
ルミネさん、落ち着いてください。ボスが困惑してます。
……えーっと、それはまぁ置いておくとして……とりあえずボスがどんなやつか確認しなければ!
「『撲滅拳』!『撲滅拳』!『撲滅拳』っ!!」
「大技しか出せない格ゲー初心者かなんかですかあんた!?ちょっと面白いですよって危ねぇ!『シールド』っ!」
「ちっ、防がれたっ!」
「ボスの名乗り口上を聞くのは冒険者として最低限のマナーです!そこで大人しく聞いといてください!!」
見た目は普通の人間の女性。しかし、身にまとったオーラや周りに展開している魔法陣、持っている禍々しい感じの杖がボスっぽさを全力で演出する。……ただ、思うように事を進められていないところと敬語と格ゲーやボスの名乗り口上などの世俗的な発言がなんかうちのアホと被っていまいち緊張感がないんだよなぁ……。
「全く……話には聞いていたものの、便利屋の連中がここまで野蛮だったとは思わなかったです」
…………え?
「……俺達のこと、知ってるのか?」
「え?あぁ、知ってますよぉ。何たって私……」
「……私……?」
何だか嫌な予感がする。もしかして、こいつ……
「七賢者ですから。私の名前はウィークネス、以後お見知り置きを~」
やっぱりそうだった!!っていうか七賢者なのにウィークネスって、どういうこと!?




