94.対決テトラ、再び!
「走れ走れー!力抜くな、全力ー!!」
「はぁ、はぁ…………これ以上は、無理…………」
「ここに来るどっかのメイドに雇用主を傷付けたって言うよ」
「無理じゃない!いけます!!」
どーも、コレッタに七賢者対抗策がないか尋ねてみた所、『お前が強くなればいいだろ』との至極真っ当でごもっともなご指摘を頂き、スパルタ式のトレーニングを課された俺です。現在は基礎体力作りのランニング。
正直もう体力が限界に達してるけど、エクレアさんの名前が出てしまったからには死ぬ気で走るしかない。だって、下半身を潰される訳にはいかないから…………!
「今、五百メートルを十周か…………あと十周、マストね。もっと走れるなら追加するよ」
あと五キロも!?笑顔もなしに淡々とノルマを伝えてくる辺り、まさに鬼教官!でも、やるしか…………!
「ほら、ぼさっとしない!走った走った!」
ひー!
◆◆◆
「はぁはぁ…………お…………終わった…………」
「ん、お疲れ。はい水」
「あ、ありがと…………んぐんぐ…………ぷはー!」
水って、こんなに美味しいものだったっけか。元々インドア派だったし、こんなに自分を追い込んで運動したことなんてなかったから、運動の後の水の喜びってものがより大きく感じる。
「これで、少しは体力着いて強くなれたかな…………!」
「は?何言ってんの、こんな短時間で強くなれたら世の中の人達みんな激つよだっての。甘えんな」
手厳しい!
「だけど、トレーニングの時間も限られてるし…………仕方ないから、反則気味だけど強くなれる方法、教えてあげる」
「だ、だったら最初からそれを教えてくれれば…………」
「基礎体力がないと消滅するかもだけど、いいの」
「俺、トレーニング大好き!」
消滅って、一体どんな方法なんだろうか…………
「いっぺんに伝授するとマジで消し飛ぶかもだから、分けて教えてく。そーね…………今日入れて六日位あれば足りるかな」
「お、おう…………消し飛ぶ…………まぁ、あと花の国に六日位滞在する予定だから、ちょうどいいや。で、その方法って?」
「それは…………」
◆◆◆
「よっと…………華麗に脱出」
…………そうでもないや。
まぁそれはともかくとして、戻ってきた花の国。現在時刻、二時五十分。教えてもらった戦い方、披露する時だ…………!路地裏から出て、向かうは花の国入口…………
「あら、レイ」
「ぎょえー!?…………り、リヴィか」
…………冥府から出てきた所、見られてないよな?
「あの…………見た?」
「レイのパンチラなんて需要ないわよ」
「ちげぇよ!っていうかズボンなのにどっからチラするんだよ!」
「じゃあ何?何かしてたの?」
「あー、見てないならいいんだ。何でもない」
「そう。それより、そろそろ三時だよ全員集合よ」
「五時間早くない?」
あとお前はなぜそのネタを知っている…………?異世界でも通じるネタなの、それ?
「…………まぁ、それで入口に向かう所だったんだよ。一緒に行くか」
「えぇ」
リヴィと歩き、数分で門へ到着。そこには…………
「あっ、レイくん!どこ行ってたの!?」
「あんたどこ行ってたのよ!?探したんだからね!」
うわー、そうだった…………この人達撒いたんだったよ…………。
「ていうか、何でリヴィと一緒にいるのよ!?」
「まさか、デート!?デートなの!?それでわたし達から逃げたの!?」
何やら物凄い勘違いをしている…………なんだかまずいぞ、これは拳が飛んできそうな…………
「え、修羅場ですか?修羅場ですねこれは。レイさんったら見かけによらずやりますね」
「ふむふむ…………はなちゃんもやるねぇ~。ご飯がおいしくなるからもっと修羅っちゃっていいよ~♡」
他人事だと思って気楽だな、ライカとクッキー!朝寝てた癖に、後で覚えてろよ!
まぁそれはともかく、ここは何とか説明しなければ!
「違う、リヴィとはさっき会ったんだ!だよな、リヴィ!?」
「そうね、さっき会っただけよ。私は一人でスイーツバイキングに勤しんでたわ。たらふく食べたわよ、たらふく」
戦いの前にたらふく食うなよ。動けなくなっても知らんぞ…………。
「じゃあ、デートじゃないの?」
「そういう事」
「…………ふ~ん」
「な、何その目」
チベットスナギツネみたいな視線が突き刺さる…………信じてもらえてないなこれは、どうする…………
「…………何やら楽しそうですね、貴方達は」
あっ、ナイスタイミング!
「ああっと七賢者!こんな事で争ってる場合じゃないぞお前ら!アイツを倒そう!!」
「逸らされた…………でも、争ってる場合じゃないのは同感!がんばろ!」
「後でみっちり絞ってあげるから、覚悟しなさいよね!」
つかの間の逃走には成功したけど、後でのおしおきが確定しちゃったよ…………でも、そんな事言ってるタイミングじゃないよな!
「前回は不意を突かれて退却せざるを得ませんでしたが…………今日こそ貴方達諸共この国を氷の檻に閉じ込めてあげます」
「そんな事されてたまるもんですか!行くですよ皆さん!便利屋+勇者パワー、見せてやりましょー!」
戦いの火蓋は、今切って落とされた…………!
「ごめんなさい食べすぎた、ちょっとトイレ」
「あっちょ、リヴィ!?どこ行くのよ!?」
緊張感ごと、切って落とされた…………!
戦いの前にスイーツなんか食べてるからだよ、あいつめ!
「…………何やら阿呆もいたようですが…………いいでしょう、ここにいる奴らは全員氷漬けです。…………大神官様、見ていてください。テトラ、やってみせます」
…………大神官様?
「まず手始めに…………『アイスジャベリン』ッ!!」
「うわっ、危なっ!?」
咄嗟に身を躱すと、先程まで俺がいた位置には氷の槍が突き刺さっていた。これは、考え事をしてる場合じゃなさそうだ…………!
「レイくん、大丈夫!?」
「あぁ、何とか!」
「そっか、良かった…………じゃあ、こっちも反撃に出ないとね、ハナちゃん!」
「そのつもりよ!敵を切り裂け…………燻銀剣!」
「『プロミネンス・ナックル』ッ!!」
六花の剣とルミネの拳が、テトラへと吸い込まれていく!これは、決まった…………!?
「…………その程度ですか」
「なっ…………!?」
と思いきや、氷の盾で防がれた!あの時の熊と同程度、いや…………親玉だからそれ以上か!となると、簡単には貫けない…………なら!
コレッタに教えてもらった、あの技で!
「ライカ!クッキー!」
「何ですか、レイさん!?」
「光魔法、使えるか!?」
「え、光魔法?いいですけど…………それっ!」
「できるよ~!そぉい!!」
ライカの指先とクッキーの杖先から、光が放たれる!今だ!
「『憑依』っ!」
「え、嘘ぉ!?そんな事出来るんですかレイさん!?」
それが、出来るんだな!
魔法を使うと同時に、眩い光に取り込まれる感覚が走る。いや違う、一体化したんだ!成功だ!
これが、これがコレッタに教えてもらったテクニック『魔法にも取り憑ける』だ!
どうやら命がないものなら基本なんでも取り憑けるようで、それは魔法も例外じゃないんだとか!いや、いい事教えてもらったな!
『という訳で、光全開!』
「くっ、眩しい…………!」
「ライカ!ふっ飛ばしたれ!」
「えっ!?あ、あれですね!えっと、威力を調整して、こう…………どかーん!」
「きゃああああ!?」
ライカの爆発魔法がテトラの足元から炸裂、その衝撃で、テトラは大きく吹っ飛ばされる!
「空の彼方へ、行ってらっしゃい!!」
よっしゃ、とりあえず撃退成功!
「…………吹っ飛んでっちゃったね」
「…………倒してないけど、これで良かったのかな~?」
…………確かに。今出来る精一杯の手段を試したら、ただその場しのぎの策になっちゃったな…………あれ?それってまずくね?明日も戦いじゃん。
「待たせたね!長老、華麗に参上!さあ七賢者テトラ、神妙にお縄に…………あ、あれ?どこ?」
…………二日目の戦いは、何だか締まらない感じで終わった。




