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異世界便利屋、トゥットファーレ!  作者: 牛酪
五章.花の国、氷華と冥府の七日間
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96.【3日目】『しずくん』の理由?

「ふあぁ…………ねむ」


日の出すぐの早朝、まだおぼつかない足取りで例の場所に向かう。…………今日はペア行動だからな。とはいえ、特訓してもらうために早くコレッタの所に向かわないといけないし、かといって冥府の事を皆に知られる訳にもいかないし…………。


という訳で、朝早くに出て稽古をつけてもらい、散歩だったとでも言って帰ってくる事にした。クッキーのやつ無駄に目ざといからな、こうでもしないと撒けないだろ。


「良し、着いた。…………って、うん?」


穴の前に辿り着いたその時、ズボンのポケット越しに身体に伝わる振動。魔法端末の着信だろうか…………って、うげぇ!?


「く、クッキーじゃん!あいつもう起きてんのかよ!」


最悪な事に通信魔法をかけて来たのはクッキー。嘘だろ、まだ日が出て間もないぞ!昨日爆睡してた人とは思えない…………って、本当にまずい!


俺は着信音が鳴り終わる前に、穴に飛び込んだ。もうすっかり慣れた浮遊感が身体に伝わる。着地前に霊体化して、衝撃をしっかり回避。


着信音はすっかり鳴り止み、画面には『圏外』の文字。…………何とか撒けたみたいで助かった。


「…………えーっと、コレッタは…………あ、あそこか。おーい」


目測三百メートル程度離れた場所にいたコレッタに声をかける。


「ひゃびゃっ!?」


…………すると、今まで聞いた事のないような可愛い声をあげて驚きながら、こちらを振り返った。


「…………あんたなにこんな早朝から来てんの。ふざけんな。帰れよ。死ね。死んでたわ。じゃあ成仏しろ。それも違うな、地獄に落ちろ」


…………何故、俺は早朝に来ただけでこんな罵詈雑言を浴びせられているのだろう?


「ご、ごめん。でも何でそんな怒って…………」

「うっせバカ。超絶バカ。ミラクルウルトラバカ。ワールドクラスビックバンバカ」

「どんなバカだよそれ」


何が機嫌を損ねたのかコレッタはそっぽを向いてしまっている。…………本気で何かまずい事したか、俺…………?


「早朝だし髪ボサボサだし…………こっちだって女神だぞ、最低限の恥じらい位あるわ。一応の乙女だわ。バカ」


あっなるほど、そういう。言ってしまえばすっぴんの状態を無理やり覗きに来たようなもの…………うん、それは大罪すぎる。怒るのも納得。超納得。ていうか、本当に申し訳ない。


「ごめん、そこまで配慮が行き届いてなかった」

「…………まぁ謝るなら許すけど。何だかんだあんた、数少ない話し相手だし。寛容な女神様に感謝しなよ」

「本当にすみませんでした!」

「…………ん、もういいよ。顔上げな」


どうやら許して貰えたようだ。顔を上げると、コレッタの顔が視界に入る。…………すっぴんでも十分綺麗だと思うんだけどなぁ…………って、あれ?


「何か数日前より顔色良くなってない?」

「…………じろじろ見んなし。何も手入れしてないって言ってるのに」

「いや本当に、出会った時は青白さ極めてたけど…………何か生気があるっていうか、そんな感じ」

「…………こちとら冥府の女神だよ?それに生気って、何の冗談さ」


そう言いつつも、コレッタは懐から鏡を取り出して自分の顔を確認する。


「確かに赤みが差してるな。でも、これは…………」

「これは?」

「っ!うっせバカ、バーカ!さっさと特訓だ、強くなりたいんだろ!」

「急にスパルタ!?」


何故か急に指導モードのスイッチが入ったコレッタに気圧され、今日の特訓を始めるのだった…………。


◆◆◆


「あーもうどこ行ったのさー、しずくーん…………。朝から探してるけど見つからないよー…………」

「呼んだか?」

「うるさいなしずくん。今しずくん探してるんだから…………って、ありゃ!?」

「よ、クッキー」

「どこ行ってたのさ!クッキーちゃん探したんだよ~?」


あの後数時間で特訓を終えた俺は、昼前には地上に帰還。バレないように路地から退散後、クッキーを見つけたので、こっちから声をかけた。こうした方がコソコソ隠れて何かしてたとの疑惑をかけられにくいからな。


「まぁ、ちょっと色々あって。散歩してたら道に迷っちゃって」

「魔法端末鳴らせばいいじゃーん、あたしだって何回もかけたよ?」

「あ、そんなのあったな。ごめん、電源切ってた」

「んもー!…………っていうか、さっきのあたしの『何回もかけたよ』って発言、何か計り知れないエロスを感じない?」

「お前にはそれ着いてないだろ!」


…………どうして俺の周りには下ネタ星人が多いんだろうね。まぁ上手くごまかせたみたいで助かった。


「んもー…………あ、そうだ。お昼過ぎ頃七賢者の調査だし、お昼でも食べない?丁度いい時間帯だし」

「そうするか?」

「うんうん、そうしよー。えへへー」


クッキーに促され、昼食をとるべくお店を探す。…………思えば、こいつと二人で出歩くなんて初めてだな。腐っても女子だし、少し緊張する。


「しずくんしずくん、あそこなんかどう?行列が出来てる所!」

「あそこ何屋だ…………?って、ラーメンか!こっちでも伝わってるんだな」

「あたし達みたいな人が広めたのかもね~。どう?並ばない?」

「いいな、賛成」

「わーい!あたし味噌がいいー!」


待ち時間一時間と書いてある張り紙を確認し、最後尾に並ぶ。待つのは大得意だ、幾らでも待っていられる。一人って訳でもないし、話も出来るしな。


「ねぇねぇしずくん」


並び始めてすぐ、クッキーが話題を振る。


「どした?」

「そちらのお仲間さんとはどうなの?」

「…………聞きたいか?」

「うん、とんでもないエピソードどんとこいだよー」

「そりゃ良かった、とんでもないエピソードしかないからな」


そこからは自然に話に花が咲いていき、互いの仲間、友達の話で盛り上がる。そして五十分は経っただろうか、列ももう少しになってきた所。


「しずくんって好きな子いないの?」

「えらく急だな!?」


爆弾発言を降ってきた。


…………大分ストレート投げてきたな、こいつ!


「…………いないけど」

「へー、ふーん。へー」


瞳をしっかりと開いてまじまじと見つめてくるクッキーに、少したじろぐ。


「な、何だよ。嘘じゃないぞ」

「うんうん、分かってるよー。それがしずくんの本音だよね。クッキーちゃんは察しがいいからね」

「本当かよ…………」

「…………そういうしずくんは察しが悪いよねぇ」

「…………どういう意味だよ」

「ひみつー」


ったく、こいつは相変わらず掴み所がなくて困るんだよ…………。


「…………ねぇ、しずくん」

「…………何だよ」


またとんでもない事聞くんじゃ…………。


「あたしがどうしてしずくんの事、しずくんって呼ぶか分かる?」

「…………俺の名前の漢字を『雫』と間違えてたからだろ?」

「ふっふっふ、それだけじゃないんだなー。特別に教えてあげよう」


…………ここで言うって事は、さっきまでの流れと何か関係があるって事なのか?


「それはね…………」


クッキーが口を開いたその時。


「うわぁぁぁぁ!?ま、街に急に氷が!?だ、誰かー!!」


二重に最悪のタイミングで、襲撃は起こった。

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