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異世界便利屋、トゥットファーレ!  作者: 牛酪
五章.花の国、氷華と冥府の七日間
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98.【4日目】凍り堕ちる花園

「おはよう、みんな。よく眠れたかい」


ボビンの挨拶で、朝は始まった。


昨日の襲撃から何も成果が得られず迎えた今日。当然、場の空気は明るいはずがなかった。


「ねえ、ボビン。フリルは大丈夫なの?」

「…………それがね、まだ寝込んでるよ」


その言葉に、更に空気はどんよりとしたものへと変わっていく。


「それどころか、他の精霊達も体調不良を訴える者がちらほらいるんだ…………」

「そ、それって七賢者達が奇病ばらまいてったって事ですか!?」

「分からない。ここは元々冷える事がないからね、イレギュラーな事態に体調を崩しているだけかもしれない」


それでも、不測の事態なのは確か。場の空気はもはや、葬式と大差ないレベルの淀みを見せていた。


「…………かく言う私も体調が万全ではないんだ。倒れるってレベルではないのが幸いだけど…………この状況がしばらく続いたら、どうなるか分からない」

「…………七賢者のやつ、許せない」


六花の握った拳に力が更にこもる。…………ボビンまで倒れたら、女神不在のこの地は完全に七賢者の手に落ちてしまうかもしれない。そんなのは…………そんなのは、許せない。それは皆同じ気持ちだろう。


「…………私達が、あいつを倒すしかないわね」

「うん。絶対に…………お世話になったここは、守ろう」


だから今は、辛い状況でも絶望的な状況でも、こうやって前を向くしかない。そう、前を向くしかないんだ。


◆◆◆


「今日は各自街の見回り…………だったわね」


作戦会議後、街の広場。少し遅めの朝ごはんを頬張りながら、また話し合いが始まる。


「どうする?またペアで行動した方がいいかな?」

「んー、二人で行動しても撃退は難しそうだったから各自で動いた方がいいかもー。昨日夜なべしてパラライズの魔法を詰めた巻物作っといたから、それ使って妨害しつつ合流して叩く感じで」

「何かゴソゴソやってると思ってたらそれだったのね。やるじゃんきいろ」

「えへへー。お褒めに預かり光栄ですぞはなちゃん!」


そう言ってクッキーは皆に巻物を手渡す。


「開いて中に書いてある呪文を唱えれば簡単に発動するやつだよ~。大いに役立ててね」

「ありがとうございます、クッキーさん!これでテトラもボコボコですよ!」

「ボコボコね」

「これ単体じゃボコれないから注意しようね~」


…………何だかんだリヴィとライカのいつもと変わらない態度は安心感をくれる。この二人がいなかったら、雰囲気は葬式のままだったからな…………事件が解決したら、アイスでも奢ってあげよう…………ん?魔法端末にメールが。


『わたしにもアイスよこせ』


そっと魔法端末をポケットにしまった。


…………なんであいつは俺の魔法端末のアドレス知ってるんだよ…………おい待て、また着信が。


『じょうほうていきょう、げんざいしんこうけいでストロンガーのおっさん』


最近見ないなと思ったら、あの人は何やってんの!


◆◆◆


「よっと…………到着」


皆の目を盗んで冥府に行くのもすっかり慣れたものだ。…………それ、慣れていいものなのか?


それはともかく、冥府に到着…………って、あれ?


「なんか明るくない?」


初日来た時は薄暗い場所という印象があったのだが、今は妙に明るい。いや地上に比べたら随分暗いんだけど…………。


「来たか」


と思っていたら、ここの領主のお出ましだ。


「コレッタ、なんか冥府前より明るくなってない?」

「…………やっぱりそう思う?」


どうやら冥府の女神からみてもこの光景はおかしいものだったらしい。


「なんか今朝方から明るいんだよ。はた迷惑な亡霊が光ってるのかと思ったら誰もいないし。心霊現象かよ。いや心霊現象じゃないから困ってるんだけども」

「…………地上の光とか?」

「まっさか。やべー程の大量虐殺でも起こらない限り地上の光がこっちに差すとかないよ。もし大量虐殺があったんなら地上との繋がりが濃くなるからありうるけども」


と、コレッタが中々に衝撃的な事を…………!?


ってそれ、マズくないか!?


「コレッタ!地上の様子とか見れないか!?もしかしたらその大量虐殺が繰り広げられてるかも!!」

「は、マジ!?ちょっと待て、地上を覗けるレンズが確かここに…………あった!」


ガラクタの山を漁ってコレッタが見つけたのは小さな双眼鏡。それを目に当て、上を見上げると…………!


「…………あれ?とりあえず死んでる奴はいないぞ。衰弱してるのは数名見つかるけど」

「そうか、良かった…………いや、良くないな。衰弱って事は、直接的に言ってしまうと死にそうって事なんだろ?」

「そうだな、確かに地上のお前らから見ると大変な事態だ。でも疫病とかではなさそうだぞ。伊達に冥府の女神じゃない、それくらいは分かる。ただ…………」

「ただ?」


その前置きの仕方、なんかやばそうなものが続きそうな気がするんだけど…………?


「なんだか嫌な予感がする、これは私が直々に動かないと……………………は?」

「ど、どうした?」


上を見上げ、フリーズするコレッタ。つられて俺も上を見上げると…………


「…………はぁ!?」


何かが落ちてくる。…………いや、その正体は分かりきってる。それは…………


「おい、ただの人間が落ちてくるぞ!?ど、どういう事だ!?」


フリルを抱えた六花だった。

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