93.【2日目】再びの冥府
「皆さん、おはようございまち!今日はお集まりいただきありがとうございまち!それでは、今日の作戦を発表しまち!」
「わたしとレイくんとハナちゃんしかいないんだけど」
変な幽霊と風呂で遭遇した翌朝。俺達は、六花達と合同の対七賢者作成会議に呼ばれていた…………んだけど。
リヴィ…………寝坊。
ライカ…………爆睡。
クッキー…………快眠。
という訳で、俺とルミネと六花だけの参加。あいつら…………叩いても転がしてもマジで起きないんだわ…………。
「えーと…………まぁ後で伝えてもらえれば大丈夫でちよ!」
「ほんとにごめんねフリル…………後できいろはしばいとくから」
「ところで、作戦と言ってもどうするんだ?」
フリルに問いかける。奴らの襲撃自体は確定事項だけど、いつ攻めてくるか分からないんじゃ作戦を立てるのは難しいのでは?
「実は、調査班が向こうの動向を探ってくれて大体の襲撃時刻は割れてるんでち」
「マジか!じゃあ、その時間に合わせて皆で対応するって事か」
「そうなりまち!その時間は午後三時、その時に門の前で迎撃してほしいでち!ただ、ずっと張ってると警戒されると思うのでギリギリまで別行動をしてほしいでち」
「つまり、三時までは各々自由に過ごして三時になったら一斉に門へ突撃…………って事?」
「そうなりまちね」
なるほど…………要するに警備が薄いように見せて警戒を解きつつ奇襲をかけるって事か。六花ときいろは勇者として呼ばれてる実力派だし…………勝機はあるな。
「という訳で、観光なり戦いの準備なり、各自で考えた行動をお願いしまち!」
◆◆◆
「どうする?」
「あたしはとりあえずこの後きいろを起こして装備品を探しに行くかな。花の国の防具、加護が着いてて凄いらしいから」
俺の問いかけに、六花はそう答える。…………起こす所が物騒だな…………。
「ルミネは?」
「わたしもリヴィちゃんとライカちゃんを起こして、その後は…………装備品とかは必要なさそうだし、観光でもしてぼちぼち時間を潰すよ」
なんかこの人達、寝てる人に対しての行動が軒並みバイオレンスだな…………。どつくって、お前。最近聞かないぞそんな表現。
「レイくんは?」
「そうだな、俺は…………」
昨日冥府に落ちたから花の国あんまり回れてないし、普通に観光でも…………
…………って、そうだ!冥府に行って、なんか対七賢者のアドバイス聞くってのはどうよ!?死者の世界を統べる神なら戦い方も教えてくれるだろうし!…………いや神なら寧ろちっぽけな人間には教えてくれない?貢物でも持ってくかな…………。
「どしたの?」
「あぁ、いや何でもない。俺も観光しようかな」
「なるほど。じゃ、じゃあ、わたしも一緒に…………」
なに、一緒に!?それはマズい、そうなると冥府へ行けない!それよりなんか鋭い視線が六花から飛んできていて凄く痛い!ここはなんとかこの場を切り抜けなくては!えーと、えーっと…………!
「あーっ、あんな所にうのりのりみたいな生物が!!」
俺の馬鹿野郎!いくら思いつかないからってそんな分かりやすい嘘に二人が引っかかる訳が…………
「えっ、嘘!?どこ!?」
「ていうかうのりのりって何!?凄く気になるんだけど、どんな生物よそれ!?どこなの!?」
引っかかった!?ともかく、チャンス!走れーっ!!
「あっ、ほんとだ、いた!!何あれ!?」
「どうしたのあなたたち、そんな騒いでおばちゃんびっくりしちゃ…………あら、ヤキカバニーじゃない。蒲焼に乗ってるイカすうさぎよ」
「何なのよ、その生き物!」
後ろからそんな声が聞こえる中、不意を突いて脱出成功…………って、ほんとにいたのかようのりのりみたいな生物!?ヤキカバニーって何だよヤキカバニーって!…………凄く気になるけど今は撒く方が最優先、退散だ!!
◆◆◆
「はぁはぁ…………ここまで来れば大丈夫か」
ヤキカバニーに後ろ髪を引かれながらも、何とか撒いて路地裏へ。ここに来るついでに手土産も調達し、準備はばっちり。
「えーっと、大穴が今でも空いてると手っ取り早いんだけど…………あっ、あった」
路地裏に存在する場違いな穴は今日も健在な様子。なら好都合だ、飛び込め!
体が浮く独特の感覚に身を委ねながら、ひたすら落ちていく。霊体化して着地時の衝撃を受けないようにして…………着陸!
見渡すと、そこは昨日見たばかりの景色。…………よし、ちゃんとこっちに来れたな。
「…………あんたまた来たの」
降り立って早々、聞き覚えのある声が。この声は…………
「そう、また来た。昨日ぶり、コレッタ」
「…………あんたってほんと変わってんのね。こんな陰気な所にまた来るとか」
冥府の女神、コレッタだ。
「で、何?まさかまたおっこって来たの?ドジっ子かよ。わんぱく盛りの五歳児でも二回も大穴落ちないでしょ。バカなの?死ぬの?死んでたわ」
「その…………その前に、これ」
コレッタに、持ってきた手土産を手渡す。
「え…………何これ」
「手ぶらで来るのもどうかと思って、花の国のお菓子買ってきた」
「……………………へー」
うーん、菓子類はあんまり好きじゃなかったのかな…………。
「何あんた、冥府の女神に供え物っての?へー、はー、ふーん。ま、女神だし?そういうの信仰心からだよね、うん知ってる。だよね。だよな。」
「いや供え物っていうか贈り物かな」
「………………」
やべ、黙っちゃった…………地雷だったか…………。
「………………ま、受け取るけど。ここにたまに来るやべーギャルのリッチよりかは感謝の念を抱くに値するから感謝してあげるけど」
「俺そのリッチ知ってる気がする」
「それでも感謝レベルは底の底辺…………マジか。今度文句言っといてくれない?あいつ『化粧は乙女の嗜みだし!女神様もやってみよっ!』とかなんとかウザイのよ。あたしは死人の王みたいな感じだからファンデーションしなくても肌青白いっての。ははは、くそやろう」
何故ここに侵入する人は俺の知り合いばかりなのだろう…………。いや俺も侵入してるし大概か。
「で、何?今気分は良い方だから話くらいなら聞いたげる。気分悪くなったら蹴り入れて現世に突き返すけど」
…………あ、でもなんか心なしか嬉しそう。普段贈り物なんか持ってくる人いないだろうしな、やっぱり成功だったか。
「あの、実は…………」
事のあらましをあらかた説明し、コレッタは一言。
「事情は把握。つまり、あんたは七賢者とやらに対抗する手段を探してんのね」
「そういう事。女神的な知見で何かいい案ない?」
「ふーん…………ま、あるにはある」
「マジか!」
それは有難い!まさか向こうも女神と繋がってるなんて想定しないだろうから、奇襲をかけられる!果たして、どんな作戦なのか…………。
「で、その案って?」
「で、ってそりゃ、あんた…………」
コレッタは、そこで一息吐くと。
「スパルタで特訓して強くなるしかないじゃん」
そんな、脳筋な案を繰り出した…………。




