99.誘われるは少女と精霊
【数十分前、六花視点】
「ねぇはなちゃん、はなちゃんはどの辺を見回る予定?」
きいろがあたしに話しかける。
「そうね…………まずフリルのお見舞いに行こうかなと。あの子、大分症状が重いみたいだし…………顔を出すだけでも精神的に楽になるからって」
「はなちゃんやっさし~!慈愛の女神~」
「ちょ、やめなさいよきいろ!くっつくな!」
全くもう…………きいろは地球にいた時からずっとこう。鬱陶しくもあるけど…………やっぱり、いつも普段通りのきいろを見ていると落ち着ける。それを見越して振舞ってるのかな。
「でも複数人で行って迷惑かけるのもあれだしね~。今回ははなちゃん一人で行ってきてね」
こういう細かな気遣い、あたしには出来ないから頭が下がる…………。いつもありがとね、きいろ。
「それじゃ、行ってくるわ」
◆◆◆
フリルから聞いていた彼女の自宅を訪ねる。こぢんまりとしたファンシーな見た目の家。流石、妖精…………。
「おじゃまします」
ボビンに事情を話してもらった合鍵で、中へ。そこに居たのは…………
「けほっ、けほっ…………ハナさん、でち…………か…………?」
…………見るに堪えない程、衰弱したフリルだった。
「ちょっ、フリルあんた大丈夫なの!?」
「へ、平気…………でも、ないかも…………でち…………あは、あはは…………」
そう絞り出すフリルの顔は、本当に辛そうで。見てるだけで、目から涙が零れ落ちそうな…………いや、もう零れてる。こんな、こんなになって…………。
「ふ、フリル…………」
「泣かないでくだち…………ハナさんは何も悪くないでちよ…………」
「そんなの…………無理よ、無理に決まってるじゃない!」
友達の弱った、今にも死にそうな程弱りきった姿を見て…………平気でいられる奴なんているわけない!これも全て、七賢者の…………!
「でも、涙だけは拭いて欲しいでち…………ごぼっ、がはっ!」
「フリル!?大丈夫…………っ!?」
激しく咳き込んだフリル。でも、吐き出したのは唾なんて生易しいものじゃなかった。
…………吐いたのは、布団が赤く染まる程の血だったの。
「これ、まずいわよね!?今すぐ病院に!」
救急車の呼び方も分からないし、呼んでも多分すぐ来れない!だったら、私が病院に連れていかなくちゃ!
あたしはフリルを抱え、家を飛び出す。早く、早く病院に!
「大丈夫よフリル、あたしがすぐ病院に…………病院に…………」
そこまで言って、頭が真っ白になる。
…………あたし、ここの病院の場所なんて知らない!どうしようどうしよう!とりあえず、周りの人に…………!
そしてまた、凍りつく。度重なるテトラの襲撃で、みんな閉じこもってるから、誰もいない!道も聞けない!
「ど、どうすれば…………このまま寝かしておいても絶対ダメだよね!?」
力ないあたしはただオロオロする事しか出来ない。考えろ、考えるんだあたし…………!何か、何かいい案は…………!?
「って、あれ、玲!?」
道の先に見つけたのは玲。間違いない、ずっと後ろ姿を見てきたんだ、あれは絶対に玲だ!あたしが知らなくても、玲なら病院の場所を知ってるかもしれない!
「おーい、玲!…………ダメだ、聞こえてないっぽい!」
手を振って大声で呼びかけるも、こっちに気付いた様子はない。遠すぎて聞こえないか…………!って、路地裏に入ったわよあいつ!?見失ったら大変、追いかけないと!
フリルを抱え、必死に走る。あとちょっと、あとちょっとで玲と合流出来るからね!それまで頑張って!
「はぁ…………はぁ…………着い…………!?」
曲がり角に差し掛かり、路地裏へ足を踏み入れる。そこで見たものは…………
…………地面に空いた巨大な穴に飛び込む玲だった。
「はぁ!?ちょっ、玲!?大丈夫!?玲!?」
慌てて穴を覗き込むも、見えるのはひたすらに広がる暗闇。底がどれだけ深いのかは分からないが、浅くない事は確かだ。そんな、これって…………!?
いやでも、アイツは投身自殺なんて図るキャラじゃないし、そもそもそこまで思い詰めるほどの性格じゃない…………はず。だよね?だったら…………この先に、何かがあるって事…………?
「うぅ…………」
「フリル!?大丈夫!?…………って、え?」
フリルの身体が突然宙へ浮く。何かの魔法?だとしても、一体誰が?何のために?
ふわふわと空中を漂ったフリル。そして、おもむろに…………
「ちょっ!?」
穴の中へ吸い込まれる!?
思わず手が伸びる。そしてフリルをキャッチ…………したは、いいものの。
あたしごと、大穴へと落ちていった。
【現在 玲視点】
「おい、ただの人間が落ちてくるぞ!?ど、どういう事だ!?」
コレッタが驚きの声を上げるのも無理はない。だって、落っこちて来たのは…………
「六花!フリル!」
俺のよく知る、死者でも幽霊でも何でもない生きてるやつらだったんだから。
「え、こいつらあんたの知り合い!?」
「あぁ!俺と同じ異世界から来た六花と花の精霊のフリルだ!」
「てことは、人間と花の精霊!?マジで!?」
驚きを隠せない様子のコレッタはひとまず置いておいて、六花とフリルの元へ駆け寄る。
「二人とも、大丈夫か!?」
「うぅ…………その声は、玲?…………玲なの?」
「あぁ、俺だ!二人はどうして!?」
うつ伏せになっていた六花は、俺の呼びかけで目を覚ましたらしい。少しずつ目が開いていき、そして顔がみるみるうちに青くなり…………って、どうしたんだ!?
「玲!大変なの!フリルが…………フリルが…………!」
その口ぶりからするに、多分容態の悪化か!?どうしよう、ここ死者の世界だし治療施設とか多分無いぞ!
「うぅ…………ぅん」
気絶していた様子のフリルが目を覚ます。どんぐらい症状が悪化したんだ…………!?
そうして、身構えていると。
「ふぁぁ…………あれ、ハナさんにレイさん?どうしたんでちか?」
「…………え?」
聞こえてきたのは、弱った様子など微塵もない、むしろいつも通りのフリルの声だった。




