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異世界便利屋、トゥットファーレ!  作者: 牛酪
五章.花の国、氷華と冥府の七日間
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99.誘われるは少女と精霊

【数十分前、六花視点】


「ねぇはなちゃん、はなちゃんはどの辺を見回る予定?」


きいろがあたしに話しかける。


「そうね…………まずフリルのお見舞いに行こうかなと。あの子、大分症状が重いみたいだし…………顔を出すだけでも精神的に楽になるからって」

「はなちゃんやっさし~!慈愛の女神~」

「ちょ、やめなさいよきいろ!くっつくな!」


全くもう…………きいろは地球にいた時からずっとこう。鬱陶しくもあるけど…………やっぱり、いつも普段通りのきいろを見ていると落ち着ける。それを見越して振舞ってるのかな。


「でも複数人で行って迷惑かけるのもあれだしね~。今回ははなちゃん一人で行ってきてね」


こういう細かな気遣い、あたしには出来ないから頭が下がる…………。いつもありがとね、きいろ。


「それじゃ、行ってくるわ」


◆◆◆


フリルから聞いていた彼女の自宅を訪ねる。こぢんまりとしたファンシーな見た目の家。流石、妖精…………。


「おじゃまします」


ボビンに事情を話してもらった合鍵で、中へ。そこに居たのは…………


「けほっ、けほっ…………ハナさん、でち…………か…………?」


…………見るに堪えない程、衰弱したフリルだった。


「ちょっ、フリルあんた大丈夫なの!?」

「へ、平気…………でも、ないかも…………でち…………あは、あはは…………」


そう絞り出すフリルの顔は、本当に辛そうで。見てるだけで、目から涙が零れ落ちそうな…………いや、もう零れてる。こんな、こんなになって…………。


「ふ、フリル…………」

「泣かないでくだち…………ハナさんは何も悪くないでちよ…………」

「そんなの…………無理よ、無理に決まってるじゃない!」


友達の弱った、今にも死にそうな程弱りきった姿を見て…………平気でいられる奴なんているわけない!これも全て、七賢者の…………!


「でも、涙だけは拭いて欲しいでち…………ごぼっ、がはっ!」

「フリル!?大丈夫…………っ!?」


激しく咳き込んだフリル。でも、吐き出したのは唾なんて生易しいものじゃなかった。


…………吐いたのは、布団が赤く染まる程の血だったの。


「これ、まずいわよね!?今すぐ病院に!」


救急車の呼び方も分からないし、呼んでも多分すぐ来れない!だったら、私が病院に連れていかなくちゃ!


あたしはフリルを抱え、家を飛び出す。早く、早く病院に!


「大丈夫よフリル、あたしがすぐ病院に…………病院に…………」


そこまで言って、頭が真っ白になる。


…………あたし、ここの病院の場所なんて知らない!どうしようどうしよう!とりあえず、周りの人に…………!


そしてまた、凍りつく。度重なるテトラの襲撃で、みんな閉じこもってるから、誰もいない!道も聞けない!


「ど、どうすれば…………このまま寝かしておいても絶対ダメだよね!?」


力ないあたしはただオロオロする事しか出来ない。考えろ、考えるんだあたし…………!何か、何かいい案は…………!?


「って、あれ、玲!?」


道の先に見つけたのは玲。間違いない、ずっと後ろ姿を見てきたんだ、あれは絶対に玲だ!あたしが知らなくても、玲なら病院の場所を知ってるかもしれない!


「おーい、玲!…………ダメだ、聞こえてないっぽい!」


手を振って大声で呼びかけるも、こっちに気付いた様子はない。遠すぎて聞こえないか…………!って、路地裏に入ったわよあいつ!?見失ったら大変、追いかけないと!


フリルを抱え、必死に走る。あとちょっと、あとちょっとで玲と合流出来るからね!それまで頑張って!


「はぁ…………はぁ…………着い…………!?」


曲がり角に差し掛かり、路地裏へ足を踏み入れる。そこで見たものは…………


…………地面に空いた巨大な穴に飛び込む玲だった。


「はぁ!?ちょっ、玲!?大丈夫!?玲!?」


慌てて穴を覗き込むも、見えるのはひたすらに広がる暗闇。底がどれだけ深いのかは分からないが、浅くない事は確かだ。そんな、これって…………!?


いやでも、アイツは投身自殺なんて図るキャラじゃないし、そもそもそこまで思い詰めるほどの性格じゃない…………はず。だよね?だったら…………この先に、何かがあるって事…………?


「うぅ…………」

「フリル!?大丈夫!?…………って、え?」


フリルの身体が突然宙へ浮く。何かの魔法?だとしても、一体誰が?何のために?


ふわふわと空中を漂ったフリル。そして、おもむろに…………


「ちょっ!?」


穴の中へ吸い込まれる!?


思わず手が伸びる。そしてフリルをキャッチ…………したは、いいものの。


あたしごと、大穴へと落ちていった。



【現在 玲視点】


「おい、ただの人間が落ちてくるぞ!?ど、どういう事だ!?」


コレッタが驚きの声を上げるのも無理はない。だって、落っこちて来たのは…………


「六花!フリル!」


俺のよく知る、死者でも幽霊でも何でもない生きてるやつらだったんだから。


「え、こいつらあんたの知り合い!?」

「あぁ!俺と同じ異世界から来た六花と花の精霊のフリルだ!」

「てことは、人間と花の精霊!?マジで!?」


驚きを隠せない様子のコレッタはひとまず置いておいて、六花とフリルの元へ駆け寄る。


「二人とも、大丈夫か!?」

「うぅ…………その声は、玲?…………玲なの?」

「あぁ、俺だ!二人はどうして!?」


うつ伏せになっていた六花は、俺の呼びかけで目を覚ましたらしい。少しずつ目が開いていき、そして顔がみるみるうちに青くなり…………って、どうしたんだ!?


「玲!大変なの!フリルが…………フリルが…………!」


その口ぶりからするに、多分容態の悪化か!?どうしよう、ここ死者の世界だし治療施設とか多分無いぞ!


「うぅ…………ぅん」


気絶していた様子のフリルが目を覚ます。どんぐらい症状が悪化したんだ…………!?


そうして、身構えていると。


「ふぁぁ…………あれ、ハナさんにレイさん?どうしたんでちか?」

「…………え?」


聞こえてきたのは、弱った様子など微塵もない、むしろいつも通りのフリルの声だった。


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