94話
「ま、いっか。特理が邪魔しないってんなら、ソレはソレで大助かりだし……にしても、学校か……」
適当に思考を切って、もう一つ思い出したコトに意識を移す。
学校――学校か……
当然、『んなトコ行ってる暇ねえよボケ』と斬って捨てるトコだとも思ったんだけど、今さっきのコトを思うと『チョット待て』となるワケで。
え~っと、僕は今父さんと母さんと兄さんを呼び起こす為に莫大で膨大で無際限な干渉出力――即ち魔力が必要になるのだけれど、この体感一日でやった自滅紛いの魔力生成は一回やるごとに短くないインターバルが必要になる。
だから、今回できたのは回数にして実はたったの三回? か四回? だけ。
うん、少しでも加減を失敗すると記憶が曖昧になるってのも問題の一つだね。
それでも、魔力はそれ相応の量を練られたワケだけれども、当然のように必要量には届いてないし、ついさっき特理からの来襲があった以上は今後万一の襲撃の可能性に備え、これ以上意識トバすようなマネは避けるべきだろうし。
となると、他の魔力稼ぎを考えなきゃだけど、ソコで出てくるのがさっきの特理連中だ。
『殺気が~』なんて言うと安っぽくてイヤだけど、連中の存在を知覚してから――いやもっと言えば、配置に着いてから銃口を向けてきた辺りとか、何かしらの魔法でも使おうとしてたのか魔力の高まりを感じた時とかにソレを知覚できちゃって、スゴくイライラしたんだ。
そんでもって、そのイライラが魔力へと変換されてたワケなんだけど……
まあつまり、何が言いたいかと言うとだ、『ストレス負荷の多い所に身を置けば、そのストレスの分だけ魔力が得られるのでは?』って案を思い付いたのです、ハイ。
……うん、自分で言っててマゾ度高いけど、でもソレを言ったら気絶寸前まで自分追い込んで魔力生成ってのも似たようなモンだし、ソレにコッチの案なら少なくとも特理連中は手出しできないハズだ。
だって、ワザワザテメエの施設をあんな大仰な結界で隠したり、魔界へ続く道が公道の近くにあるって事実を今も秘密にし続けてて、その上自分たちの存在だって公表してないような連中だからね。
十中八九、この手の能力者系バトル物にありがちな『力の存在は一般人には秘密にする』的な組織だよ、アイツら。
なら、学校なんて言う人目につくような場所で無茶はできないだろうし、通学路でだって同じでしょ。
幸い、父さんと母さんには異空間に居て貰えば危害を加えられる心配はしなくて良いだろうから、出歩いたって問題は無い。
まあ、懸念があるとすれば、特理以外に魔物に興味津々なヤツらが居た場合だけど……
ま、居たら叩き潰してチョッカイ出されないようにするか、空間魔法でも使って地の果てまでも逃げられるし、そもそも『居る』って前提すら曖昧な現状で心配するだけ無駄ってカンジでもあるから、基本は出たトコ勝負になるかな。
……なんて、こんなコト考えてると『ホントに居たよ、ざけんな』フラグにしかならなそうだから、こーゆー不吉なもしも話は止めにしようか。
とにかく重要なのは、感情の昂ぶりが魔力生成に繋がり、学校はソレに適した場所で、特理の邪魔は言うほど心配しなくても良さそう、って三点だ。
でもって、一刻も早い父さんと母さんと兄さんの復活を望むなら即行動あるのみなワケだけど――と、ふと上げた視線の先には短針が十を指そうとする壁掛け時計が。
どうやら、伯父さんを見送った後から自然と動いていた足がいつの間にか居間に到着していたみたいなんだけど……こうして改めて見ると広いな、この部屋。
何年も暮らしてきて、毎日毎日ココで父さんや母さんや兄さんと御飯を食べて、何度も何度も平凡な日常を繰り返してきて、いつだって暖かい場所だったハズなのに……
なんだか、酷く、物寂しく感じるのは――まあ、今更理由を考えるまでも無いね。
居るべき人が居ないってだけじゃなく、異物があるって間違いが、この部屋の空気を損なってる、たった数日前まで確かに在った温もりを否定してる……
言葉にすればそんなカンジかな。
いや~、泣き系にありがちな感傷を実体験するハメになるなんて。
ホントにもう――ああ、ムカつく。
あの魔物共ホントクズだな、死ねば良いのに……って、思いっ切り息の根止めまくってやってきたけどさ。
「――チッ……魔力的には良いが精神衛生には最悪だな。そもそも、自分からイラつきに行くとか健常者のやるコトじゃねえよ」
ホント、自分で決めておいてアレだけど、絶対に頭オカシイよね。
ワザワザ不快な思いするタメに学校行くってのも、そもそもたかが無能共の豚箱に行く程度のコトがストレスになるってのも。
ま~、決めたからには、グダグダ言わずに行くだけだね。
今日はこのままサボるけど。
だって、今日授業無いし。
無駄話を立ちっぱで延々聞かされ続けるだけの始業式と、紙切れ一枚に纏められそうな程度の連絡事項を伝える為だけに一時間以上拘束されるホームルームとか、ワザワザ行く価値無いだろ畜生め。
ってなワケで、『明日から不快で無価値でゴミみたいな学園編がはっじまるよ~☆』ってコトで♪




